第54話
パッと見ただけでは分からんのう。
しかし、ワシには『鑑定』があるのでな、それで確認したのじゃが……
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名前:
種族:人(隠蔽:
状態:正常
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これが、目の前にいる若者の情報。
注目したいのは職業と種族の部分じゃが、種族に模造と付いておるのじゃから、この若者は人為的に作りだされたホムンクルスと言うヤツなのじゃ。
そして、職業の『模倣士』と言うのは、簡単に言えば他人の魔法を『条件が揃っている場合、真似る事が出来る』、と言う条件付きじゃがそれなりに強い職業なのじゃ。
ただ、その条件が『模倣する人物に直接触れる』と言う物で、使いにくいのじゃが、ホムンクルスの場合、使える様に調整すれば良いのじゃし。
「幸いにして、ホムンクルスの材料には事欠かんじゃろうしの」
「「ホムンクルス!?」」
その言葉で、目の前に座っておるソバンとかいう男が、パクパクと何か言おうとしておるようじゃが、声が出んようじゃな。
おぉ、汗が文字通り滝のように出とるのう。
教会は文字通り、沢山の人を弔っておる場所なのじゃから、人一人分の材料を集めるなど造作もないじゃろう。
何処かの機械鎧を付けておる兄弟に言わせれば、『人の材料は子供の小遣い程度で買えるほど、意外と安っぽい』らしいしの。
王族しか使えぬ魔法だとしても、長い間、姫の治療と称して王城に出入りしておるのじゃから、入手するのは簡単じゃろう。
陛下とヴァーツ殿が驚いて
余程、腕の良い錬金術師が教会にはおるのじゃろうな。
「ホムンクルスを作る事はとうの昔、教会自体が禁止したハズだったね?」
「何でも作るのに犠牲者が増えた上に、教会のお偉方だかに成り済まそうとしたってんで問題になったんで、大々的に禁止したって話だったが……」
「あぁ、そうだったね、確か教会に妻子の治療を拒まれた術者が、治療しなかった事を恨んで当時の教会を乗っ取ろうとして、ホムンクルスを作って大変だった覚えがあるよ」
ニカサ殿が、あの時は大変だったね、なんて思い出すように言っておるが、まるでさも見てきたようじゃな。
まぁ実年齢が謎じゃし、もしかしたら、長命種の血が流れておるのかもしれんし。
そうしておると、ソバン殿……もうソバンで良いか、ソバンが溜息を吐いて、ホムンクルスの方を見る。
「……こうなっては止むを得んですな」
そう言いながら、立て掛けておる杖を手にしてどっこいしょと立ち上がると、ホムンクルスに向けて杖を向けたのじゃが、諦めた……訳は無いの。
こういう輩は総じて諦めが悪いものじゃ。
「ここまで長く準備をしたものの、まさかこんな小娘に見破られてしまうとは思いませんでしたよ。 そこにいるニカサ殿ならともかくとして……」
ニタリと笑うソバンが、ワシを指差す。
まぁワシの場合、鑑定とかあるんで分かったというものなんじゃが、敢えてそこは言わんでおくのじゃ。
しかし、ここからどうするのじゃろうな。
ソバンを鑑定した所、戦いを得意としておるようでは無かったのじゃが……
ホムンクルスにしても、王族特有の魔法は使いこなせれば強いのじゃろうが、アレは本格的に訓練せぬとそこまでじゃないしのう。
「まぁ最低限の準備は出来ましたのでね、そろそろ邪魔な王族には退いてもらおうと思うのですよ」
「儂、いや王族が邪魔だと!?」
「えぇ、こうして王族としての魔法を使える者が此方にはおりますし、この事を知るのは幸いにしてここにいる者達だけですし……」
言いながら、ソバンが杖を今度はヴァーツ殿に向ける。
しかし、無駄に装飾に凝った杖じゃの。
「乱心なされたルーデンス殿により我々以外の全員が死亡、ルーデンス殿は決死の攻撃を行った陛下と相打ち、王族を続けて失った民の為、実は隠し子を教会が保護しており、以降はその隠し子を王位に据えて、教会が補佐をしていく。 どうです? 民が喜びそうな内容でしょう?」
随分と自慢げに言うが、ヴァーツ殿が乱心なんてする筈ないじゃろ。
という事は、こやつ、ヴァーツ殿を相手にしても勝てる様な、何か奥の手を隠しておるな?
ワシの鑑定でも見えぬという事は、恐らく、見える場所には付けておらん。
ここら辺は、直接見なければならぬという鑑定の不便な所じゃのう。
「随分な言い草だがね、この場でどうにか出来ると思ってんのかい?」
「ニカサ殿こそ、我々がどういう組織なのかはお分かりではないですか?」
その言葉に一瞬だがニカサ殿の顔が歪んだのじゃが、直ぐにいつもの表情に戻ったのじゃ。
どうにも、ニカサ殿と教会の間には過去に何かあったようじゃの。
まぁ今は対処するのが先決じゃな。
「取り敢えず、『マルチ・スタンショット』じゃ!」
「『フル・ボディ』」
ワシの放った麻痺魔法を、ソバンの前に飛び出したホムンクルスが受け止める。
ふむ、麻痺した様子が無いという事は、ホムンクルスには耐性があるのか、それとも、発動した魔法に原因があるのかじゃな。
とはいえ、やはりマルチ化させても、肉壁があっては対象に届かんなぁ……
要改良じゃな。
「ヴァーツ殿、陛下とニカサ殿を速く避難させて欲しいのじゃ」
「そりゃ構わんが、援護は必要か?」
「援護する暇は無いと思うぞ? そこら中に支援者がおるじゃろうから、部屋の外に出たら罠があると思った方が良いの」
ワシの言葉に、ヴァーツ殿が嫌そうな表情を浮かべておる。
そりゃそうじゃろ。
民の中にはさっきソバンが言った事を、盲目的に信じる民だけではないのじゃ。
当然、時間が経てば、真実に気が付く民が出て来るじゃろう。
そうした民はどうすれば良いのかと聞かれれば、単純な事じゃが、そう言った民を出さねば良い。
地球で言うなら上の者が『情報操作』をして、民が疑問に思わぬ様に操作すれば良い。
この世界での民が情報を得るのは、主にそれを見聞きした者による人伝になるのじゃから、操作もしやすいじゃろう。
「それとワシの方は問題無い。 そろそろアッチも来るじゃろ」
そう言うと、ホムンクルスの右腕が陛下の方を狙って伸びる。
おぉ、まるで某漫画に登場する悪〇の実の能力者じゃな!?
兵士の一人がテーブルに手を掛け、一気に持ち上げた事で何とか防げたのじゃ。
「よくやったのじゃ! 『ロックダンパー』!」
ホムンクルスの足元が盛り上がり一気に噴出。
そのまま壁に突っ込んで瓦礫に埋もれたが、あの程度では多分駄目じゃろうな。
それを見ていたソバンが杖を振るうと、その周囲に小さい球が無数に現れた。
見る限り、それぞれが別々の属性のようじゃな。
「我が手に掛かる事を名誉と思いなさい、『オール・レイン』!」
こりゃワシはともかく、陛下達の方が流石に不味いのう。
咄嗟に構築した防御魔法を展開するが、いや、コレいつまで撃ち続けられるんじゃ?
と言うのも、ソバンが杖を振るう度に魔力の球がどんどん増えていくのだ。
もしかして振るうだけで、周囲の魔力を吸って魔法を発生させておるのかの?
そうして魔法を防いでおると、吹っ飛ばしたホムンクルスが瓦礫の中から出て来るのじゃが、着ておった服がボロボロになっておるだけで、特にダメージを受けておる様子は無い。
コレは頑丈と言うより、多分、何かカラクリがあるのう。
「やっと出てきましたか。 構いません、全員を喰らいなさい」
ソバンの指示で、瓦礫の中からホムンクルスの左腕が大きく溶ける様に大きくなり、陛下達に覆い被さる様に広がっていく。
じゃが、ワシはソバンの放った魔法の対処で手一杯。
このままでは陛下達の援護が間に合わぬ!
「させません! 焼き尽くしなさい『レイザー』!」
「ナイスだ、吹っ飛べ『轟爆拳』!」
陛下の護衛におった兵士の一人が前に躍り出て、右手を突き出すと、巨大な閃光が広がりホムンクルスの左腕を消し飛ばしてバランスを崩させ、続けて飛び出した兵士が、ホムンクルスの身体を殴り飛ばした瞬間、爆炎が巻き起こり更に吹っ飛ばされて、そのまま窓から外に落ちていった。
うむ、保険は掛けておくものじゃな。
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