第18話
目の前のジョウロは確かに、少し前にワシが作った物で間違いなかろう。
あの時はまだシンボルマークが無かった為、これには付いていないが、魔粉除去をするジョウロとなれば、間違いなく、ワシの作った物じゃな。
「おー懐かしいのう、確かにそれを作ったのは間違いないのじゃ」
「よし、直ぐに会わせてくれ!」
「ふむ、用件はなんじゃの?」
まだ眠いが、多少仮眠した事で少しは大丈夫じゃろう。
ワシに用があるようじゃし、見た目、教会に仕えているような感じではない。
取り敢えず、用件は先に聞いておくかの。
「魔女に会ったら話す。とにかく取り次いでくれ」
「じゃから、何の用じゃと聞いておるんじゃ」
どうにも話が噛み合わん。
用があるならさっさと言って欲しいのじゃが。
『何してんだ?』
そうやって押し問答をしていたら、森の奥からのそのそとベヤヤが出てきた。
その首には黒い鞄をぶら下げており、若干膨らんでおる事から、何かしら大物が獲れたのじゃろう。
ベヤヤが現れた事により、扉の前で押し問答をしておった男が慌てた様にベヤヤの方を向いた。
「エンペラーベアだと!? 何故こんな所に!」
そう言うや否や、その腰から短い棒の様な物を引き抜き、先端をベヤヤの方に向けた。
そして、その先端に向けてマナが集約していくのが分かったのじゃ。
コレは拙いのじゃ。
「『マナボルト』!」
「ガ?(あ?)」
一瞬の光が走ったかと思った瞬間、棒の先端から発射された玉がベヤヤに直撃したのじゃ。
まぁダメージを与えられた様子は無いのじゃが。
ふむ、弱っちいのう……
「馬鹿な!?」
「グァ?(殺っていいのか?)」
「『スタンショット』なのじゃ」
まずは驚いて固まっておった男の背後から、麻痺させる魔法を使って体の自由を奪うのじゃ。
その後は、ベヤヤ協力の元、簀巻きにして村の吊るし場に吊るして、気が付いたら村長に話を聞いておいて貰えるように頼んでおくのじゃ。
ベヤヤは不満げじゃったが、攻撃したら反撃しても良いとは言ってあるのじゃったが、今回はワシの客のようなので我慢してもらうのじゃ。
それにダメージなど受け取らんじゃろ?
「しかし、また獲って来たのう」
ベヤヤから受け取った鞄の中に入っておったのは、ウサギが5、鳥が2、そして豚面の2足歩行だと思われる魔獣が3じゃった。
この鞄、ワシの持っておるアイテムボックスと同じ物で、ベヤヤが狩って来た獲物を収納させておる。
今までは運べる数に限界があったが、これならいくらでも入るのじゃ。
ふむ、この豚面の魔獣はオークじゃな。
鑑定で調べてみると、肉は比較的美味であり、庶民でも口に出来る程、数が揃えられる為、率先して狩られるが、とにかく繁殖力が強い為、一向に減る事が無いという。
ただ、この辺にはいないと思ったのじゃが、ベヤヤ曰く、魔石を持っているので少し山から離れて狩ってきたのじゃと。
問題は、オークを狩ったという事は、それなりに近くにオークが来ているという事じゃ。
繁殖力が強いオークは、食欲も旺盛で、村であろうが数に物を言わせて襲う事もある程、危険な魔獣でもあるのじゃ。
ベヤヤに詳しい場所を聞かねばならんな。
ベヤヤの狩ってきたオーク3体から魔石を抜き出し、一つずつ不純物を除去してからマナを籠める。
コツは掴んでおるので、さほど時間も掛からず再び虹色の魔石が3個出来たのじゃ。
1個だけは今後の研究の為に貰い、2個はベヤヤの腹の中に納まったのじゃ。
量の問題なのか打ち止めなのか、今回は進化はしなかったのじゃが、経過を見る必要はあるのう。
「それで、どこら辺でオークを見たんじゃ?」
『山のあっちの方にデカイ岩があるのは知ってるよな? その向こう側でうろついていたんだよ』
ふむ、確かに山の向こう側、村から見ればそれなりに近い場所に、一軒家クラスの巨大な岩があるのは知っておる。
その向こう側は比較的大きい平原が広がっており、村の畑の拡張をする場合、そっち方面へと伸ばそうという計画があるという話も聞いておる。
しかし、オークがそこでうろついておったというのは不自然じゃのう。
オークは食欲が旺盛な分、動いている間は常に何かを食べなければ飢えてしまうという、困った体質をしておる。
じゃが、あの平原にオークが腹を満たせるような食糧は無い筈じゃ。
つまり、何かしらの理由で流れてきたか、誰かが意図的にオークを連れてきた可能性があるのじゃ。
「一応、村長には話して注意させておいた方が良いのう」
ベヤヤの狩って来た獲物を、食糧庫代わりのアイテムボックスに放り込み、山を下りて村へと向かう。
そして、村へとやってくると、吊るされておった筈の男は地上に降ろされておった。
村長がワシらを見て、何かを男に説明しているのが見えるのじゃが、そう言えば、名前を聞いておらんかったのう。
「村長よ、ちと厄介な事が……」
「先程は失礼しましたっ!」
村長にオークの件を相談しようとした所、男がいきなり土下座して謝罪をしてきたのじゃ。
どうやら、ワシの見た目で魔女の助手か、小間使いじゃと思ったらしい。
しかし、村長からワシがその探しておる魔女であり、この村で色々とやっておる事を聞かされ、こうして謝罪をしようと思ったらしいのじゃ。
まぁワシは別に何とも思っとらんから、問題無いのじゃ。
「それで、魔女様、何かあったのでしょうか?」
おぉ、そうじゃそうじゃ。
村長にベヤヤがオークを発見した事、ちと村に近いので注意をする事を伝え、ワシとベヤヤが調査に向かう事も伝える。
村でも、もしもの時に備えて欲しい事と、いざと言う時は山に逃げるように伝えておく。
ワシらのいる山はベヤヤの縄張りであり、オーク程度の魔獣は恐れて登っては来ないのじゃ。
「さて、それではワシとベヤヤは調査の為、平原に行くのじゃが……」
「俺をアンタの弟子にしてくれ!」
そう言ったのは、先程の男。
名前をバート・エル・シュトゥーリア。
年齢21歳の赤毛で多少筋肉質の体つきの男で、凶作対策の為に設立された調査団に所属しておったが、余りにも教会とズブズブで利益にしか興味がないばかりの組織を見限り、ワシの作ったジョウロを魔道具と見抜いて、魔術式を知りたくてここまでやってきたらしいのじゃ。
本来は、魔術式を教えて貰えれば良かったのじゃが、どうにもワシが使って麻痺させた『スタンショット』の効果を実体験し、これは魔術式だけではなく、技術そのものを教えて貰った方が良いと考えを変えたらしいのじゃ。
と言うのも、バート達は状態異常に耐性を得る為の魔道具を常に身に着けており、それをぶち抜いて麻痺させられたのは始めてなのだという。
これは、純粋に魔法技術がずば抜けているとの証明でもあり、同じ様な事を出来た魔術師は、コレまで誰もいなかったという。
ワシは弟子を取る気は無いんじゃが……
しかし、弟子にする気はないと伝えても、これは帰る気配はないのう。
そうじゃ、それなら教える代わりに扱き使ってやるとしよう。
試しに錬金術スキルが使えるか聞いてみるのじゃ。
「錬金術スキル? 一応、使えるが……」
よし、それならゴッズ殿の作業を手伝わせるのじゃ。
スキルを使用せず、ここにある道具を駆使して高品質ポーションを安定して作れるようになったら、と弟子の条件を出しておくのじゃ。
スキルを使えば簡単に作れるじゃろうが、ワシが必要としておるのは、スキル無しでも安定して供給出来るポーション製作技能なのじゃ。
バートは直ぐにクリアしてやると息巻いておったが、大丈夫かのう。
一応、ここまでやってきた努力は認めるので、ジョウロに組み込んであった魔粉浄化の魔術式は教えてやったのじゃ。
くれたら何やら、その場で跪いておったのじゃが、ちと不気味じゃのう……
「さて、それではワシらはオーク調査じゃ」
『最初に見付けた所で良いんだな?』
ベヤヤに跨り、最初に見つけたという場所に案内させる。
巨大な岩を通り過ぎ、平原が見渡せる場所にやってくると、そこは一面草ばかり。
そんな場所に、オークがわらわらわらとかなりの数がいたのじゃ。
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