第41話





「今後の事ですか?」


「なんぞ問題でもあるのか?」


 そう言ってエドガー殿とゴッズ殿が、不思議そうな表情を浮かべておる。

 今後の事はとても大事なのじゃ。


「うむ、ワシ等はコレから大量のポーションを作るじゃろう?」


「だな」


「ですね」


「となれば、今までポーション製作で生計を立てていた真面目な者達には大問題になるじゃろう?」


 そう、今まで考えて来なかったのじゃが、単純な生産では機械に勝てる人は早々おらん。

 そして、聞いてきたポーション製作者が軒並みアレだっただけで、真面目にやっておる生産者もおるじゃろう。

 このポーション工場は、そう言った真面目な生産者ですらも破滅させてしまうじゃろう。

 不真面目な生産者がどうなろうと知った事ではないが、コレはマズいのじゃ。


「成程、確かにそうですな……」


 ワシの説明で、エドガー殿が納得したように腕を組んで悩み始めたのじゃ。

 何か良い案は無いじゃろうか。


「なら、作るのを限定しちまったらどうだ?」


「ふむ?」


 ゴッズ殿がそう言って、自身の考えを説明してきたのじゃ。


 冒険者時代、ゴッズ殿もポーションの世話になる事が多かったらしいのじゃが、当時はポーション代もかなり財布を圧迫し、苦労していたらしいのじゃ。

 その中でも特に利用しておったのが、傷を癒す『ヒールポーション』で、次に多かったのが『アンチドートポーション』という解毒ポーション。

 その経験から、この工場ではヒールポーションの低・中品質をメインに作り、高品質はそれなりに作る、という案じゃった。

 真面目な生産者なら、状態異常を治すポーションを作りつつ、高品質ポーションを作るか目指せば良い。

 そして、それでもどうにもならない駆け出し生産者に付いては、この工場で雇って修業させつつ、直営店として販売をさせる。

 そうすれば、冒険者は低コストでヒールポーションが手に入り、尻込みしていた依頼にも行く事が出来るようになり、魔獣素材が市場に流れて品質の良い武器や防具が流通するようになる。

 それを冒険者が手に入れて、また依頼をこなしてと好循環が続くようになるのじゃ。

 安定した高品質の生産を目指してきたのじゃが、まぁ他の生産者達全員を破滅させてしもうたら大問題じゃからのう。


「確かに、それが一番良いかもしれませんな」


 取り敢えず、開店前に生産者を集めて説明会を行ってから、賛同した生産者は面談で篩に掛けるのじゃ。

 そこで真面目な生産者は続けて貰って、不真面目な者達にはお帰り願うのじゃ。

 まぁ最初の一年は殆ど稼ぎは無いじゃろうから、面談を潜り抜けておった不真面目な者達は金を稼ごうとして何かしらやらかすじゃろう。

 というのも、製造したくとも薬草の数が圧倒的に足らん。

 ルーデンス領以外でも薬草の栽培をしておるのじゃが、採取出来るのはまだ先なのじゃ。

 コボルト豆はほっといても勝手に増えるので問題は無いのじゃ。


「最初の一年は兎に角、従業員に慣れて貰う事が大事じゃな」


 大人は作業の動きを覚え、作業を繰り返す事で慣れて貰い、孤児達には、追加で薬草の分別作業をしてもらうのじゃ。

 考えたくは無いが、確実に妨害があるじゃろう。

 作業場に入る事は無理じゃろうが、薬草の中に似た毒草を混ぜ込まれ、気が付かずに一緒に擂り潰したら大問題になるのじゃ。

 なので、擂り潰す前に選別する作業も必要になるのじゃ。


「しかし、考える事が山の様に増えていきますな」


 エドガー殿に言われなくとも、多少自覚はあるのじゃ。

 まぁ、大問題になる前に少しずつ片付けていくのじゃ。


 後日、選別作業を孤児達の仕事にする事が決まり、孤児院から更に孤児を募集する事になった。

 その為、工場隣の建物を購入したのじゃがエドガー殿、その購入資金は何処から出ておるのじゃ?


「貴族の奥方ですね、美容パックの」


 なるほど、そして『はよ作れ』とせっ突かれておると?


「まぁ、言葉にしてはおりませんが……」


 これだけしてもらっておるのじゃ、期待には応えんとのう。

 取り敢えず、礼としてワシが保管しておった美容パックをいくつか進呈しておくのじゃ。




 そして、ワシはゴッズ殿に冒険者ギルドの場所を聞き、てくてく歩いて向かっておる。

 聞けば、王都の冒険者ギルドは2ヵ所あり、一方は討伐をメインにしており、もう一方は採取や採掘をメインとしておるらしい。

 何故こうなっておるのか疑問じゃが、聞けば単純な事で、討伐のトップと採取のトップの仲が凄まじく悪く、一緒にしておると四六時中喧嘩騒ぎを引き起こし、遂にはどちらも派閥を形成して大抗争が勃発。

 多くの人達に迷惑を掛けた上、無関係な冒険者や国を守っている騎士達にも飛び火し、大問題に発展してしまったのじゃ。

 それを受け、今まで両方の話を聞いて何とか収めようとしていたギルドマスターも遂にブチギレて、支部を現在の形にしてしまったのじゃ。

 ちなみに、そのトップ同士はギルドが分割されて数年後、討伐のトップは依頼の最中にポーションが無くなり、森の中で採取をして薬草と非常によく似ている毒草を使用してしまい、依頼を失敗した上に違約金が凄い事になって王都から逃亡。

 そして、採取のトップは採取依頼からの帰還中、モンスターに遭遇して大怪我を負って強制引退しておる。

 どちらも、仲が悪いと言うだけで協力も交流もしなかった結果なのじゃ。

 討伐のトップは、採取なんて馬鹿らしいと勉強しなかった結果、間違えやすい薬草と毒草を間違えてしまった。

 採取のトップは、討伐なんて野蛮だと最低限の護衛しか雇わなかった結果、モンスターと遭遇した際、倒す事も逃げる事も出来ずに大怪我を負ってしまった。


 分割した原因達が居なくなった事で、冒険者ギルドは元に戻そうとしたが、仕事の内容がズレ過ぎてしまって早々戻す事も出来ず、そのまま現在も別れておるが、話し合いも進んで何とか合流出来るように調整は進んでおるらしい。


 ワシが解体を頼もうと考えておるのは、討伐支部と呼ばれておる方で、巨大な解体場を併設しておる。

 所属しておる冒険者もそれなりの腕はあるが、やはりというかクリファレス王国とヴェルシュ帝国の戦争で、手柄を上げる為に高ランカーの冒険者は軒並みいなくなっておる。

 じゃが、活気はあるのう。


「あら、お嬢ちゃん、何か用かしら?」


 討伐支部の中を見回しておったら、壁にある巨大なボードに依頼票を貼り付けておったギルド職員の女性が、珍しいモノを見る感じで話し掛けて来たのじゃ。


「うむ、ちと仕事を頼みたいのじゃが」


「依頼なら、そこの依頼受付でするんだけど、お嬢ちゃんは依頼の仕方は分かるかな?」


「いや、依頼では無くてちと大物の解体を頼みたいのじゃ」


 依頼受付に案内され、依頼では無く解体を頼みたい事を告げるのじゃ。

 女性が少し考え込み、近くにいた別の職員を呼ぶと何かを確認しておる。


「今なら2番の大型解体場が空いてるけど、解体場の利用料と解体を頼むなら依頼料も発生するわよ?」


「ちと解体物が大き過ぎてな、ワシでは解体するのも一苦労なのじゃ」


 料金に関しては、大型解体場の利用料として銀貨50枚、解体依頼はサイズで変動するが、大物1体に付き銀貨40枚程掛かると説明されたのじゃ。

 金額については問題無いのじゃ。

 エドガー殿から、今回までの報酬としてかなりの額を貰っておる。


「取り敢えず、何を解体するのか先に聞いてもいいかしら? 職員にも向き不向きがあるから……」


「まず、ワイバーンじゃな、それからラウドホワイトウルフが10頭、ワイドビットブルホーンが7頭、ヒュージクラウンスパイダーが4匹と……」


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってちょうだい、え? ワイバーン? それに災害クラスの名前がたくさん聞こえた気がするんだけど?」


 女性がそう言うが、どれもこれも別に苦労して倒した訳では無いからのう……


「よく分からんが、証拠でも見せれば良いのか?」


 言いながら、アイテムボックスを偽装しておる鞄の口からワイバーンの頭だけ引っ張り出す。

 ううむ、ワイバーンの頭を出すのも久しぶりじゃのう。

 アイテムボックス内は時間が停止しておるから、長期間入れておるが腐る事が無いのは助かるのう。


「ヒィ!?」


 あ、女性が椅子事ひっくり返って凄い音がしたのじゃ。

 これは少し悪い事をしたかもしれんのう。



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