第14話




 日が登り始めた頃、川辺には小屋の高さより大きな円形の水車を備えた、立派な小屋が出来上がっていた。

 そして、その水車は小屋の中で、これまた巨大な石臼に接続されており、休むことなくグルグルと回転し続けている。

 更に、その隣には小型の石臼が設置されており、同じ様に回転していた。


「よし、コレで小屋は完成なのじゃ!」


『デカイ石が欲しいって言うから何かと思ったら、こんなの何に使うんだよ』


 ベヤヤと共に見つけた石を加工して作った石臼じゃが、実際に使わねば性能は分からん。

 しかし、十分実用には耐えられる筈なのじゃ。


「さて、それじゃ次なのじゃ」


 アイテムボックスから麻布の材料となる麻を取り出し、クラフトスキルで布を作ってみる。

 ふむ、やはり目が粗いのう……

 今度は、その目を小さくする事に意識を向け、再びクラフトスキルを発動させてみるのじゃ。

 すると、制作出来る項目に麻布と共に、手拭いが出現していた。

 手拭いと言うのは言うまでも無く、目の細かい布であり、日本では古来からタオル代わりにも使われている布の一つじゃ。

 当然、麻布よりも目は細かい上、非常に丈夫。

 うむ、しばらくはコレで大丈夫じゃろう。


 オマケとして、絞る為の搾汁器を作るのじゃ。

 これは元々ブドウなどを絞って、果汁を採取してワインにする為の道具なのじゃが、別に問題は無かろう。

 手拭いと搾汁器をアイテムボックスに収納し、昨日皆でポーションを作った広場に向かう。

 途中、村人の一人に、ゴッズ殿達に広場に集合する事を伝えて貰えるよう頼み、広場で再びポーション作成の為の準備を始めておくのじゃ。


 そうして再び集合した皆を連れ、完成したばかりの水車小屋へと案内する。

 全員唖然としていたようじゃが、まだまだこれからじゃ。


「では、まずこの大きい石臼に、刻んだ薬草を投入するのじゃ」


 ドサドサと刻んだ薬草を投入していく。

 ベヤヤが。

 ワシじゃ投入口に届かんのじゃから仕方無いのじゃ。


 そして、石臼から擂り潰された薬草がドロドロと出て来るので、それを集めて、今度は小さい石臼に投入するのじゃ。

 これで更に細かく、擂り潰す事が可能になるのじゃ。

 更に細かく擂り潰された薬草を手拭いで包み、搾汁器にセット!

 ベヤヤのパワーでギリギリと締め上げて、一気に絞り出すのじゃ!

 そして、集めた汁を根と共に煮立たせ完成なのじゃ。


「とまぁ、コレで中品質くらいかの」


 瓶の中を見れば、僅かに沈殿物が見えるが、コレは石臼が出来たばかりでバリがあるから、まだ仕方無いのじゃ。

 しかし、これを使い続けていけば品質も上がり、安定して作れるようになるじゃろう。


「す、素晴らしい! 水車を粉挽き以外で使用するなど、誰も思いつかない!」


 エドガー殿がそう言いながら、小屋の中で石臼と水車の接続部分を見ながら興奮しているのう。

 もちろん、この石臼は小麦を粉に挽く事も可能なのじゃ。

 ただ、薬草を擂り潰す関係上、やりたくとも出来んのじゃが……


「これなら、手順を間違えねば誰でも出来る上、安定して品質を保てるのじゃ、それに……」


 搾汁器から、カッチカチに絞り切られた薬草の残り粕を手に取る。

 うむ、ベヤヤのパワーならこうなるのは当然なのじゃ。


「この絞り粕じゃが、コレはこれで使い道があるのじゃ」


 この絞り粕、砕いて撒けば良い肥料になるのじゃ。

 もっとも、ここまでカッチカチじゃと砕くのも一苦労じゃし、これはワシが貰うとしよう。

 他にも、家畜の飼料としても使えるし、植物油を混ぜれば美容パックにも使用出来るのじゃ。



 植物油を混ぜた美容パックの所で、エドガー殿とハンナ殿、ジェシー殿にマリオン殿が反応し、どうやって作るのか、効能はどうなのかと質問攻めにされたのじゃ。

 いつの時代も、女性は美に煩いのじゃな。

 エドガー殿は、売れると思ってるんじゃろうな。


 取り敢えず、ベースポーションの残り粕から出来る美容パックの効能じゃが……

 まず、肌のハリが良くなって目尻の小皴などを消してくれるのじゃ。

 他にも、混ぜる素材によって、ぷるるんたまご肌になったり、シミを消したりと効果は高くなるのじゃ。

 特化型ではなく、効能控えめの万能型では、植物の種から採れる植物油を使い、ハチミツなどを混ぜると良いのじゃ。

 その植物油の材料となる植物じゃが、実は村の近くで手に入ったのじゃ。

 それが、えんどう豆の様な植物で、村人達は『コボルト豆』と呼んでおったのじゃ。

 この豆なのじゃがコボルトが良く持っており、どんな荒れ地でもしぶとく生えて来る、所謂雑草なのである。

 と言うのも、食べられない事は無いが、味は非常に良くない為、食糧としては見られておらず、凶作になっても誰も食べていなかったのじゃ。


「この豆、非常に油分を含んでおるのじゃ、絞れば大量の油が手に入るじゃろう」


 えんどう豆ならぬコボルト豆、試しに莢から一つ取り出して指で潰してみたら、凄まじいまでにニュルニュルする。

 鑑定スキルで分かっていたが、こりゃ凄いのう……


「これは、まさかコボルト豆からこんな物が採れるとは……」


 エドガー殿の指示で、周辺のコボルト豆を村中の子供達に集めさせる。

 無報酬では無く、報酬として街で売られている菓子が配られたのじゃ。



 そしてどんどん集まるコボルト豆。

 それを黙々と全員で莢から取り出し、マリオン殿が作った手拭いの袋に入れ、イクス殿とゴッズ殿が叩いて潰してから蒸していく。

 確か、砕いて蒸せば余計に油分が取り出しやすくなったはずじゃ。

 蒸し終えた物を、アイテムボックス内でこっそり作った手動の搾油機で圧搾すると、蒼白い油が滲み出て来た。

 圧搾作業が一番力がいる作業なので、今回はベヤヤが担当しておる。

 最終的に、数リットル分は余裕で絞れたのじゃが、ここからがちょっと面倒なのじゃ。


「さて、この後不純物を取り除くために濾過せにゃならんのじゃが、とにかく油なので、濾過するにも相当時間が掛かるのじゃ」


 おそらく、丸一日は必要じゃろうのう……

 それを伝え、子供が入れるくらいの小樽に入ったコボルト油を、濾過装置にセットして栓を抜いた。

 ゆっくりと、じわりじわりと濾過が始まったのじゃが、やはり予想通り遅いのじゃ。


 取り敢えず、今日はこれで作業を終了し、もしこの美容パックが成功した場合の詳しい話を詰める事になったのじゃ。


「まず、コレはほとんど魔女様の手柄ですので、やはりここは魔女様が関わっていると分かり易くした方が良いでしょう」


 エドガー殿、別にワシはそこまで目立ちたい訳ではないのじゃが……


「そりゃぁ良い、しかし、魔女って言うと教会が五月蠅いだろ? 魔女印ってトコで良いんじゃねぇか?」


「……フヒッ……それなら、商品の外装にシンボルマークを入れておけば良いと思う……教会に指摘されても、効果が魔女薬みたいだけで、魔女は関係ないって言える……」


 イクス殿とジェシー殿、何やら聞き捨てならぬ言葉が聞こえたのじゃが……

 教会とは何やら物騒な相手になるのかのう?


「となれば、この嬢ちゃんのシンボルマークねぇ……何がある?」


「エンペラーベアじゃない?」


「いや格好だろ」


「ここは村々を救って頂いたジョウロでは……」


 皆が口々に色々言っておるが、別にワシは金儲けを考えてやっておる訳じゃないんじゃが……

 そんな事を考えつつ、帽子を被り直す。


「そう言えば、その杖に付いてるのって何なの?」


「ん? このブドウかの?」


 マリオン殿に聞かれ、杖の先で揺れていた宝石のブドウを皆に見せる。

 そう言えば、あの山で食べたブドウ、美味しかったのう。

 一段落したら、また食べたいものじゃ。


「そのブドウの房と杖で良いんじゃない?」


「確かに、他に使ってる奴なんていないだろうからな」


 こうして皆でワイワイ話しながら、半ば勝手に杖に繋がったブドウの房と言う、ワシのシンボルマークが完成してしまったのじゃ。

 しかもこれ以降、色々な魔道具を作ると何処かにワンポイントでこのマークが現れるようになってしまったのじゃ………



 そして次の日、濾過し切ったコボルト油は、透き通った蒼白い油で非常にサラリとした、非常に上質な植物油となっておったのじゃ。

 まさか、ただの雑草から最高品質の植物油が採れるなど、予想すらしていなかった全員が驚いていたのじゃ。



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