第15話




 濾過したコボルト豆から採れた蒼白い油を、今度は薬草の絞り粕とエドガー殿の売り物の中にあったハチミツを少しだけ混ぜる。

 すると、緑色の若干固めのドロリとした物体が出来上がったのじゃ。

 これが、一応美容パックとなるのじゃが、これを誰が使うかなのじゃが、エドガー殿の商品を使っておるのじゃから、コレはエドガー殿に渡すのが一番じゃろう。


 その後、エドガー殿はそれをワシが作った小瓶に詰め、知り合いの女性に試してもらうと言っておったのじゃ。

 そして、ゴッズ殿とマリオン殿はこの村に残り、品質を上げる為にワシの指導を受ける事になっておる。

 と言っても、水車小屋の石臼があるから、擂り潰しは問題無いし、濾す時の布も目の細かい物になっておるから、後は二人のやる気次第じゃな。

 しかし、ワシが教える以上、手は抜かんのじゃ。


「そういや、嬢ちゃんよ、普通の調合師とか薬師がやる調合だと、どんな感じで作ってんだ?」


「んむ? そうじゃのう、別に見せてもよいが、何の参考にもならんと思うぞ?」


 取り敢えず、興味はあるようなので、一応作って見せるのじゃ。

 とは言え、手順は非常に簡単。


「まずは『抽出』なのじゃ」


 薬草から薬効となる成分を抽出。

 見る見るうちに薬草がカラカラに乾燥し、緑色の液体が指先に集まってくるのじゃ。

 その抽出した物を蒸留水に混ぜる。

 そして、鍋に薬草の根と一緒に入れて煮るのじゃ。


「とまぁコレで完成なのじゃ」


「「本当に簡単(だな!)(ね!)」」


「まぁコレにも欠点はあるのじゃがな」


 この『抽出』は腕と集中力次第で、どれだけ不純物を取り除けるかが決まってしまうのじゃ。

 恐らくエドガー殿の雇っている者達は、かなり雑にやっておるのじゃろう。

 それに、この方法では美容パックの元になる絞り粕が手に入らんのじゃ。

 そうなったら、もし売れるようになった時に、面倒な事になるからの。


「さて、それでは二人共、これから毎日ポーション調合をするのじゃ!」


 薬草の在庫は心配せんでも良いぞ。

 ワシらが住んでおる山に、文字通り腐る程生えとるからの!

 これは、ベヤヤが山に入ってきた者達を、軒並み全員追い返していた為、山の奥では至る所で薬草が自生しておるのじゃ。

 今は村人達が奥まで入っておるが、それでも薬草はもじゃっと生えておる。



 そして、毎日ワシが採取した薬草を、ゴッズ殿が石臼で擂り潰して濾し、マリオン殿が鍋で煮てポーションを作るという作業分担で作り始めたのじゃ。

 当初は低品質ポーションが多かったのじゃが、少しずつ中品質ポーションが出来るようになってきたのじゃ。

 流石に、高品質ポーションを作るまではいっておらんが、このままやっておれば作れる可能性はあるのう。

 今はとにかく、中品質ポーションを安定して作れるようになるのが目標じゃな。




『そういやちっこいの、あの飛びトカゲの魔石をくれ』


 夕食時、ベヤヤにそう念話で言われて、はて、と首を傾げた。

 ワイバーンは解体するのが無理という事で、ワシのアイテムボックスに収納してあるのじゃが、少し考えて魔石くらいなら何とか取れるじゃろう。

 しかし、それをどうするつもりじゃ?


「取るのは出来るじゃろうが、その魔石をどうするんじゃ?」


『俺が喰うんだよ。 そうすりゃ強くなれる』


 ふむ、ベヤヤみたいな魔獣は、強くなる為に魔石を取り込む必要があるのか。

 しかし、そう考えると普段食べておるパイクラビットには、そんな魔石を見た覚えはないのう。


『魔石が出来るのはそこそこ身体がデカイ奴か、異常に強い奴だけだ』


 なるほどのう。

 つまり、パイクラビットのサイズでは魔石は出来難く、もしあのサイズで魔石が出来る個体は珍しいんじゃな。

 よし、魔石くらいは取り出してみるとしようかの。


「そうと決まれば、よっこいしょっなのじゃ!」


 薄暗くなりつつある小屋の庭先に、アイテムボックスからワイバーンを引っ張り出す。

 掛け声は必要ないのじゃが、気分なのじゃ!

 そして、作ったは良いがアイテムボックスに収納したままだった、オリハルコンナイフを手に取って、ワイバーンの胸部を切り開く。

 手応えも無くワイバーンの胸骨を割き、心臓部の近くにソフトボールくらいの赤い玉を見つけたのじゃ。

 じゃが、その赤い玉には尖った小さい石が突き刺さり、全体的にひび割れておった。


「あー……コレはあの時のじゃな……」


 グラビトン・レールガンで撃ち出した、弾丸の破片。

 アレは一軒家近くある岩を超圧縮した物なのじゃが、着弾した後、相手の体内で表面が剥離して、相手を内部からズタズタに破壊していく、という効果があったのじゃ。

 それの一部が、こうして魔石に突き刺さってしまったんじゃな。

 これでも問題無いのかのう……


「しかし、こうして見ると、この魔石は随分濁っておるのう」


 この村の畑で集めた魔粉から作った魔石と比べ、この魔石はまるで違っておるのじゃ。

 まず、色が濃く、内部に小さい黒いゴミの様なものが随分と見えるのじゃ。

 それを手に取り、ワイバーンを再びアイテムボックスに収納しておく。

 そして、そのひび割れた魔石を、ベヤヤに見せていくつか聞いてみる事にしたのじゃ。


 まず、この状態でも問題無いのかどうかなのじゃが、ベヤヤは別に問題無いと言っておったのじゃ。

 と言うより、どの道、噛み砕いて食べる為、ひび割れていても良いらしい。

 他には、この魔石の中にある黒いゴミ。

 コレについてはベヤヤも知らぬと言っておるのじゃ。


「となれば、ちょっと調べるとするかの」


 魔石を両手に持ち、集中するのじゃ。

 まず、魔石そのものを調べる。

 ふむ、どうやら魔石と言うのは、その魔獣にとって余分なマナを溜めておく為の、貯蔵庫の様な役割をしておるようじゃの。

 非常時にはこの魔石からマナを取り出し、平時は貯蔵しておく。

 そして、この黒いゴミは、魔石を作る際に取り込んでしまった周囲の細胞なのじゃ。

 それが魔石の中で変異し、黒いゴミとなってしまう。

 色が濃いのは目に見えぬ程小さい粒が魔石中にあり、それで魔石の色が濃く見えるようじゃ。


 ふむ、もし全部除去したらどうなるのじゃろ?


「ベヤヤよ、この魔石から不純物を取り除いてみようと思うのじゃが、良いかの?」


『まぁ別に良いけどよ、大丈夫なのか?』


「んーまぁ問題無いとは思うのじゃ。 魔粉魔石の事もあるしの」


 まず、魔石の中にある不純物を除去するのじゃが、コレは魔石からゴミを押し出すイメージなのじゃ。

 ワシ自身のマナを魔石に浸透させ、暫くすると、魔石の底面からゴマ粒の様な黒いゴミがポロポロと、徐々に内部から押し出していく。

 その作業が終わると先程と違い、澄んだ赤色の魔石が出来上がっておった。

 ヒビは入っておるが、それでも先程の色と比べると、随分と違うのう。

 そして、この作業をした事で、更に魔石について興味が湧いたのじゃ。


 ……ワシのマナが浸透出来るのであれば、もしかして、この魔石にワシのマナを溜める事も出来るのでは?


 そんな事を考えてしまったワシは、不純物を押し出すイメージから、今度はマナを魔石の中に溜めていくイメージに切り替えたのじゃ。

 む、ヒビからマナが漏れとる?

 ならば、マナで塞ぐのじゃ!


『お、おい、ちっこいの? 何してんだ?』


 ベヤヤが何か言っておるが、今はこっちの作業に集中しなければいかん。

 これはかなり、難しい作業なのじゃ。

 魔石にはムラがあるようで、マナが溜まりやすい場所と溜まり難い場所があるのじゃ。

 これを均一に溜めんと、不均衡の部分から溜めたマナが噴き出してしまう。

 そうやって溢れ出てこようとするマナを調整しながら、どんどん送り込んでいく。


 空が徐々に白くなり始め、夜が明けつつあった頃、遂に、ソレ・・は完成した。


 虹色に輝く魔石が、ワシの手の中にあったのじゃ。



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