第45話
お姫様に解毒薬を飲ませた後、経過を見る為にお城の一室で待機するのじゃが、ぶっちゃけ、今回の治療は失敗する。
何せ、お姫様の状態異常は毒では無く『呪い』なのじゃから、解毒薬では効果など無いのじゃ。
しかし、これを知っておるのは、鑑定したワシ以外には、恐らく呪いを掛けておる相手の術者くらい。
下手に言えば、ワシが呪っておると疑われる事間違い無しなのじゃ。
悩んでも答えが見えぬ。
ここは一度頭を切り替えるとしよう。
まず、何故にお姫様を呪っておるか、じゃな。
ワシの調べた限り、この国の王族は現在二人のみ。
即ち、王様とお姫様の二人だけじゃ。
お妃様はお姫様を出産した後、亡くなっておる。
そして、王族貴族に付き物の妾に付いてじゃが、王様はそこら辺をきっちりしておったらしく、表立ってはおらんらしい。
まぁ裏でどうなっておるのかは分からんが……
そして、この国の王位継承権は男子だけでなく女子にも発生する。
つまり、王位継承権目当てで呪殺しようとしておるなら、一人っ子であるお姫様には意味が無いのじゃ。
他には、痴情の縺れとも考えたのじゃが、相手がお姫様ともなれば、許嫁の候補はきっちり調べ上げられとるじゃろう。
そうなれば、呪おうとしておるなどすぐにバレるじゃろう。
他には、嫌がらせや恨みと言う線かの。
お姫様では無く、王様に対しての恨みの線は消し切れぬ。
王族ともなれば、恨みの一つや二つはあるじゃろう。
その恨んでおる相手が、王様を苦しめようとして、お姫様を呪ったという可能性じゃが……
あの呪いに掛けられておる隠蔽は、かなり高度な技術じゃ。
それ程の技術を持っておるなら、お姫様を呪うのではなく、王様自身を呪えば良いじゃろう。
後は……偶然?
偶にある事じゃが、呪殺用の魔道具に触れて呪いを受けてしまう事も無い訳では無い。
しかし、そんな危険な物をお姫様が触れるような所に置く訳もないじゃろうし、呪いじゃと分かっておるのじゃから、解呪も出来るじゃろう。
ううむ、考えても答えが見えんのう……
「おチビちゃんは食べないのかい?」
ニカサ殿が食べておるのは、本日の夕食として出された固めのパンとスープなのじゃ。
パンは一般に出回っておる様な石の様な固いパンでは無く、普通に噛み千切る事が出来る様なパンじゃ。
まぁそれでも酵母入りのパンに比べれば固いのじゃが……
スープの方は下味も十分、具材も多く十分に美味しいのじゃ。
他にも、生野菜のサラダと、鳥肉のステーキの様な物があるのじゃ。
しかし、舌が肥えておるワシからすると、少し物足りんと感じてしまうのじゃ。
「のぅニカサ殿、もしも治療が失敗したらどうするのじゃ?」
「ふむ、あの解毒薬が効かない毒ともなると、高い金を払って超級の解毒魔法を使うしかないだろうね」
超級と言うのは、魔法のレベルとしては最上級、使用するマナの量が膨大になり過ぎて個人ではなく、集団で使用する事が前提となっておる魔法なのじゃ。
まぁワシは一人でも使用可能なのじゃが、これは例外じゃのう。
当然、使える集団にも限りがあり、教会に頼めばかなりの額を寄付しなければならぬそうじゃ。
教会はがめついのう……
「毒以外に原因は考えられんのか?」
「症状を見る限り、毒だと思うんだがねぇ……おチビちゃんは何か気が付いたのかい?」
「う……むぅ……言い難いのじゃが、毒じゃったとして、どうして今まで解毒が成功しておらんのじゃ? 相手はこんな所に住んでおるのじゃから、権力はあるじゃろうし、色々と試しておるはずじゃないのかのう?」
ワシの疑問にニカサ殿が唸っておる。
そう、ワシが言う通り、相手はお姫様なのじゃから治療は最優先で試されておるはずじゃ。
その治療の中には、ニカサ殿が試したような最上級の解毒薬もあったはず。
しかし、お姫様は一向に回復しておらぬ。
「確かに言われてみればそうだねぇ……でも、もし使われた毒が誰も知らないような珍しい物だったらどうだい?」
「それにしても、どの解毒薬も効果が無いというのは変なのじゃ」
「ふむ、おチビちゃんは何に気が付いたんだい?」
ニカサ殿がズバリな事を聞いてきたのじゃ。
この場にいるのはワシとニカサ殿以外には、料理を運んできたメイドが二人。
ここでワシが鑑定を使える事を明かしても良いのじゃが、ニカサ殿はともかく、メイドに知られるのは少々マズイ気がするのう。
そんなワシの考えに気が付いたのか、ニカサ殿がメイド二人を部屋の外に追いやって戻ってきた。
そして、ワシが鑑定でお姫様を鑑定した時、最初は毒じゃったが再鑑定した所、隠蔽状態で呪いが掛けられておった事を話す。
それを聞いて、ニカサ殿が少し考え込んでおる。
「おチビちゃん、鑑定が使える事を確実に知ってるのは他に誰かいるかい?」
「話したのはニカサ殿くらいじゃが、後は……商人のエドガー殿は気が付いておるかもしれんのう」
「よし、コレからも誰にも言うんじゃないよ、鑑定なんて珍しいスキルな上に、隠蔽も見破れるなんて知れたら、貴族連中が何が何でも手に入れようとするからね」
聞いてみれば、やはり鑑定とかの一部スキルはレア扱いになっており、それを持っていると貴族が利用しようと裏でアレコレと陰謀を巡らせておるらしい。
特に、アイテムボックスに関しては国すらも獲得に動くらしく、国お抱えの好待遇で迎えられるという。
現在で言えば、両隣にあるクリファレス王国とヴェルシュ帝国に十数人のアイテムボックススキル持ちがおり、鑑定スキル持ちに付いては、貴族を含めてかなりの数が囲われておるらしい。
「そうなると、処方した解毒薬じゃ効果は無いね、どうしたもんかねぇ……」
「丁度、ワシが解呪薬なら持っておるが……」
当然、コレは嘘なのじゃ。
こっそりと鞄の中で解呪ポーションを作り、ニカサ殿と別れた後、こっそりと投与するつもりだったのじゃが、こうなれば堂々と投与するのじゃ。
「回復させた後に問題があるのじゃ」
お姫様の呪いの原因が分からぬ以上、犯人がいた場合、解呪した後に必ず動くじゃろう。
しかも今度は呪いという迂遠的な方法では無く、暗殺という直接的な方法で。
やはり、犯人を見付けなければ安心は出来ぬのじゃ。
「そうは言っても、体力的な問題はあるからね、早く解呪はしなきゃ拙いね」
「うむ、そこでちょっと一芝居打つ必要があるのじゃが、コレにはちょっと問題があるのじゃ」
その問題と言うのは、単純に協力者不足というモノ。
ワシとニカサ殿だけでは到底手が足りぬのじゃ。
じゃが、それを話したらニカサ殿は問題無い様な事を言っておる。
協力者の条件は、王様ではない事、後ろ暗い貴族ではない事、秘密を絶対に守れる事、お姫様に背格好が似ておる女性、というモノじゃがニカサ殿は少し考えてから『ちょっと待ってな』と言って、部屋から出ていった。
暫く部屋で待っておると、ニカサ殿が数人の男女を連れて戻って来たのじゃ。
しかも、その内数人は顔見知りだったのじゃ。
「まぁこいつ等で何とかなるじゃろ?」
「うむ、十分なのじゃ」
そうして、ワシ等は一芝居を打つ為に、具体的な方法を話し合う事になったのじゃ。
犯人よ待っておれ、今から表舞台に釣り上げてやるからのう。
そして数週間後、努力も空しく、お姫様が亡くなった事が発表された。
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