第40話




 のんびり王都へと到着。

 途中、降り出した雪で若干足が遅れたが、これは冬の移動における予定の中に組み込まれておるのじゃ。

 取り敢えず馬車を門に預け、全員でポーション工場へと向かうのじゃが、予定通り、イクス殿達とベヤヤは森の中にある猟師小屋に向かってもらい、ワシの作業が終わるまで待機なのじゃ。


 そして、到着したポーション工場はワシが予想しておった物とはずいぶんと違ったのじゃ。

 主にその規模。


「デカっ!?」


 何というか、湾岸地区にあるコンテナ保管庫みたいな超巨大な建築物だったのじゃ。

 言い換えれば、体育館とかそのクラスの巨大な建物。

 そして、その片面には3つの大型水車が設置されており、中の石臼も数個だけじゃと思っておったら十数個あったのじゃ。

 擂り潰した薬草を絞る為の布は問題無いじゃろうが、ここまで大規模になっておるとは……


「元々は大型の商会が倉庫として使っていたのですが、大飢饉の際に手放しまして、これまで買い手も付かなかったのを、我々が購入し、工場として改造したのですが、他にも食堂や居住区も兼ねております」


 聞けば、工場としては半分くらいのスペースで、残りは従業員用の食堂や仮眠室となっておるらしい。

 居住スペースはゴッズ殿とマリオン殿が使用し、従業員は隣に隣接しておる従業員寮で暮らす事になる。

 聞けば、従業員寮には風呂も併設されており、ワシの言った通り清潔な作業環境を確保しておるようじゃ。

 ここで働くのは、王都で仕事に就けなかった中年や孤児院の子供。

 元々は孤児を働かせるのは反対だったのじゃが、雇わなければ犯罪組織に使い潰されるか、碌な訓練をせずに冒険者になってその大半が命を落とす運命と言われ、止む無く雇う事にしたのじゃ。

 ただし、条件として孤児が行う作業は、風呂掃除やポーション瓶への詰め替え作業など、比較的危険では無い作業限定としたのじゃ。

 従業員の食事に関しては、マリオン殿が責任者となり、従業員の奥様連中や孤児院から手伝いが出るようになっておる。

 まぁここでちょっと、ワシのポーションでマリオン殿のスキルに細工をしておいたのじゃ。

 当然、ゴッズ殿のスキルにも、同じ様に細工はしておいたのじゃが、二人共真面目にやっておったし、ワシと次に出会うのはいつになるか分からんからのう。

 ここらで報酬代わりに、こっそりとスキルを授けるとしたのじゃ。


 マリオン殿には『料理』スキル、ゴッズ殿には『指揮』スキルのポーションを隠蔽状態で習得させ、コレから真面目にやれば有効化されるようになっておる。

 料理スキルは文字通り、料理を作る事が上手くなる上に味も良くなり、体力面を補佐する能力があるのじゃ。

 そして、指揮スキルじゃが、コレは上に立つ者なら是非に欲しいというスキルじゃ。

 所有者が指揮を取れば、全体的に能力と効率が向上するというスキルじゃが、それ以外に、生産であれば製品の品質にも若干の上昇補正が掛かるのじゃ。


 さて、それではワシのやるべき作業をするとしようかの。

 濾過装置の枠組みを組み立て、特製の布を設置し、枠に魔法陣を焼き付けて能力を付与していく。

 それが終わったら、ちゃんと機能しておるかを確認し、濾過機にセットして作業終了なのじゃ。


 うむ、コレをあと15個じゃな。

 多いわ!


 ひぃひぃ言いながら、はちと言い過ぎじゃが、何とか数を揃えて濾過機にセットし、男共が集めてあった薬草を石臼で擂り潰し、それを四角いスコップで掬ってバケツに集め、濾過機に流し込む。

 暫く待っていると、ぽたりぽたりと雫が大型バケツに落ちていく。

 本来はこれが半分程度溜まった時点で取り換えるのじゃが、今回はテストでもあるので、雫を小型のコップで集め、不純物の含有量を調べるのじゃ。

 まぁ調べられる量まで溜めるのに時間が掛かるので、その間に従業員を寮へ案内したり、寮内のルールを説明したり、エドガー殿からは給金の話や、ワシがごり押しした週休二日、産休、給与の一時保管を説明しておるのじゃ。

 給与の一時保管とは、従業員は大怪我などを負った場合、エドガー殿の設立したこのポーション製造会社から治療費の一部が補填されるという、保険の様な仕組みなのじゃが、それ以外にも給与の一部が積み立てられ、退職した場合にまとまった資金が払われるのじゃ。

 実はコレ、借金対策なのじゃ。

 纏まった金が急に手に入った場合、人は大抵二通りに別れるのじゃ。

 確実にコツコツと生活するか、賭博で一攫千金を狙うか。

 このポーション製造業、かなりの額が稼げるじゃろうから、将来的に給与の額も凄まじい額になるじゃろうと予想しておる。

 じゃが、いくら高給取りになった所で、賭博で身を崩してしまうのはよくある話なのじゃ。

 なので、賭博で必要以上の借金をせぬ様、一定額は一時的に会社で保管しておくのじゃ。

 当然、問題無いとエドガー殿かゴッズ殿が判断すれば、一時保管を止めて満額受け取る事も出来るのじゃ。

 それを孤児達も含め、全員が真面目に聞いておる。

 特に、孤児達は熱心に聞いておるのう。

 聞けば、王都にも孤児院はあるがその家計は火の車、いくつかの貴族が善意で資金提供はしておるらしいが、中にはそう言った嗜好小児性愛趣味を持っていて寄付する代わりに……という阿呆な貴族もおる。

 当然、そう言った阿呆共は他の貴族から叩き出されるのじゃが、中には強かに行動しておるのもいる。

 故に、孤児達は自ら金を稼いで自立しようとしておるのじゃ。


 今までは、犯罪組織か冒険者という自己責任の世界に行く事が当たり前じゃったが、孤児がどっちになった所で、碌な装備も揃えられず、最初からハードモードなのじゃ。

 じゃが、この事業が上手くいけば、孤児達の選択先にポーション工場への就職が増えるのじゃ。

 そして、次なる大きな一手が打てるのじゃ。

 それが、孤児達への勉学を教える場を併設する事、つまりは学校じゃな。

 ポーション工場に勤める大人達の中には、それなりの人生経験を経ておる者も多い。

 そう言った大人から空き時間に話を聞いたり、寮の奥様達から算術計算を教えて貰ったりすれば、将来的に有能な者達が誕生するじゃろう。


 まぁ全てはこのポーション工場が軌道に乗って、大金を稼げるようになれば、という皮算用なのじゃが……


 この従業員寮じゃが、大人であれば各部屋は基本二人で使う様に分けられており、昇進して監督官になれば一人部屋に移動したり、場合によっては一軒家を借り受けたりする事も出来るのじゃ。

 一番大事な事じゃが、問題行為を続けたり、ポーション工場以外でも盗みを働いた場合、憲兵に叩き出して、懲戒免職クビになるのじゃ。


「ちび助よ、まだしばらく掛かりそうか?」


「うむ? この後はエドガー殿達と今後の事を話し合った後、濾過した薬液でポーションの仕上がりを確認して、ワシは冒険者ギルドに行く予定じゃが……」


「ん? 冒険者にでもなるのか?」


「いや、ワシとベヤヤで仕留めたのを解体して貰おうと思ってのう。 本職がやった方が良いじゃろうし、ワシの身体じゃ解体するのも一苦労じゃからのう」


 主にワイバーンとか飛びトカゲとか飛翼竜とかの!


「それじゃ、イクス達には俺が連絡しておくか……」


「んむ? どういう事じゃ?」


「王都は間者スパイ対策で念話とかを防ぐ結界魔法陣が敷設されてるんだよ」


 バートの言う通り、試しにベヤヤに念話を送ってみたのじゃが、一向に返事が返ってこぬ。

 どうやら、かなり強力な結界のようじゃのう。


「ふむ、それではワシからも伝言を頼むかの」


 そうして、バートはベヤヤを匿っている小屋に向かい、ワシは濾過した薬液のチェックをしたのじゃ。

 濾過した薬液を使ったポーションは十分な品質になっており、ちゃんとした手順を踏めば問題無い事は間違いない事を確認したのじゃ。

 この後、必要な薬草やら素材を運び込み、ポーション工場が本格稼働する事になるのじゃ。

 さて、それじゃ今後の事をエドガー殿と話し合うとするかのう。



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