第11話




 行商人のエドガー殿が去った後、村ではある問題に悩まされていた。


「だから、そうじゃねぇって、こうやって振るんだよ」


「い~や、やっぱこうだろ、こうっ」


 子供達が剣鉈を上から横からと振り回している。

 もちろん、鞘に入ったままなのだが、非常に危ないのじゃ。

 当然、大人に見付かって即怒られ、剣鉈は取り上げられるが、直ぐに別の所から持ち出して、また振り回し始める。

 う~む、いたちごっこじゃな。


「そういう訳でして……」


「確かに、コレは困ったのう」


 怪我人の治療にやって来て、村長から話を聞かされ、その現場を見せられたのじゃ。

 これは確かに、早急にどうにかせんといかんのう。


「今まではどうしてたのじゃ?」


「えぇ、そもそも今までは子供達も元気が無かったのですが……ここ最近は、食べる物が増え、元気を取り戻していまして………それに、あのような武器は今までありませんでしたから……」


 なるほどのう。

 今までは凶作で食うに困って、動き回る体力も無かったが、ここ最近は畑に山に食糧が溢れている。

 それで体力を取り戻した上、子供でも振り回す事が出来る手頃な武器が簡単に手に入る所にあり、エドガー殿が連れていた護衛のイクス殿達に刺激を受けたのじゃろう。

 今は大丈夫かもしれんが、もし振り回している時に鞘が外れてしまえば大問題じゃ。

 となれば、代わりに何か、比較的安全な玩具を与えるのが良かろう。


「とすれば……このあたりが適当かの」


 そう言いつつ、鞄から取り出すフリをしながら中でクラフト魔法を使い、家を作った時に余っていた木材を剣に作り変えて取り出した。

 見た目は剣鉈よりも長い上に、しっかりとしたショートソードに近いが、当然、先端と刃の部分は丸くしてある為、それなりに安全。

 それを村長に預け、更に槍や小さい丸盾などを作って取り出す。


「コレならそれなりに安全じゃろうが、誰か大人が見ていた方が良いのう」


「そうですな、手の空いた者が見ているようにしますかの」


 取り敢えず、剣を10本、槍を10本、盾を10個作って村長に預けておいたのじゃが……

 後日、村の男連中が自分達もあの木剣と盾が欲しい、と頭を下げに来たのじゃ。

 聞けば、今までは全員が剣鉈を持って、複数人が1チームで山に入り、パイクラビットが現れたら全員で相手をしていたが、剣鉈での経験を考えれば、ちゃんとした剣と盾があれば数人で相手が出来るようになるという。

 対価として、村で採れる作物をくれると言うので、ワシの考えておった予定より多少は早いが、剣と盾を追加で10個作り、村長に渡しておくのじゃ。

 ただし、今回作った剣は子供達用に作った物と違って、鋼製の幅を広くしたショートソードにし、先端と刃も斬れる様に鋭くしたのじゃ。

 盾に関しても、表面に鉄鋲を打ち込み、形状も丸形では無く四角にして、いざとなったら殴れるように改造してみたのじゃ。

 パイクラビットくらいなら、余裕で殴り倒せるとは思うが、油断は禁物。

 村長にも、これらは山に入る村人だけ渡し、戻ったら回収してしっかりと保管しておくように言っておいたのじゃ。

 もし、これを子供が持ち出したら、危険過ぎるのじゃ。




 そして、子供達は安全な玩具で遊び、大人達は山に入る時に武装した護衛を連れて行くようになったのじゃ。

 結果としては、より安全になり収穫量も増えたのじゃ。

 子供達に使った玩具はちゃんと手入れし、壊れた場合は大人に言って修理してもらう事を教えていくのじゃ。

 この村にも農具を直せる村人がおり、その村人なら手直し出来るじゃろう。




『ちっさいの、何か来るぞ』


「まぁ気が付いとるよ」


 山の家に戻り、リビングで寛いでいると、肌を刺すようなピリピリした感じがしたのじゃが、それとほぼ同時にベヤヤからの警告が来たのじゃ。

 どうやら、この山に何かが接近しているようじゃな。

 それも、ベヤヤクラスのヤバイ相手。


「取り敢えず、村もやっとここまで復興したんじゃ、お帰り願おうかの」


 ベヤヤに跨り、やって来たと思う方角へと進む。

 山を登って村の反対側に行くと、何か豆粒の様な物が此方に飛んできているのが見えたのじゃ。

 うーむ、空を飛ぶ相手のう。


『おい、ちっさいの、ありゃ飛びトカゲだ、面倒だぞ』 


「飛びトカゲとな?」


 ベヤヤが言うには、常に飛んでいて偶に急降下して、爪で引っ掻いてきたり、尻尾の先端で刺してくる相手らしいのじゃが……

 それって、世間一般ではワイバーンとか言わんかの?


『ニンゲンがなんて呼んでるかなんて、俺が知る訳ないだろ』


 ごもっとも。

 そう言えば、ワシと出会うまでは、この山でニンゲンを追い返したり迎撃したりして交流などせずにいたのじゃから、当然と言えば当然じゃな。

 しかし、そうなるとどうするかのう。

 ワイバーンじゃとすると、地味ぃに面倒な相手じゃ。


 主に素材を痛めずに仕留めるという点で。



「まずワシが相手するから、ベヤヤは待機しておるのじゃ」


『降りて来なきゃ俺じゃ戦えねぇしな』


 ベヤヤから降り、飛びトカゲ?ワイバーン?が此方に来るのを待つ。

 待つのじゃが、もしも途中で引き返したり、別の方向へ行って被害が出たら不味いのう。

 ここは一発、相手を刺激して此方に引き寄せるとしよう。

 と言う訳で、ベヤヤよ、一発頼むのじゃ。


『ったく、面倒だな』


「グガァァァァッ!!」


 文句を言いつつも、ベヤヤが目立つ場所で威嚇する。

 当然、ワシは耳を塞いでいたのじゃが、それでも全身が痺れるかと思うくらい震えたのじゃ。

 どれどれ、相手は……うむ、バッチリ来たのう。


「では、ここからはワシのターンじゃ!」


 ベヤヤの前に立ち、魔法の準備を始める。

 飛びトカゲ……面倒じゃからワイバーンで統一するのじゃ!

 ワイバーンの姿がハッキリと見えた瞬間、ワシの魔法が炸裂した。


「『グラビトン・レールガン』!」


 ワシの両手の間から撃ち出されたのは、ボールペンサイズの石塊。

 それを重力場で包んで一方向へと一気に射出し、ワイバーンを狙撃!


 その見た目は、ただの勢いが良い小石。

 ただし、実際には一軒家程もある岩塊が、ボールペンサイズまで超圧縮され、それが超高速でぶち当たるのじゃ。

 ワイバーンは小石程度なら耐えられると踏んだのじゃろうが、喉の当たりに直撃した瞬間、小石はそのまま強靭な皮膚を突き破り、そのまま腹を突き抜け、腰のあたりから突き抜けていった。

 当然、ワイバーンはそれで絶命し、地上へと落ちていったのじゃ。


「ベヤヤ、早く行って回収するのじゃ」


「ガ、ガゥ……(お、おう……)」


 呆然としていたベヤヤに跨り、その尻を杖でペシペシ叩く。

 早く行かんと、ワシのワイバーンを誰かに取られてしまう可能性があるのじゃ。

 ベヤヤが山を走り下り、落としたワイバーンの所へ急ぐ。



 そして、落としたワイバーンじゃが、これがまた中々巨大であった。

 ベヤヤの言う通り、爪は鋭く、尻尾の先は硬質化して溝があり、そこを調べるとドロリとした液体がにじみ出て来る。

 どうやら、毒持ちのようじゃの。


「うむ、我ながら良い状態なのじゃ!」


 本音を言えば、地上に近い状態で倒しておけば、落下でのダメージを押さえられたじゃろうが、今回は初遭遇。

 どれだけ相手が頑丈なのか分からぬ以上、接近しすぎて効かなかったらワシらが危険になるのじゃ。

 しかし、今回の事でワイバーンの強さも大体予測出来るのじゃ。


『なぁちっこいの、さっきのアレはなんだ?』


「うむ? アレはの、ワシオリジナルの魔法でな……」


 ワイバーンをアイテムボックスに収納しながら、ベヤヤに先程の魔法について講義するが、科学を知らないベヤヤにはちと、難しかったようじゃな。

 とにかく、コレでワイバーンの素材を手に入れる事に成功したのじゃ!


















~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


-ホッホッホッホッ、やはり見ていて飽きんのう-


-何よあの魔法! あんな魔法、どうやって防げって言うのよ!?-


-根性?-


-それじゃ、アンタがやってみろ爺神-

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