第9話




「村長、この武器は何処で手に入れたんだ!?」


「じゃから、これは貰い物であって、交換には出せんのだと……」


 行商人が来たという事で山を下り、村へと来たのじゃが……

 どういう状況なのじゃ、コレは……

 村長と恰幅の良い茶髪の中年の男が、ワシの作った剣鉈を手に言い合っておる。

 まぁ予想は出来るのじゃが、恐らく、あの中年が行商人で、ワシが作って村人に与えた剣鉈を見て、その価値を見抜いたのじゃろう。

 ワシが作った剣鉈は、剣としても鉈としても使えるようにと考えて作っておるのじゃ。

 ただし、剣としては短い上にナイフとしては重く、鉈としては長い上に軽い。

 どっちにも使える兼用で、と考えて作ったので、はっきり言えばどっちつかずの中途半端な物になってしまっておる。 

 ただ、剣としても鉈としても一応は利用は出来るというのが、ワシの作った剣鉈なのじゃ。

 しかし、普通の鍛冶屋はこんな中途半端な物、率先して作ったりはせんじゃろうな。

 普通は剣は剣、ナイフはナイフ、鉈は鉈と使い分ければ良いだけじゃからの、わざわざ兼用なんて作る必要は無いのじゃ。

 ではワシは何故、そんなのを作ったと言われそうじゃが、碌に訓練もしておらぬここの村人が、普段から使っておるナイフや鉈ならともかく、使い慣れぬ剣を与えたとしてもマトモには使える訳もない。

 じゃが、魔獣が生息しておる森や山の中で活動する以上、身を守る為の武器は必要になるので、まずは剣鉈と言う形で慣れて貰って、後々、剣に持ち替えて貰おうと思っておる。


「あー村長よ、行商人が来たと連絡を貰ったんじゃが……」


「おぉ、魔女様! お待ちしておりました」


 村長に声を掛けると、平伏する勢いで村長がやってくる。

 ちなみに、ベヤヤは村の入り口で待たせてあるのじゃ。


「して、その剣鉈がどうしたんじゃ、何か言い争っておったようじゃが……」


「ゴホン、それは私が説明しましょう。 私、行商をしております、エドガーと申します」


 そう言って頭を下げた中年の男。

 見た目は小綺麗じゃが、ここ数年の不況の煽りを受けてその顔には疲れが見える。

 そして、エドガー殿の話によれば、ワシの作った剣鉈は、確かに剣士や戦闘を生業とする者には物足りないだろうが、農業や林業を生業としている者にとっては、ちょっと使いするに必要とされる物だと、豪語した。

 まぁ元々、大型の剣鉈はそう言った職業の者が手軽に藪払いとかで使う様な物じゃから、使い勝手は良いじゃろうな。

 それに、ワシが作った剣鉈は錬金術とクラフト魔法で作った物じゃから、品質としても最高品質。

 しかし、この剣鉈をおいそれと売りに出すつもりはないのじゃ。


「ですので、ぜひ、この武器を作った方と取引をさせていただければ、と、私は考えているのです!」


 あ、ワシが作ったとは思っておらんのか。

 まぁ無理もないじゃろうな、こんな見た目幼女が剣鉈を作ったなどと、初対面で分かる方がおかしいのじゃ。

 ま、これくらいは教えても問題無かろう。


「それはワシが作った物じゃよ。 最もワシは売るつもりはないがの」


 その言葉で、エドガー殿の視線がワシを見定める様に動く。

 うむ、信じたくない気持ちはよくわかるのじゃ。


「失礼ですが、とても鍛冶をしているような感じには見えないのですが……」


「鍛冶などではない。 ソレは魔法で作ったのじゃ」


 有言実行として、足元にある小石を拾って錬金術で鉄に変化させ、クラフト魔法でペーパーナイフに加工する。

 そして、出来上がったペーパーナイフをエドガー殿に手渡す。

 エドガー殿は顎が外れる勢いで、口をあんぐり開けていたが、手渡されたペーパーナイフで再起動したのか、まじまじと確認し始めた。


「……確かに、これも素晴らしい出来だ……」


 取り敢えず、そのペーパーナイフはエドガー殿に進呈する。

 これからも良い取引をしたいしの。

 エドガー殿は大事そうにペーパーナイフを懐にしまうと、今回運んできた商品の案内をしてくれる。


 まず、砂糖と塩。

 ここは山と平地になる為、どちらも貴重品であり、村の人々がこぞって買い求めている。

 他にも、シンプルなシャツやズボン、スカートなどを買っている。

 娯楽品は無く、農具や大工に使う様な釘なども扱っているようじゃな。

 その中で、目を引いたのは最後に案内された場所で、何とポーションを売っていたのじゃ。


「ふむ、コレは……」


「これ等は偶に売れる物でして……」


 ここにあるポーションは厳密には売り物では無く、移動中に護衛として雇っている冒険者達が怪我した場合や、他の冒険者を援護をしたりされたりした場合、相手が怪我をしていた時に売る物らしい。

 じゃが、偶に村でも売れる事がある為、こうして売りに出している。

 取り敢えず、一つのポーションを手に取ってみるのじゃが、品質としては低品質の体力回復ポーションで不純物も多い。

 それでも一瓶銀貨10枚。


 ちなみに、この世界の基本通貨はコインで、下から鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨となっておる。

 鉄貨一枚が大体、地球で1000円程度であり、10枚で一つ上の貨幣になるのじゃ。

 つまり、銅貨が1万円、銀貨が10万円、金貨が100万円、白金貨が1000万円。

 ただし、上の貨幣に両替する場合、手数料として1枚多く持っていかれる。

 なお、これ以外にも大商会や国が取引する場合にのみ、使用されとる特別な貨幣もあり、それが黒貨と呼ばれる真っ黒いコインで、1枚で1億、更に白金貨からの両替は出来ないらしいのじゃ。


 つまり、この低品質のポーション1瓶、銀貨10枚なので100万円もするのじゃ!


「のう、エドガー殿、このポーションなのじゃが……」


「エンペラーベアが出た! エドガーさん、逃げてくれ!!」


 そう言って飛び込んできたのは、赤毛のがっしりした中年男性。

 黒い部分鎧に身を包んでいて、背中には大きな剣を背負っている。

 おそらく、彼がエドガー殿の言っていた護衛なのじゃろう。

 そして、彼が見たエンペラーベアとは、恐らく入り口で待たせているベヤヤじゃろうな。


『ちっこいの、なんか攻撃されてるが、俺は反撃しても良いか?』


『それはいかんのじゃ、ワシが行くまで防御しとれ、良いの?』 


 そんな事を考えていたら、ベヤヤから念話が来たのじゃ。

 今のベヤヤが反撃なんぞしたら、その冒険者達は即座にあの世行きになってしまう。

 防御に専念するように伝え、慌てているエドガー殿と冒険者の男に安心するように伝え、そのエンペラーベアはワシの連れである事、余程の事が無い限り、危険はない事を説明しておく。




 そして、ベヤヤを待たせている入り口に行くと、周囲には無数の矢が落ち、周囲の地面が色々とコゲた中で欠伸をしているベヤヤと、弓を剣のように持った女性、ワシと似たような服装の女性が立っていた。


「ボス! なんで依頼人を連れて来てるのよ!」


 弓師の女性が、エドガー殿と現れた赤毛の剣士を批難する。

 まぁ知らなければそうなるじゃろうな。

 ボスと呼ばれた男が女性達にベヤヤの事を説明している間に、ワシはベヤヤの周囲に落ちている矢を一つ拾い上げる。

 うむ、作りは地球にあるような矢と変わらんの。

 風切り羽、本体、鏃と造りは丁寧で、良い物じゃ。

 数本拾い、無事だった物をこっそりアイテムボックスに収納し、クラフト魔法で風切り羽を交換してから、コピーにより増やしておく。

 と言うのも、相手側の勘違いではあるものの、これだけの矢を消費させてしまったのは心苦しい。

 なので、消費した分くらいは補填してあげようと思ったのじゃ。


 結果、彼らは平謝りをしてきたが、勘違いなど誰にでもある事じゃし、と言って謝罪を受け取り、消費した矢の代わりをアイテムボックスから取り出して提供した。


 彼らは冒険者チームとしては中堅クラスで、護衛任務を中心に受けているらしく、今回はエドガー殿の行商の護衛として、いくつかの村を回るのだと言う。

 そして、ここ最近、凶作だった村々の畑が何故か回復傾向にあり、徐々にだが、人々に笑顔が戻って来ているらしい。

 これは正直に言えば、ワシがばら撒いた魔粉除去のジョウロが原因じゃが、どうやら無事に魔粉を除去し続けているようじゃの。

 どの村も渡さずに独占しようとしておらぬようで一安心じゃ。



 そして、売りに出ていたポーションに関してじゃが、アレは全てエドガー殿の実家である商店が雇っている錬金術師と薬師が作っている物で、実は品質が悪いという事は知っているが、今は悪くても売れる為、買う人には事前に低品質な事は伝えているのだという。

 詳しく聞けば、その錬金術師と薬師は腕は良いのだが、怠け癖があり、この低品質状態でも売れる事から怠け始めてしまっており、注意しようにも他に錬金術師と薬師がいない為、クビに出来ないのを良い事に、更に怠けていて、店としても困っていると言う。

 うむ、腐っておるの。

 しかし、ワシに出来る事は少ない。

 ここでワシの持つポーションを全て売った所で、その二人が改心せぬ限り意味が無い。

 かと言って、ワシが専属になるというのも出来んしの。

 それならば……


「のう、えーと、ボス?殿」


「そういや、名乗ってなかったな、俺はイクス、こっちの弓持ってるのがハンナで、向こうの魔法使いがジェシーだ」


 赤毛の剣士がイクス殿、弓を持ったスレンダー美人がハンナ殿、若干暗めの雰囲気を持っておるのがジェシー殿か。

 よし、これから考えておる事には彼等の協力が必要になってくるのじゃ。


「うむ、ではイクス殿の伝手でちょっと探して欲しい人材がおるのじゃ」


「錬金術師と薬師を探してくれってんなら無駄だぜ。 錬金術も薬師も珍しいクラスだから大抵どっかに囲われちまってるからな」


「いや、ワシが探して欲しいのは、『ちょっとやそっとじゃ諦めん根性のある引退した冒険者』じゃ」


 その言葉で、イクス殿が首を傾げた。

 しかし、次来るまでに探してくると約束は出来たのじゃ。


 ちなみに、今回の行商で購入したのは、砂糖と胡椒とかの香辛料。

 そして、ワシから提供したのは、最高品質のポーションと、イクス殿には依頼料として素早さを多少上昇させる首飾り、ハンナ殿には命中率を多少上昇させるイヤリング、ジェシー殿には魔力の回復を多少早める指輪を渡したのじゃ。

 彼等の頑張り具合によって、エドガー殿のこれからが決まるのじゃから、全力で事に当たって欲しいのじゃ。



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