第16話




 虹色に輝く魔石。

 元々はワイバーンから取り出した赤い魔石じゃったが、ワシがゴミを除去し、魔力を送り込み続けた結果、見た事も無い色に輝いておるのじゃ。

 しかも、虹色に輝いておるが、透き通ってもおり、向こう側が見えるのじゃ。


「う~む、不思議じゃのう」


「ガァァァァアアァ!(不思議じゃねぇぇっ!)」


 ベヤヤからの抗議が来たのじゃ。

 まぁベヤヤが怒るのも無理はないとは思うのう。


 元々、ワイバーンの魔石を食べて強くなる筈が、訳の分からん魔石になってしまったんじゃから。

 しかし、これ食えんのかのう?


「ふむ、ベヤヤよ、恐らく、多分、きっと魔石には間違いないのじゃ、喰ってみるのじゃ」


『んな訳の分からん変化した魔石なんぞ喰えるか! 』


「大丈夫大丈夫、もし何か起きても、ワシなら対処出来るからの」


『起きる事前提か!』


 取り敢えず、見た事のない変化を起こしてはおるが、魔石に変わりない事は間違いないのじゃ。

 それに、これだけ不純物を除去した魔石など、まずお目に掛かる事などないはずじゃ。

 もし、これで影響があるようなら、以後、魔石は加工せずにベヤヤに食べさせるし、良い影響があるなら、魔石を加工するのも良いのじゃ!


「何、ちょっとワシのポーションで治す改造するだけじゃって」


『ルビが違ぁぁぁぁう!!』


 結局、問題が起きたら必ず普通に治す事を約束し、ベヤヤが虹色の魔石を受け取ったのじゃ。

 そして、ジロジロと魔石を見回した後、魔石を口に放り込んだ。

 バリゴリベキと凄まじい咀嚼音じゃな。

 と言うか、魔石に味ってあるのじゃろうか?

 そんな事を考えておると、ベヤヤが何やらプルプルと震え始めた。

 あ、コレは何か拙かったかの?


「グオォォォォォ!?(うまぁぁぁぁぁぃ!?)」


 ベヤヤの叫び声が山に響き渡る。

 思わず耳を塞いだが、その衝撃で肌がビリビリと痺れるのじゃ。


「どういう事じゃ? と言うか味はあるのじゃ?」


『今まで喰った魔石に味なんて無かったが、こいつは違う!』


 バリゴリと咀嚼しながら、ベヤヤが念話で話す。

 ふむ、普通の魔石には味なんて無いのか。

 しかし、魔石の味のう……

 魔石はマナの貯蔵庫という事じゃから、マナの味という事かの?

 そして、あの魔石に溜まっとるマナの大半はワシのマナじゃったな。


「つまり、ワシのマナは美味しい……という事かの?」


『この魔石に比べりゃ、今まで喰った魔石なんざそこらの石と一緒だ! それに力が漲ってくる!』


 ベヤヤがゴクンと噛み砕き終えた魔石を飲み込む。

 そして、ベヤヤの周囲がユラユラと歪み始めたのじゃ。

 アレじゃ、蜃気楼のように、景色が歪んで見える感じに似ておる。


「お? これは何が起きとるんじゃ?」


『コイツはまさか……進化するのか!?』


 ベヤヤの言葉を聞いた瞬間、ベヤヤ自体が輝き始め、徐々にその体躯が大きくなり始めたのじゃ。

 ふむ、進化と言っておったが、確かベヤヤは『エンペラーベア』と言う魔熊種としては最終進化個体、と聞いておったのじゃが……

 更に進化する事が出来たのか。


 そして、徐々に光が治まっていくと、そこには二回りほど巨大になったベヤヤがおったのじゃ。

 進化した事により、全体的に強くなった上、タフネスは魔生物学上、トップになったじゃろう。


『身体の底から力が溢れて来る!』


「ふむ、おめでとう、と言いたいのじゃが……その額はスマンのう……」


『は? 額?』


 そう、ベヤヤの額には、光り輝く杖とブドウの房マークがあったのじゃ。

 アレじゃな、ワシのシンボルマーク。

 進化前は無かったが、進化でマナが活性化した結果、見えるようになったんじゃろう。

 しかし、まぁこうなってしまってはどうしようもないのじゃ。


「しかし、進化したのは良いのじゃが、種族的には何になるんじゃ? 一般的にはエンペラーベアが最終進化と言われておるんじゃろ?」


『俺に聞かれても知らねぇよ、そもそも進化自体、早々起きねぇしな』


「こういうのに詳しいのは、イクス殿達じゃが、この前行商の護衛として来たばかりじゃからなぁ……」


 ワシの鑑定で見ると、実は種族的には『エンペラーベア』のままなのじゃ。

 じゃが、ここまで変化するとなれば、進化しておるのは間違いなかろう。


「まぁこれは後々、イクス殿達が来たら聞くとしようかの」


『それでだ、ちっこいの、次から魔石は同じようにしてからくれ』


 どうやら、ベヤヤは味を占めた様じゃな。

 そこそこ強くなって味無しの魔石と、とても強くもなる上に味も良くなった魔石。

 どっちを選ぶなど、誰でも分かり易いのじゃ。


「まぁワシは問題無いがの? 魔石を持った魔獣が獲れた時は加工してやるのじゃ」


 そう、この魔石持ちの魔獣・・・・・・・と言うのが曲者なのじゃ。

 ベヤヤも言っておったが、魔石を持っておる魔獣と言うのは、純粋に体躯が巨大か、その種の中でも異常に強くなった個体だけなのじゃ。

 そして、今回は偶然ワイバーンが来たから獲る事が出来たが、そもそも、この山には魔石持ちの魔獣はいないのじゃ。

 ベヤヤの行動から察するに、ワシと出会うまでに、魔石持ちの魔獣は全て狩ってしまったんじゃろうなぁ。


『あのウサギ共、魔石持ちなら良かったのにな』


 確かにパイクラビットが魔石を持っておったら、食い放題じゃろう。

 あのウサギ、繁殖力と成長力は凄まじい物があるからのう。

 まるでお話に出て来るゴブリン並じゃ。


 しかし、魔石加工で図らずとも徹夜してしまったのじゃ。

 ゴッズ殿達に薬草を届けたら、少し仮眠するかの。




 それなりに朝早かったのじゃが、この村に限らず、この世界では日が昇るくらいには起き出し、行動を開始するようなのじゃ。

 なので、ベヤヤに跨り村に行くと、既にそれなりの数の村人が色々と準備しておったのじゃ。

 その村人達じゃが、デカくなったベヤヤに最初は驚いておったが、背にワシがいるのを見て、落ち着いておった。


 ゴッズ殿の家に行き、今日の分の薬草を届けた後、村長宅に行き、図らずとも徹夜してしまったので、家で仮眠している事を伝えておくのじゃ。

 当然、緊急時は起こしても構わん事も伝えたので、一旦仮眠の為に家に帰るのじゃ。



 睡魔が酷い中で調理など出来ぬので、栄養剤のポーションを飲んで寝室に向かう。

 ベヤヤは進化した体躯の調子を掴む為に、山の中を動くと言って、小屋から離れておるが、防犯装置もあるからまぁ問題はないじゃろう。

 では、おやすみなさいなのじゃ。




 しばらくして、小屋の前に一人の人影がやってきた。

 そして、周囲を確認して小屋のドアに付いていたドアノッカーを叩いた。

 当然ながら、家主は仮眠中でベヤヤは不在の為、返事も反応も無い。


「……チッ」


 その人物が数度、ドアノッカーを使用するが、依然として反応は帰ってこない。

 やがてイラついてきたのか、ドアノッカーを使用せずにドンドンとドアを叩き始めた。


「……なんじゃ、急患でも出たのかのう……」


 かなり力強く叩いた成果か、小屋の中から声が聞こえてきた。

 そして、ガチャガチャと音がして、扉の横にあった小さい小窓が開いた。


「……一体何の用じゃの?」


 銀髪の幼い顔立ちの少女が、眠気を抑えるようにしてそこから顔を出した。


「ここに魔女がいると噂に聞いたのだが、間違いないか?」


「んぁ? 魔女かの……確かにいるが……」


 男はその返事を聞いて、懐に手を入れた。

 そして、小さな袋を取り出し、それに手を入れて何かを取り出した。


「では、この魔道具を作ったのは、ここの魔女と言うのは本当か!?」


 そう言って取り出したのは、一つの古びたジョウロだった。



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