第12話




 ワイバーンを撃破した後に気が付いたのじゃが、このワイバーン、相当にデカイからワシ一人では解体出来んのじゃ。

 ベヤヤに任せると皮がズタズタになってしまうじゃろうし、村に持っていっても、村人達が解体出来るとは思えんのう。

 何より、試しに村に支給した剣鉈で皮を刺してみた所、まるでゴムの様な感触で、傷すら付かなかったのじゃ……

 べ、別にワシが非力と言う訳ではないぞ。

 こりゃ参ったのう……

 実は、ミスリル素材を使った試作品のナイフなら切れたのじゃが、コレはおいそれと出して良い物ではない。

 ん? そのミスリルはどっから手に入れたって?

 錬金術スキルとクラフトスキル、そしてポーション師の能力をフルに使えば簡単に手に入るのじゃが、早々流通している事は無いじゃろう。

 手順は簡単。

 まず、石を鉄に変化させ、ポーション師の能力で『ミスリル変換薬』を製作して、その二つをクラフトスキルで合成すると、『人工ミスリル』が作れるのじゃ。

 この人工ミスリル、特性などは全く変わらないのじゃが、天然のミスリルに比べて強度が若干劣るのじゃ。

 なのじゃが、そこはワシとぶっ壊れクラスのポーション師。 

 『性能強化薬』を加える事で、『強化ミスリル』にグレードアップさせられるのじゃ!

 ただ、錬金術スキルで直接石から強化ミスリルには変換出来なかったのじゃ。

 当初、これは不思議じゃったが、言うなれば強化ミスリルは上位金属。

 そこらの石ころと比べれば、ランクはいくつも上になるじゃろう。

 一足飛びに作るのは不可能と言う事じゃな。


 ちなみに、同じ変換手順で『オリハルコン』『ヒヒイロカネ』『アダマンタイト』も作れん事は無いのじゃが……

 何故か鉄からの変換時に質量が少し減ってしまうのじゃ。

 これは謎じゃが、検証作業は後回しじゃな。


 ともかく、ワイバーンはしばらくアイテムボックスに死蔵じゃな。

 アイテムボックスの中は時間が停止しとるから、腐る事も劣化する事も無いじゃろう。


 それと、ワシが能力でポーションを製作する際、毎回必ず同じ瓶で作られるのじゃが、コレを変えようと此方に来た際の、怒涛のスキル習得祭中に考えてみたのじゃが、無理じゃった。

 武器の一部にポーションが入ってるとか、金属素材で出来た入れ物に入ってるとか出来れば、かなり便利なんじゃが、コレはどんな除去スキルで除去すれば良いのかが分からんが、変異ポーションがあるから別段困ってはおらんので放置しておる。



 そして、エドガー殿達が再び行商にやって来たのじゃ。

 時の経つのは早いのう……

 今回は、村へ治療として来ていたので、呼ばれる事は無かったのじゃ。


「久しぶりじゃの」


「おぉ、小さな魔女様、実は折り入ってご相談したいことが……」


 エドガー殿が言うには、ワシが作った最高品質のポーションを貴族の一人が買い、その効果に驚いて、既に街から離れていたエドガー殿の行商を追いかけて来たのだという。

 そして、あのポーションを定期的に購入したい、と言われているらしいのじゃ。

 ふむ、これは少々困ったのう……

 ワシとしては問題無いのじゃが、何故にそんなにポーションが必要なのか、前回は聞きそびれたのじゃ。


「実は……」


 エドガー殿が、そのあたりの事情を説明してくれたのじゃが……

 簡単に言えば、人災のようじゃの。



 そもそも、この国は大国と帝国の両方の隅に挟まれるようにしているのじゃが、その二つの国は長い間、紛争中。

 ここ最近は落ち着いているのじゃが、それでも小競り合いはあり、その小競り合いでも名を上げれば、国お抱えの騎士になる事が出来るのじゃ。

 その為、魔獣を狩る職業でもある冒険者は皆、そう言った場所に行き、狩る者達が減ってしまい、更に、小競り合いと言えど、死人は出るのじゃ。

 結果、更に狩る者は減って、地に魔獣が溢れている状態。

 それで魔獣への対処が遅れ、更に魔獣が増え、そして対処が遅れの悪循環。

 大国や帝国なら、自前の騎士達を投入する事で魔獣の対処が出来るじゃろうが、この国は遥かに国力は劣っておる。

 なので、魔獣への対処は、残った冒険者達や村々がやっておるのじゃが、どうしても怪我はしてしまう。

 それで、例え質が悪かろうともポーションは売れていくらしいのじゃ。



「世知辛いのう……」


「我々としても、行商をしている村々や町で、被害に合っている方々を支援はしたいのですが……」


 低品質のポーションでも傷は治せるのじゃ。

 ただ、治せるのは多少の切り傷程度で、骨折や切断などは治せないのじゃ。

 骨折あたりから中品質、切断で高品質になる。

 ワシの作った最高品質にもなると、部位欠損程度なら元通りになるのじゃ。

 そして、ポーション師としての能力を最大限発揮すれば、ワシの理解が及ぶ限りの範囲であれば何でも作れる。


「そこでじゃ、イクス殿の方はどうなったんじゃ?」


 ここでやっと話を振られたイクス殿が、腕を組んだまま前に出る。

 彼曰く、二人連れて来て、今は荷車の所で荷下ろしなどを手伝っているらしい。

 ちゃんと、根性がある引退した冒険者を選んでくれたようじゃが、一人はイクス殿が世話になった先輩冒険者、もう一人はハンナ殿の知り合いらしいのじゃ。

 それじゃ、二人に会ってワシの考えた計画を話すとしようかの。




「「「「ポーションを作る?」」」」


「うむ、至極簡単な事じゃ」


「嬢ちゃんよ、言っちゃなんだが、俺は『重戦士』だぞ?」


 そう言ったのは、イクス殿の先輩冒険者である『ゴッズ』殿。

 がっしりした体躯に、所々に白い部分が目立つ短い茶髪で、見た目は50代後半くらいかの。

 元重戦士らしく、引退前は分厚い盾と巨大なメイスで並み居る敵を叩きのめしていたらしいのじゃ。

 その無理が祟って膝を壊し引退、今は故郷の村でのんびりしていた所、イクス殿に声を掛けられた。


「アタシは『裁縫師』よ?」


 ハンナ殿の知り合いである『マリオン』殿は女性で、背の中ほどまである青い髪に控えめな体躯、年齢は……女性は見た目では判断し難いからのう、恐らく20代中間くらいかの。

 元々、故郷で冒険者の身に着ける肌着等を扱う裁縫店を営んでいたが、凶作や魔獣被害で売り上げが激減、どうするべきか悩んでいた所、ハンナ殿に声を掛けられてやって来たと言うのじゃ。


 しかし、『重戦士』に『裁縫師』のう。


「別にクラスは何でもいいのじゃ、ぶっちゃけ、ポーションは手順を間違えなければ、誰だって作れるのじゃ」


 その言葉で全員が顔を見合わせているのじゃ。

 まぁそうなるじゃろうのう。

 今までは、調合師や薬師、もしくは錬金術師しかポーションを作れない、と言う固定観念が存在したのじゃ。

 じゃが、実際にはポーションは誰にでも作れるのじゃ。

 だって、材料を揃えて適量を混ぜれば出来てしまうのじゃから。

 ただ、そう言ったクラスの方が作り易いと言うだけなのじゃ。


 そう説明したが、誰も不安げな表情をしておるので、ここは実践するのが一番じゃな。




 用意したのは、複数の薬草、蒸留水、擂り鉢、麻布。

 本当は、擂り鉢では無く薬研やげんと言う、すり潰すのに最適な道具があるのじゃが、この異世界には無いようじゃ。

 後で、思い付いたとでも言って、作るとしようかの。


 では早速実践するのじゃ。


「まず、全員この薬草を刻んでから擂り鉢に入れて粉々になるまで擂るのじゃ」


 全員が渡してある剣鉈で、ワシが指示した薬草を刻み、擂り鉢に入れていく。

 そして、ゴリゴリゴリと擂粉木で薬草をすり潰し始める。

 ちなみに参加者は、ゴッズ殿とマリオン殿以外に、イクス殿達3人にエドガー殿、そして村人の数人とベヤヤ。


「粉々になるまで擂ったら、蒸留水を僅かに加えてまた擂るのじゃ」


 そうして、ゴリゴリヌチョヌチョと擂り続けていると、ベヤヤ以外の額に汗が吹き出し始めたのじゃ。

 そう、誰でも作れるとは言ったが、簡単に作れるとは一言も言ってはおらんのじゃ。

 これが、イクス殿に頼んだ条件である『ちょっとやそっとじゃ諦めん根性のある引退した冒険者』の理由なのじゃ。

 とにかく疲れるからのう……


 まだまだ作業は続くから、覚悟はしておくのじゃぞ~。














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-法則がっ世界の法則が壊れる!?-


-ほほう、あんな使い方があったんじゃのう、盲点じゃった-


-これ、どうしてくれんのよ!?-


-まぁ自重はするようじゃし、しばらくは問題無かろうて-

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