第51話




 教会から豪華な馬車が出発するのを確認する。

 この後、あの馬車は王城へと向かい、しばらくは戻ってこない予定となっているが、何事にも絶対は無い。

 さっさと見付ける物を見付け、合流しなければならない


「レイヴン殿、馬車は行ったがまずは何処を探すのだ?」


 そう言って来たのは、俺と同じ様にローブを頭から被っているノエルと言う名の女騎士だ。

 そして、俺達がいるのは教会の見える狭い路地裏。

 見付かる訳にはいかないのだが、かなり狭い。

 男二人に女一人だからな。


「それより、どうやって入るんだ?」


 イクスが動き辛そうに聞いてくるが、そんなのは決まっている。


「堂々と真正面から行くに決まっているだろう」


 俺の言葉に二人が驚いているが、まぁ秘密兵器は預かっているので大丈夫だろう。

 そんな二人を連れて、教会の正面入り口扉に向かうが、厳密にはそこに向かっている訳では無い。

 正面入り口脇にある関係者専用の入り口に行くと、そこには警備として教会兵が二人いたが、その二人に懐からある物を取り出し見せる。

 暫くすると、二人の視線が泳ぎ始めたのを確認し、二人の耳元で『此処には誰も来ていないし、何も見ていない』と囁く。

 そして、ゆっくりと扉を開けて中を確認、誰もいない事を確認してさっさと中に入る。


「さっきのは一体……」


「魔道具の一種で、注視すると深い催眠状態になるだけだ」


 催眠と言っても、意志力が強い相手には通用しないんだがね。

 それに、何度も使える訳じゃない。

 さて、まずは手掛かりから探さねば。


 教会内で働く神官達から隠れつつ、この教会での権力の頂点である枢機卿の部屋に到着。

 先程、馬車で王城へと向かったから誰もいないが、中から鍵を閉めて誰も入れない様にしておく。

 部屋は一言で言うなら悪趣味の極致だった。


 部屋中に金銀宝石で装飾が施され、絨毯やカーテンに至るまで超高級品。

 机に投げ出されていたペン一つでも、金貨数十枚はする様な物だ。

 普段『質素を是とし、貧しき者には施しを』と説いている教会にしてみれば、全くの正反対な事だ。


「………とにかく、探すぞ……」


 俺の声を受けて、ノエルとイクスが本棚やタンスを探す。

 俺自身は、机にある引き出しの中を確認する。


「てか、魔女様を疑う訳じゃないが、本当に必要になるのか?」


 イクスが数冊目の本を引き出し、パラパラと中を確認しながら呟く。

 確かに、アイツの作戦だと間違いなく使ってくると予想していたが……


「コレ何かしら……」


 ノエルが探していたタンスと壁との隙間から、何かの金属パーツが僅かに見えている。

 タンスをよく確認してみると、絨毯にタンスを動かしたような跡が残っている。

 イクスと二人でゆっくりとタンスを動かすと、そこには壁から鎖が伸び、そこに繋がった輪がぶら下がっていたな物だった。

 それを軽く引くと背後でガコンと音がして、逆側の壁にあった巨大な姿見がプラプラと動いている。

 ノエルが姿見の向こう側を見ると、『うわぁ』と声を漏らした。

 それを受けて、俺達も覗いてみると………


 その隠し部屋にあったのは、山と積まれた金貨や、大粒の宝石が大量に装飾として使用されている装飾品など、どう考えても隠し財宝だった。

 これはハズレか……

 そう考えつつ、隠し部屋の扉となっている姿見を戻そうとして、ふと違和感を覚えた。

 扉代わりに姿見を使うのはありがちだが、果たしてがあるのか?

 厚みだけで言うなら、扉だけで20cmはある。


「二人共、ちょっと押さえていてくれ」


 イクスとノエルに姿見扉を押さえて貰い、壁側を再確認する。

 そうすると、蝶番側に不自然な窪みを見付けた。

 成程、これだと完全に扉を開かなければ分からないな。

 その窪みに指を掛けて引くと、隠し扉が更に開いて中から紐で括り纏められた書類が大量に出てきた。

 机に置いて三人で別々の書類を見る。


「こいつは……」


「……本当にこんな事を……」


 ノエルの表情を見る限り、かなり凄惨な内容が書かれていたのだろう。

 若干、表情が青い。


「そっちは何が書いてあった?」


「……移植による影響と拒絶反応を記録した物だな」


 読む限り、碌でも無い実験を繰り返していたようだ。

 更に、その影響や拒絶反応を抑え込む為に、強力な呪いを使っていた事も書いてあった。

 イクスとノエルが読んだ物には、経過報告や処分方法、補充先が書かれていた。

 補充先と言うのは死刑囚だけでなく、胸糞悪くなる事に国中にある孤児院も対象になっている。

 この報告書を読む限り、ある程度の年齢以外だと成功率が著しく低下する事が示唆されており、最終的には息の掛かった貴族連中に孤児を引き取らせ、それをそのまま教会で……という流れが出来ていたらしい。

 今でもこの実験は続けられているらしく、少し前の奇病騒ぎで大量の孤児が孤児院に入った為、実験には困らないだろう。

 そして、この報告書の中には気になる記述もあった。

 それが『サンプルの入手に成功、魔法属性を付与させる事に成功-経過良好-』と書かれたもので、かなり古い。

 気になるのはこのと言う記述。

 そもそも、報告書にはサンプルやら移植やらと書かれているが、を移植しているのか、何も書かれていないのだ。


「これだけじゃトボケられたら証拠にはならんな」


 ガッツリ係わっているという証拠にするには、些か力不足だ。

 ただ枢機卿の部屋にあったというだけで、この書類にはその枢機卿が指示をしたという部分が無いのだ。

 しかし、これ以上の証拠はこの部屋には無いようだ。


 書類は全てアイテムバッグに放り込み、次に向かう場所を考える。

 これ以上の手掛かりが無い以上、本来はこのまま脱出するのが一番なのだろうが、トボケて逃げられた場合、決定的な証拠を消される可能性が高い。

 もし、証拠を全て消されたら最早打つ手が無くなる。


「少し危険が伴うが……やってみるか……」


 そう言いつつ、鞘を腰のベルトから外すと、部屋の中央に移動。

 豪華な絨毯が敷かれているが、邪魔なのでノエルとイクスに剥ぎ取らせ、床石が剥き出しになっている。


「直ぐに騒ぎになる。 急ぐぞ」


 二人に注意をしてから、一気に鞘をガツンと床石に叩き付けた。

 床石を若干砕く凄まじい音が響き渡り、その音に紛れる様に一つの魔法を発動させる。

 その名も『音響探知ソナー』と名付けた探知魔法。

 まぁ所謂地球のソナーと殆ど同じ物だが、アイツが創ったこの魔法は、空間把握に魔力把握も行える為、隠し部屋があろうが全てを把握出来る様になっている。

 ただ、発動にそれなりに大きい振動を必要とする為、今回は鞘を床石に叩き付けたのだ。


 ………よし、この教会の構造は把握した。

 それによると、この教会は地下に長い通路があり、その先に小部屋がいくつかある。

 更に、その小部屋には複数の大きな魔力反応がある。

 恐らく実験を行っているのは此処だろう。


「バレた! 急げ!」


 通路を見ていたイクスが、事前に渡してあった玉を通路の向こうに投げ付けると、その玉が破裂して紫の煙を撒き散らす。

 ただの煙玉だが、相手からすればいきなり通路が毒々しい煙で覆われれば、警戒しない訳にもいかない。

 それを確認して、部屋から飛び出して一気に通路を駆け抜けていく。

 途中、教会所属の僧兵がいたが無視。

 構ってる暇などない。

 一応、三人共素性がバレない様に覆面と灰色のマント姿にしているから、捕まらない限り問題無い。


 目指すは教会の地下、あの長い通路が繋がっている部屋だ。



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