第19話




 平原に群れたオーク。

 何処から現れたか気にはなるのじゃが、今はとにかく、対処する必要があるのじゃ。


「ベヤヤ、とにかく数を減らすのじゃ!」


『おうよ!』


 ベヤヤから降りて、オークの群れに突撃させる。

 その間、ワシはオークが逃げぬよう、ちと準備をしておくのじゃ。


「『ロックウォール』!」


 杖の先で地面を突き、一気にマナを流す。

 ロックウォールは巨大な壁を出現させる土属性の中級魔法であり、術者によってサイズから強度まで色々と弄れて便利なのじゃ。

 そして、今回の発動魔術の対象範囲は、今見える範囲全体、強度は鉄でも砕けぬ程硬くなのじゃ!


 ズゴゴゴゴと地響きを上げながら、平地を囲むように10m程の岩の壁が出現する。

 オーク自身が2m程のサイズなので、それでも結構巨大に見えるのじゃが、一ヵ所に集まれば容易に超えられるじゃろう。

 まぁ、ワシとベヤヤがそれを許す訳がないのじゃがの。



「グガァァァァ!」


「プギィィィィ!!」


「ブヒィッ!」


 ベヤヤがオークの群れに突撃し、それに気が付いたオーク達が反応して声を上げておるのじゃ。

 ベヤヤの攻撃は爪や牙、そのパワーによる殴りなのじゃが、オーク達の方は様々な武器を持っておるのじゃ。

 まぁ全部粗末な物なのじゃが、それでも、剣や槍、棍棒に斧、ブッチャーナイフと呼ばれる鉈の様な物まで、かなりの数を持っておる。

 しかし、武器の充実に比べて、防具は身に着けておらんのう。

 一応、腰蓑を付けとるから、ぶらぶらとアレは見えぬが、他に身に付けとる様な物は無い。

 種族的な物なんじゃろうか?


「まぁ気にしても仕方無いのう。 さて、逃げそうなのはいるかのう?」


 見回せば、予想通り、味方を踏み台にして逃げようとしている集団がおったのじゃ。

 ふむ、何やらアレは他と違って見た目が派手じゃのう。


「『ライトニングボルテックス』!」


 指定した範囲に巨大な雷を落とす雷の上級魔法で、その集団にいた見た目が派手な個体を狙い撃ちするのじゃ。

 当然、一体だけを狙っても、その周囲にいたオーク達も巻き添えで黒焦げになっておる。

 一応、肉は美味と出ておったので、出来るだけ形を残したいのじゃ。

 それに魔石も取れるしの。


「さて、ベヤヤはどうなったかの」


 逃げようとした集団はアレだけじゃったようで、他に逃げるような所は無かったのじゃ。

 ベヤヤはベヤヤで、オークの集団の中央に陣取り、無双しとるのう。

 腕を振っただけで、オークが吹き飛び、爪で切り裂いて臓腑が飛び散っておる。

 オークも攻撃しておるのじゃが、ベヤヤにはダメージを与えられておらんのう。

 毛皮が頑丈なのか、攻撃しても武器が折れてしまっておる。

 そして、その反撃でオークが屠られて、どんどん数を減らしておる。

 うーん、非常にスプラッタな光景じゃ。

 しかし、こうしておると、ワシ自身も非常識な存在になったのう。

 日本にいた頃は、こんなスプラッタな光景を実際に目にした事は無いのに、今は全く問題が無い。

 やはり慣れかのう?


 その後は結局、壁の上に座ってオークが全滅するの見ているだけじゃった。


 結局、オークは全部で138匹おったのじゃ。

 それをベヤヤと手分けして、アイテムバックに収納するのじゃが、細かいパーツまでは流石に無理なのじゃ。

 なので、大きく形が残っておるのだけ回収し、残りは全て焼き払っておいたのじゃ。

 血糊と残った肉片が腐って、変な病気でも広まったらそれこそ一大事じゃからな。

 村に戻る前に周辺を調査するが、オークの集団がここにいた理由は謎なのじゃ。

 別に異変も無く、かと言って何か変わっているようなところも無い。

 本当に謎じゃのう……




 村に戻り、村長にオークの集団がおったから殲滅した事、周囲に異常は見つけられなかった事を伝えておくのじゃ。

 ついでに、殲滅したオークの一部を提供し、村人達で食べて貰ったのじゃ。

 流石に数が多いからのう。

 魔石も大量に手に入れられたので、後で全部加工予定なのじゃ。



 あの一番派手じゃったオークから取れた魔石なのじゃが、他の魔石と比べて一回り程大きかったのじゃ。

 おそらく、ただのオークでは無く進化した個体なのじゃろう。

 まぁ鑑定しても『オーク』としか出ぬから、判別するのは無理じゃが……

 一応、アイテムボックスに入れておけば腐らぬから、これもイクス殿達が来るまで放置じゃな。




 それから数ヶ月。

 村ではバートがゴッズ殿達と一緒にポーションを作っておるのじゃが、中品質のポーションまでは安定して作れるようになったのじゃ。

 エドガー殿が来れば、全部買い取りになるのじゃが、まだ来ないのう。

 マリオン殿に預けてあるアイテムボックスの中品質ポーションを確認しながら、前にエドガー殿が来た時の事を思い出すのじゃ。

 一応、ポーション作りで出た残り粕は、同じ様にアイテムボックスに保管してあるのじゃが、もし、美容パックに使わないのであれば、肥料行きになるのじゃ。

 同じように、コボルト豆を集めて油も搾っておるのじゃ。

 こちらはワシが色々と試したいので、個人的に村人達に御願いしておる。

 今の所、食用には適しておらぬという事だけは判明しておる。

 料理に使ってみた所、凄い味になったのじゃ。

 ベヤヤも食べたが、二度と料理に使わない事を決めた程の味じゃった……

 後は、燃料代わりに出来るか調査中なのじゃ。


 小屋の作業場で、コボルト豆の油で調合をしていた所、村人数人が慌ててやってきたのじゃ。

 なんでも、購入した家畜がバタバタと死に始めており、原因を調べて欲しいと頼まれたのじゃ。

 家畜がバタバタ死ぬなど、病気か何かだと思うのじゃが、もし人間にも感染する病気じゃと非常に拙いのじゃ。

 村人達はそれなりに回復はしておるが、病気に掛かれば一発で重症化してしまうじゃろう。

 ベヤヤを連れ、急いで村に向かうのじゃ。




 そうしてやってきた村の家畜エリア。

 そこでは、遠巻きに村人達が見ており、ゴッズ殿とバートが村人達に入らぬように指示を出しておる。

 そして、村長と飼い主の村人が何か話し合っておったのじゃ。


「呼ばれてきたのじゃが、村長、アレがそうなのかの?」


「あぁ、魔女様、はい、アレがそうなのですが……」


 村長達の見ておる先にあったのは、横たわった牛の様な家畜。

 聞けば、一月ほど前に隣の村から新たに購入し、他の家畜と一緒に飼育しておったが、昨日今日で急に全て死んでしまったらしい。

 ここ数日で異常な行動はあったのか、食事に偏りは、水を異常に飲むような事は、と色々と飼い主に確認するが、どれも心当たりは無いという。


「ふむ、そうなると掻っ捌いて調べるしかないのう……」


 詳しく調べる為、解剖する事を飼い主に伝え、どうせ売り物にはならぬし、もしこれが人にも感染する病気じゃった場合、一大事なのじゃと、納得してもらったのじゃ。

 取り敢えず、結界魔法でこの牛の周囲を囲って隔離し、もしもの時の為に備えるのじゃ。

 解体に使っておる革手袋越しに触った感じ、死んでそれなりの時間が経過しておるのに、妙に熱を持っておる。

 更に、妙に腹部が膨れておるのじゃが、この牛は肉を取る為の牛なので、太らせておるのじゃろうか?

 本当に死んでおるのか、瞳孔の収縮を確認し、間違いなく死亡しておるのを再確認する。


「さて、それではやってみるかの」


 外から見た限りでは、腹が膨らんでいるというだけで何もわからんのじゃ。

 こうなれば、腹を掻っ捌いて、臓腑がどうなっておるのか調べなければならぬ。

 本来は先に血液を調べたりするのじゃが、今回は採血する為の道具がない。

 後で作っておかねばのう。


 アイテムボックスから解体時に使っておる鋼鉄製のナイフを取り出し、牛の腹側に回る。

 膨れた腹部を軽く押すと妙に弾力があるんじゃが、これは肉牛だからではなく、腹の中にガスでも溜まっておる可能性があるのう。

 覚悟を決めて、剣の切っ先を腹に突き刺すのじゃ。

 プツッと剣先が皮に突き刺さった瞬間、ドヴァンッと炸裂音とガスと共に、大量の血と臓腑が噴き出した。

 そして、その臓腑と血がワシ目掛けて襲い掛かったのじゃ。



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