第46話
お姫様が亡くなったと報じられ、国中が喪に服しておる。
道行く人の表情もかなり暗く、活気のあった王都も今は静かなのじゃ。
そんな中、ワシは稼働前のポーション工場に来ておる。
今日はバートの様子を見に来たのと、ちょっとした準備の為に来ておるのじゃ。
「で、バートは回復はしたが、怪我に付いては一切理由を言わん……と」
「うむ、流石に死に掛けた怪我だからな、用心の為に聞きたいんだが……」
ゴッズ殿に話を聞いた所、ワシが王城に行っておる間に意識は戻り、言われた通りに栄養価の高い食事を取らせているが、死に掛けた原因については一切、話そうとはしておらんらしい。
まぁ言い難い物もあるじゃろうが、今回の件についてはワシには聞く権利があるのじゃ。
ゴッズ殿には儂が聞き出す事を伝え、来るべき工場稼働に付いての話をエドガー殿としておくように伝えておくのじゃ。
「それで、どういう事なのじゃ?」
「……いやどうもこうも……」
バートは既にベッドから出て椅子に座っておるのじゃが、その前にワシが立って今回の件を問い詰める。
最初はバートはワシにも言わない様子で、かなり難儀しそうじゃが、ワシには取って置きの切り札があるのじゃ。
「ワシにも話せん事なのは大体察しは付くのじゃが、一つ大事な事を忘れておらんか?」
そう言って、バートに預けてあった魔法袋を手に取る。
これはワシが作った物であるから、ワシには中身を調べる事が出来る様になっておる。
改めてその中を確認するが、ある物が見付からぬ。
「魔導拳はどうしたのじゃ?」
「そ、それは……」
「アレは試作品故に、お主に貸し与えた物じゃ。 それがどこを探しても見付からぬ」
そう、バートが使っておる魔導拳はまだまだ改良が必要な試作品なのじゃ。
そのデータ取りをする為、バートに貸し与えておったのじゃが、それが何処にもないのじゃ。
一応、冒険者ギルドで発見者に話を聞いて、魔導拳は無かった事は確認済み。
その際、発見者である冒険者達は、森の中に集団が逃げていくのを見ておったらしいが、何処の誰か、までは分からんかったらしい。
「……全く……お主が喋りたくないという相手など、殆ど限られておるじゃろうに……」
溜息交じりにそう言って腕を組む。
バートが話したくない相手で、ワシ等を巻き込みたくない相手。
「相手は実家なんじゃろ?」
その言葉で、バートの肩が僅かに動く。
やはりのう……
ニカサ殿曰く、今の王都は大会合なる国中の主要な貴族を集め、王城にて一年の報告と、来年の主な動きを話し合う場が設けられておる。
そして、バートの実家であるシュトゥーリア家は、大貴族とも言われておる。
故に大会合に来ておらぬ筈が無いのじゃ。
「まぁお主が話さぬでも良いんじゃがの、不完全なアレで痛い目を見るのは確定じゃろうし」
「………分かったよ……魔導拳を持って行ったのは、多分、ドラーガ兄だろう」
バートがそう言って、何があったのかを話してくれたのじゃ。
あの日、バートはイクス殿にワシが遅れる事を伝えに森へと入ったのじゃが、そこで偶然、森の中で兎狩りをしておったドラーガ達と遭遇。
そこで、前回の奇病を治療する魔道具を王へと献上し、多大な貢献をしたが、何も褒章を得る事もせずにワシの所に戻る事を選択した事を、馬鹿な事をした上、バートがいらぬならシュトゥーリア家に褒章の話をするのが当たり前、寧ろ、そんな魔道具を手に入れたのなら、シュトゥーリア家に先に報告するのが普通である等、その場でネチネチと言い続けた上、バートが身に着けていたミスリル製の魔導拳を見て、それをドラーガに渡せば父に交渉してやろうと言い放った。
当然、バートはコレが試作品である事、勝手に渡す事は出来ないと説明したが、ドラーガはそれを聞いてあっさりと激怒し、護衛達に奪い取る様に命令をしたと言う。
ドラーガはシュトゥーリア家で雇っておる一流の剣士と魔導士の護衛を連れており、バートも魔導士の放った魔法のいくつかを魔導拳の機能の一つである『吸収』で取り込み、『解放』で放って応戦したが、剣士の攻撃により左腕を失い、取り押さえられた後、右腕も斬り飛ばされた。
その後、その騒ぎを聞きつけた発見者の冒険者達がやって来て、ドラーガ達は逃走したらしいが、その時には既にバートの意識は朦朧としていた為、詳しい事は覚えていない。
うむ、
話を聞く限り、そのドラーガと言うド阿呆を許す気は無いが、係わっておる護衛共にも制裁を下さねばならぬじゃろう。
しかし、魔導拳を持って行ったという事は、最初はミスリル製で高値が付くじゃろうと思ったが、『吸収』と『解放』の機能に目を付けたのじゃろう。
確かに、あの二つの機能を再現出来れば大きな戦力になるじゃろうが、考えが甘いと言う他ないのじゃ。
ワシがどうして、魔導拳を試作品と呼んでおるのか。
答えは単純で、あの魔導拳に仕込める魔石のサイズが小さ過ぎて、まともに運用するのは不可能じゃからじゃ。
魔導拳の仕組みとしては単純であり、『吸収』で魔法を魔導拳に内蔵されておる魔石にチャージし、『解放』でチャージしておった魔法を放つ。
そして、魔導拳に装着しておる魔石じゃが、一個はワシが作った高純度の魔石ではある物の、他はそれなりの品質なのじゃ。
恐らく、上級一回、初級を数回くらいしかチャージ出来ん。
しかも、何度もチャージしたら魔石が砕けてしまうのじゃ。
実戦を考えるなら、この回数制限を向上させる必要があるのじゃ。
「多分、親父に渡して研究、真似して作って陛下にでも献上するつもりなんだろう」
バートはそう言って、最近のシュトゥーリア家の内情を話してくれたのじゃ。
ここ数世代、シュトゥーリア家は目立った活躍をしておらず、ただ過去の栄光を振り翳しておるだけの口だけ貴族であると陰口を囁かれておる。
そんな中で、あの奇病を治療できる魔道具を王へと献上したバートの存在は、シュトゥーリア家としては願っても無い存在だったが、バート自身は正妻の子では無く妾が産んだ子であり、本妻と長男、次男からすれば、眼の上の瘤処か、自身の存在を脅かす邪魔者でしかない。
今回の件で、バートは褒章を貰う事はしなかったが、妾の子であるという理由だけで、相続権が無くなる訳では無いので、このままではバートが次期当主となってしまう。
長男と次男が当主になる為には、これ以上の目立った功績を上げなければならないのじゃ。
「つまり、邪魔者の排除と自身の手柄の為と言う事か」
今回の件、偶然とはいえ、バートは両腕を失っておる。
この異世界、怪我での腕無しというハンデは、想像を絶するマイナスポイントになるのじゃ。
自身すら守れぬという点で、継承権は失うし生活にも支障が出る。
その点を突いてバートの継承権を失わせた上、魔導拳の術式を解析して王へと献上すれば、名実共に当主となれるじゃろう。
「ハッハッハ、もうね、どうしてくれようかの」
ここまで来ると頭にくる以上に呆れ果ててしまうのじゃ。
放置しておいてもどうせ勝手に自滅するじゃろうが、その原因がワシの作った魔導拳と言うのもちょっとムカつくのじゃ。
よし、それでは今回の件を踏まえて、ちょっと本気で魔導拳を改良するかのう。
じゃが、その前に……
「バートよ、一応聞いておくが、この後はどうするのじゃ?」
「どうするってのは?」
「このまま、あの阿呆共と一緒に沈む船に乗り続けるか」
そこまで言って、一つ咳払いして居住まいを正す。
「心機一転、全く新しい人生を歩むか、じゃ」
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