第42話




 ひっくり返った女性職員殿に謝罪し、解体場の使用料と解体費用を支払うのじゃが、とにかく数が多いのじゃ。

 まず、ワイバーンを解体場に取り出し、その横に種類毎で山を作っていく。

 解体場にいたおっちゃん達が、ワイバーンの巨大さに驚き、ラウドホワイトウルフが積み上がるのを見て唖然とし、ワイドビットブルホーンが出てきた当たりで口が開き始め、ヒュージクラウンスパイダーが出た辺りで、顎が外れておるのではないかと思うくらい口が開いておった。

 その後、オークを積み上げ、フォレストスコーピオンを取り出した所で待ったが掛かったのじゃ。


 曰く、これ以上は解体するのは物理的に無理で、価格と言うより、解体した素材を置く場所が無いのじゃと言う。

 そうなると、早急に解体して欲しいワイバーンと、お肉が欲しいワイドビットブルホーンを解体して貰って、他は空き時間にワシ自ら解体するかのう。


「では、ワイバーンとワイドビットブルホーンの解体を頼むのじゃ。 後のはまた今度にしようかのう」


 狼と蜘蛛を収納しながら、おっちゃん達にワイバーンは尻尾の一部だけ、先に皮を剥いでおる事を伝え、オークとサソリもアイテムボックスに収納しておくのじゃ。

 そして、おっちゃん達に解体を頼み、再び受付に戻って女性職員殿に依頼料を払い、引き取りと売却を決める作業に入る。 


「あのワイバーン、どう考えても異常個体ですね」


 女性職員が言うには、通常のワイバーンはあのワイバーンの半分程度の大きさしかなく、得られる素材もそこまで特記する様な物ではないらしいのじゃが、あのワイバーンの素材は明らかに価値があるのじゃ。

 強靭性、対魔性とかなり高いようで、売却すればかなりの額になるらしいのじゃが、ワシとしては使いたいので売却は却下なのじゃ。

 取り敢えず、ワシは一部の骨と皮は引き取り、ギルドには骨の一部と毒腺や眼球を売却する事にしたのじゃ。

 次にワイドビットブルホーンじゃが、ワシは肉が欲しいので、肉以外を売却する事になったのじゃが、これに女性職員殿が待ったを掛け、最終的に肉の一部も売却する事になったのじゃ。

 そして、魔石が取れた場合は、全てワシが一時的に引き取る予定じゃ。

 まぁワイバーンは先に取っておるから出る事は無いが、ワイドビットブルホーンは偶に魔石を持っておるらしいからの。

 他にも、魔法を使う様な個体であれば、魔石は出るらしいのじゃが、コレは見た目では分からん。

 ゴブリンやオークと言った人型魔獣は、どの個体も魔法を使うんで、小さいながらも高確率で魔石が取れるんじゃが、今回はそう言った魔獣は頼まぬからのう。


 今回の出費と収入を比べたら、最終的に金貨で10枚ほどの収入になったのじゃ。

 ただし、解体には数日掛かるので、番号札を渡されて解体が終わったら引き取る事になったのじゃ。

 しかし、結構高値で売れたのう。

 ワイバーンはともかく、ワイドビットブルホーンは肉も美味いが、その皮が革鎧から鞄、靴に至るまで、利用幅が多いのじゃが、ワイドビットブルホーン自体が群れで暮らしておって、かなり倒しにくい魔獣である為、市場に流通する事が少なく、地味に高値が付くらしいのじゃ。


 次に向かうのは採取専門の支部。

 この支部ではワシの予定では無く、エドガー殿の依頼を代理で出す予定なのじゃ。

 というのも、しばらく薬草不足は続くので、王都の駆け出し冒険者に対して、優先的に薬草を買い取る常時依頼を出すのじゃ。

 これにより、駆け出し冒険者は安定して資金を稼ぐ事が出来るようになるのじゃ。

 通常、薬草は10本一束で計算され、ギルドでは一束銀貨5枚で買い取られる。

 これを、ワシ等は一束銀貨10枚で買い取る様に依頼を出したのじゃ。

 ただし、全部をワシ等が買い占めてしまうと、他の店やギルドに迷惑が掛かるので、日に50束までと制限を設けておいたのじゃ。

 それ以外にも、ワシが個人的に買い取りたい物が無いか確認し、まぁ無いじゃろうと予想しておったオリハルコンやアダマンタイトがあるか調べたが、まぁね、ある訳ないのう。


「希少魔法金属は、そもそもバーンガイア国では確認されておりませんね、採取可能なダンジョンもありませんし……」


 そう言えばそうじゃったな。

 この国はダンジョンはあるのじゃが、ランクとしてはC寄りのB止まり。

 オリハルコンやアダマンタイト等の希少魔法金属での武具が出るのは、最低でもAランクからじゃ。

 ただ、他の国と違ってミスリルが豊富に採掘出来る鉱山がある為、侵略されとらんだけじゃ。

 ランクは落ちるが、ミスリルも魔法金属としては優秀なのじゃ。


「うむ、それでは、このエルダートレントの材木をあるだけ欲しいのじゃ」


「在庫ですと……今は長さで30メートル、直径1メートルの丸太で20本ありますが……」


「それは大木じゃのう……まぁ全部買って問題無いのなら欲しいのじゃ」


 聞けば、この国のダンジョンの一つが、この魔樹トレントを大量に生み出しておるらしく、良質な材木を確保するには丁度良いのじゃと言う。

 ただ、その中でもエルダーと名が付く魔樹トレントは珍しく、ギルドで保管しておる20本に付いても、いっぺんに売れる事は想定しておらず、王都で材木を取り扱っておる木工ギルドに話をして、問題無ければ売っても問題無いのじゃと言う。

 早速、ギルドの職員の一人が木工ギルドに話を通し、この冬に必要な本数を聞き、余裕を持たせた以外の余りを買い取る予定となったのじゃ。

 その本数が決まるまで、採取支部の中で薬草や毒草に関する書物を読ませて時間を潰すのじゃ。

 と、思っておったら、荒々しくドアが蹴り飛ばされ、ギルド内に凄まじい音が響き渡った。


「急患だ! 回復魔法が使える奴かポーションを!」


 門を守っておった門番二人が担架を持ち、ここまで駆けてきたようじゃ。

 通常、急患でも治療院と言う場所があり、そこに担ぎ込まれるのじゃが、どうやら相当な深手で治療院より近いギルドに連れてきたようじゃ。

 門番達はすぐに奥にある処置室に運び込まれ、職員は受付の中から倉庫へと向かい、色々なポーションを抱えて処置室に入って行く。


「ひでぇ怪我だったな……」


「アレじゃ助かっても……」


 担架で運ばれておった者を見た冒険者達が呟いておる。

 しかし、この王都付近でそんな深手を負う様な相手なんぞいたじゃろうか?

 まぁ今はベヤヤがおるが、イクス殿達が一緒にいるのじゃから、人を襲うなどせんじゃろうし……


「あの、こちらあの怪我人の所持していた物なのですが……」


「それでは、此方で一時預かりますので……」


 遅れてやってきた門番の一人が、受付に小脇に抱えていた物を机に置き、受付の職員と話しておる。

 しかし、緊急ではあったが、扉を蹴破るとは思い切った事をしたのう。

 修繕費に付いて職員が説明しておるが、緊急という事で全額負担では無く、8割程度を蹴破った門番が所属しておる部隊から出して貰うようじゃ。


「む?」


 そして、怪我人の所有しておったという物を受付に渡す際、包んでおった布を外したのじゃが、どうにもそれに見覚えがあるのじゃ。

 若干濃い目の茶色の革で作られた肩掛け鞄。

 ただし、所々が擂れて毛羽立っていたり、多少焦げていたりと、随分とボロっちくなっておるが……

 アレ、バートに預けておいた鞄ではないかのう?

 いや、間違いない、アレはバートの鞄じゃ!


 急いで担ぎ込まれた部屋に向かうと、そこには簡素なベッドに横にされ、職員達に治療を受けておる怪我人。

 酷い物じゃ、火傷は全身の殆どに及び、両腕は肘の当たりから無くなっておる。


「ヒールじゃ間に合わない、早くポーションを!」


「こっち押さえろ!」


「おい、今は子供が来る所じゃないぞ!」


 職員達が必死に治療をしておるが、怪我の具合から一刻の猶予も無い。

 立ち塞がる職員の脇をすり抜け、ベッドに近付くと鞄から杖を取り出し、寝ておるバートの上に翳す。


「『フルエンハンス=パーフェクトヒール』!」


 説明するよりも実際にやってしまった方が早いと判断し、ワシが使える最上級の回復魔法を発動させる。

 バートの身体が眩く輝き、欠損しておった両腕が切断面からニョキニョキと骨が、肉が、皮膚が伸びて逆再生の様に元に戻ってゆく。

 全身の火傷も戻っていくのじゃが、この回復魔法にはちと難点があるのじゃ。


 やがて光が収まると、元通りになったバートが寝ておる状態になっておったのじゃが、全身がガリガリに痩せ細ってしまっておった。

 この回復魔法は欠損を治せる代わりに、その欠損部位を修復する際、必要な量を対象の全身から集めてくるのじゃ。

 その結果、こうしてガリガリに痩せ細ってしまう上、骨が脆くなってしまう。

 まぁしばらくは療養が必要じゃな。



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