第43話




 バートの失った両腕を再生させる為に、強力な回復魔法を使ったのじゃが、想定以上にバートの消耗が激しいのう。

 両腕とも肘から先が無くなっておったが、一体何があったのか。

 起きたらそこら辺の話も聞かねばならぬ。


「取り敢えず、治療は終わったがの、筋力は落ちておるし、骨も脆くなっておるから、しばらくこの部屋を貸して欲しいのじゃが……」


「い、今のは一体……それに、聖女様以外に欠損を治せるなんて……」


 ギルドの職員が何かブツブツ言っておるが、それを杖で軽く叩いて現実に戻し、バートの容体を再説明して、しばらくは絶対安静と、この部屋を一時的に借りる事の許可を得る。

 この後は、エドガー殿の所に戻って担架を作ってからバートを回収するのじゃが、ギルドでも状況把握をする為に、聞き取りをしたいので気が付いたら連絡をして欲しいと言われたのじゃ。

 それについては問題無いので了承し、部屋から出ようとした瞬間、扉が勢いよく開いたのじゃ。


「今の光は何だい!?」


 誰かと思えば、ニカサ殿じゃった。

 モナークで別れた時と違い、白い白衣に金のアミュレットを身に着けておる。

 しかし、何故にモナークにいるはずのニカサ殿が王都の採取支部に来るのじゃ?


「っと、おチビちゃんじゃないか、こんな所で何してんだい?」


「ニカサ殿、久しぶりなのじゃ」


 軽く挨拶を交わし、どうしてニカサ殿がここにいるのか聞いてみれば、とある人物の出張治療に来ているのじゃが、手持ちの薬で対応出来る範囲を超えそうなので、採取支部で必要な薬草を買い取ろうと思って来てみたら、奥の部屋からトンでもない光が見えた上、爆発的なマナが漏れたのを感じ取り、急いで見に来たら、ワシ等がおった。


「マナは多分、治療で使用した回復魔法じゃと思うんじゃが……」


「ほぉ、おチビちゃんは回復魔法も使えるのかい」


「回復なんてもんじゃないですよ! これは最早、再生魔法です!」


 あ、職員に口止めしておらんかったから、余計な事を言ってしまったのじゃ。

 当然、それを聞いたニカサ殿の視線が、ベッドで寝ておるバートを見た後、その職員の方を向いた。

 そして、どういう事か職員に詰め寄り、職員は洗い浚い喋ってしまったのじゃ。


「成程、両腕を再生させる回復魔法ねぇ……確かに、それは伝説の聖女くらいしか使えん筈の再生魔法と思われても仕方無いね」


「再生と言っても、本人を材料にしておるから、下手をすれば栄養不足で死んでしまうがの」


 これが一番大事な事なのじゃ。

 あくまでも、本人の全身にある体細胞を変化させておるから、ガリガリに痩せ細っておったり、骨が脆くなっておる老人、成長し切っておらん子供には使う事が出来ん。

 もし材料不足で無理に使用した場合、中途半端に回復されてしまい、骨が無かったり、逆に骨だけが回復されたりと、大変に危険じゃ。

 今回は、バート自身が標準体型より若干筋肉があるような体型じゃったから問題無かったが、これがワシやニカサ殿になれば不可能じゃ。


「つまり、おチビちゃんは相応の医学知識と回復魔法が使えるって事だね?」


「まぁ、確かにそれなりに、と言った感じじゃが……」


 ニカサ殿がそう聞いてきたので、一応そう返しておいた。

 ワシの医学知識は地球の物じゃが、魔法があるだけで肉体の構造を見る限り、この世界の人類とワシ等地球人に、大きな差は無いと思っておる。

 まぁその魔法がどうして使えるのかとか、魔法回路云々の謎はあるがの。


「ふむ、それじゃちょっとおチビちゃんには、アタシの仕事を手伝って貰えないかい?」


「ワシは構わんけども、仕事とは何を手伝えばいいのじゃ?」


「なに、アタシと一緒に病人を見て、気が付いた事を教えて欲しいだけさ」


 うーむ、バートが意識を取り戻すまでは暇なのじゃが、ここで待っておっても時間の無駄というのは間違いないのじゃが、エドガー殿も待たせておるし、イクス殿にも連絡を付けねばいかんし……

 しかし、あの魔導書を書き上げておるニカサ殿が治療に苦戦しておる病気というのは、正直気にはなるのじゃ。

 ふと脳裏に浮かんだのは、少し前にあった奇病。

 じゃが、アレは感染力もそうだが、死亡した際に死体が内部から溶けて、最終的に弾け飛んでしまうのじゃから、それ程猶予は無いのに、ニカサ殿はそれ程慌てている様子も無い。

 そもそも、あの奇病の特効薬とそれを作る為の魔道具は、かなりの数をばら撒いておるから、治療するのも楽じゃろう。

 仕方無い、バートに関してはエドガー殿達に迎えを頼み、イクス殿にはゴッズ殿に連絡を頼むとしよう。

 ニカサ殿に、手伝うが先にワシの用事を済ませたい事を伝えると、二つ返事で了承してくれたのじゃ。

 更に、表にニカサ殿が使っておる馬車があるという事で、それで送迎をしてくれるという。

 断る理由も無いので、馬車にありがたく同乗させてもらおうと思っておったのじゃが……


「何じゃこりゃ……」


「さぁ、さっさと乗んな」


 ニカサ殿に促され、採取支部の目の前に停められておった馬車をもう一度よく見る。

 馬によく似た魔獣による二頭引きなのはまぁ異世界だから良いのじゃが、馬車本体が白を基調としており、その所々に金の装飾が施された超が付く程の豪華な箱馬車なのじゃ。

 どう考えても、普通の貴族が乗るような物では無いのじゃが、ニカサ殿は気にもせずにさっさと乗り込んでしまう。

 覚悟を決めて馬車に乗り込んだのじゃが、これがまぁ……


「……どれだけ金を掛けておるんじゃ、この馬車……」


「さてね、ハナタレ小僧が予備にしてるって話だが、使わにゃ勿体ないだろうに」


 ニカサ殿がブツブツと文句を言っておるが、これ、クッション一つだけでも相当な値が付くのじゃ。

 何せ、中身は正真正銘、「綿」が使われておる。

 この異世界では、栽培の難しい綿花は貴重品なのじゃ。

 何せ、栽培するには広大な土地が必要になるのじゃが、そんな広い土地を開拓すれば、魔獣が寄ってきて大変な事になる。

 その為に、綿花を栽培する所は小規模にならざるを得ず、結果的にその金額も跳ね上がってしまうのじゃ。

 そんなクッションが少なくとも4つ、この箱馬車の中に置かれておるのじゃ。

 これは、少し判断を誤ったかもしれんのう……



 ポーション工場に到着し、エドガー殿に採取支部にいるバートを複数人で迎えに行って貰える様に頼み、ゴッズ殿にはイクス殿達への伝言を頼む。

 バートがイクス殿達に会っておると分かっておれば必要ないのじゃが、会っておらねば問題になるのじゃ。

 バートを迎えに行く際、少々骨が脆くなっておるので、絶対安静にする事と、栄養価の高い食事を食べさせるように指示も出しておく。

 戻って来たらバートが不注意で死んでおったなんてなったら、目覚めも悪いのじゃ。

 それに、バートにはイロイロと聞かねばならぬ事があるでの。



 そして、ポーション工場から再出発したのじゃが、どうにもこの箱馬車の行く先がどんどん小綺麗な街並みに変わっていくのじゃ。


「取り敢えず、おチビちゃん、その格好じゃ色々とアレじゃから、これに着替えときな」


 そう言って渡されたのは、サイズが小さい白衣。

 ふむ、ワシにはサイズは少々大きいが、まぁ着れない事は無いのう。

 今まで着ておった黒ローブと帽子はアイテムボックスに収納し、半袖半ズボンに着直して白衣を着用したのじゃが、どうにも何というかコスプレっぽいのう。


「良く似合ってるじゃないか、それじゃ仕事が終わるまで、おチビちゃんはアタシの弟子って事で通しな」


 ニカサ殿にそう言われるが、そもそも、これから何処に行くのかも詳しい話は聞いておらんのじゃが……

 そうこうしておる内に、どんどん一軒一軒が豪華になって、敷地が広い屋敷が増えていく。

 これは、あれかのう、所謂『貴族街』という場所かのう。

 とすると、病人は貴族?


「さて、あそこが目的地だよ」


 そう言ってニカサ殿が指差したのは……

 うーん、これは本当に判断を誤ったのかも知れんのう……


 アレはどう見ても、この国のお城じゃ。



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