第13話




 擂り鉢に入れた薬草がドロドロになるまで擂り潰したら、今度はそれを麻布に入れる。

 そして、桶の上で一気に絞り出すのじゃ。

 これは流石に力がいるからの、男連中が率先してやるのじゃ。

 そうすると、桶の中に絞り切った薬草の汁が溜まるのじゃが、これに蒸留水を混ぜて薄めてから、再び麻布で濾す。

 これを数度繰り返していくと、徐々に不純物が減っていくので、その後、別の薬草の根を鍋に入れ、一緒に煮込んでいく。

 すると、緑色だった汁が徐々に赤く変色していき、見た目にも鮮やかな透明度の高い赤い液体へと変化する。


「これで体力回復ポーションの完成なのじゃが、最後の煮込む作業の時に入れた薬草の根によって、出来上がるポーションは変わるのじゃ」


 そう説明しつつ、ぐったりしている全員を見回す。

 実は、この最後の煮込む作業に混ぜる薬草の根でポーションの種類が決まり、その前の段階を『ベースポーション』と呼ぶのじゃ。

 このベースポーション製作なのじゃが、実は錬金術師や薬師であれば、省略する事が可能なのじゃ。

 恐らく、非常に面倒なこの作業が嫌われて、世間一般では『一般人には作れない』と勘違いされるようになったのじゃろう。


「魔女様……それで……これの品質は……」


 若干、腕をプルプルさせとるエドガー殿に聞かれ、全員が作ったポーションを一つずつ手に取って、品質をチェックする。

 ふむふむ、まぁ知識も無く初めて作ったのじゃから、これは仕方無いのう。


「まず、中品質が1個、後は皆、低品質じゃな」


 その中品質を作ったのは、ベヤヤだったのじゃが、コレは薬草を擂り潰す作業を意外にも丁寧にやったからじゃな。

 さて、コレで一応誰でもポーションは作れる事は証明出来たのじゃが、後は品質を上げる作業じゃな。

 と言っても、こればかりは慣れ以外に必要な事があるのじゃ。


「さて、皆の衆、今やった作業の中で、二つ、重要な所があったのじゃが、何処か分かったかの?」


 その言葉で、全員が顔を見合わせる。

 さて、分かりやすい物と分かりにくい物があるのじゃが、誰が最初に気が付くかの。


「はい、一つは薬草を擂り潰す所じゃないですか?」


 ハンナが一早く正解を導き出したのじゃ。

 うむ、彼女の言う通り、薬草を擂り潰す作業が、重要な点の一つなのじゃ。 

 細かく出来る程に完成時の品質に影響が出るので、ベヤヤが中品質に出来たのも、そのパワーで丁寧に擂り潰したからに他ならないのじゃ。


 あと一つなのじゃが、各々が刻むサイズじゃったり、煮込む温度じゃったり、時間じゃったりと色々と答えるのじゃが、残念、どれも違うのじゃ。

 少し難しいかの?


「……あの……もしかしてコレじゃないの……?」


 ジェシーがそう言って拾い上げたのは、緑色に染まった麻布。

 絞る時や濾す時に使用していた麻布である。


「うむ、正解なのじゃ」


 そう、このポーション製作の時の重要な点、最後の一つはこの麻布なのじゃ。

 まぁどういう意味なのかは見れば分かるのじゃ。


「さて、自分が作ったポーションをよく見てみるのじゃ。 底に何か小さい物が溜まっておるのが見えるじゃろう? それこそが低品質になってしまう原因の一つじゃ」


 この沈殿物は、いわばゴミなのじゃ。

 効果を失った薬草のカスや、混ぜた薬草の成分同士が反応して大きくなった物質がこのゴミとなり、ポーションの品質を落とすのじゃ。

 つまり、品質を上げたければ、このゴミを出来得る限り除去すれば良いのじゃ。


「つまり、細かくなればなるほど、このゴミが出る確率が大きくなってしまうが、細かくしなければ品質事態を上げられぬ、故に、次に大事なのがこの麻布なのじゃ」


「そうは言いますが、麻布以上に目の細かい布となりますと……」」


「うむ、当然、高くなるじゃろうな」


 麻布は麻と言う植物を、処理して織り込んで作った簡素な布じゃ。

 そして、まだ織物に関しての技術は未熟のようであり、まだまだ粗が目立つ。

 結果として、どうしても目が粗くなってしまい、こういった濾す作業には不向きなのじゃ。

 こういった濾す作業には、目の細かい布が最適なのじゃが、この異世界では布を織るのは当然人力。

 そうなれば、当然高くなり、庶民では手の出ない高さになっていくのじゃ。

 しかし、高品質のポーションを作る際には、どうしても止むを得ないのじゃ。


「そこでじゃ、薬草を擂り潰す作業は簡素化し、更に、布は最初の内はワシがある程度は賄ってやろうではないか」


 当然、利益が上がってきたら、援助はせんがの、と付け加えておく。

 擂り潰す作業は考えがあるから良いし、目の細かい布は材料を揃えてクラフトスキルで作れば、直ぐに作れるのじゃ。

 後は、エドガー殿の許可が下りれば、作業開始となるのじゃ。


「私としましてはそれで構いませんが、魔女様にはいくらお支払いすれば……」


「ん? ワシは別に金を要求するつもりはないが……しかし、そうじゃの……そうじゃ、ワシが欲しい物を探してもらうとしようかの」


 別に金は無くとも暮らせるが、欲しい物はいくつかあるのじゃ。

 それは日本料理に欠かせない素材。


 それはお米!


 調味料は液状の物ならポーションとして創れるのじゃが、お米は作れんのじゃ。

 一度、粥なら出来ると気が付いて創ってみたのじゃが、やはり、米粒を食べたいのじゃ。

 長期間、山小屋を離れる訳にもいかぬので、探す事が出来ず、若干諦めていたのじゃがこれはちょうど良いのじゃ!


「魔女様が欲しい物、ですか?」


「うむ、『米』『ライス』と呼ばれる植物の種子なのじゃが、そのままじゃと茶色い殻に入っておるのじゃ」


 覚えている限り、お米の情報をエドガー殿に伝える。

 畑では無く、水田と呼ばれる水辺で育ち、見た目小麦の様な実を付ける。

 聞いたエドガー殿と言えば、ブツブツと呟きながら今まで取引で扱った品を思い出しているようじゃの。


「さて、ゴッズ殿とマリオン殿には、暫くこの作業をしてもらうのじゃが、当然、簡素化するのでな、安心するのじゃ」


「まぁ俺は大丈夫だがよ、これじゃ数は作れねぇんじゃねぇか?」


 ゴッズ殿の指摘通り、この作り方では大量生産は不可能なのじゃ。

 しかし、ワシはこの作業の内、最も力を必要とする作業を簡素化出来るのじゃ!


「そこは何の心配は無いのじゃ、まぁ明日から暫く宜しく頼むのじゃ」


 取り敢えず、村長に空き家を借りて二人を泊めさせてもらい、ワシはベヤヤと共に川辺に移動したのじゃ。

 この村に流れる川は、そこまで深い訳ではないが、浅い訳でもない。

 深い所ではワシの腰あたりまで沈むので、深さ的にも問題無いのじゃ。


「ガゥ?(それで?)」


「うむ、まずは小屋を作るのじゃ、その後はの、一度山に戻って……」


 言いながら、山で斬り倒した材木をアイテムボックスからどんどん出していく。

 小屋を作った時に使わなかった木材は、まだまだアイテムボックス内に入っておるのじゃ。

 それで簡素な小屋を作るのじゃが、今回はただの小屋を作るのではない。

 ある機能を持たせ、ポーション作りを簡素化させる為の小屋なのじゃ。


 さぁ色々と作らねばならぬ故、今夜は眠れないのじゃ!



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