第4話




 うむ、予想外だったが、丁度良い練習相手がいたの。

 そう思っていたが、コレは中々………


「グガァァッ!(ちょろちょろと逃げんな!)」


 いや、無茶を言わんで欲しい。

 今、デカイ熊の振るった右腕が直撃した木が圧し折れとるんじゃが。


「んーむ、仕方無い、回避の練習は出来たし、そろそろやるとするかの」


 今度は左腕が振るわれる。

 それを潜り抜けながら爪先を掴む。

 それと同時に足先で熊の左足の付け根部分を鋭く突き、更に、もう片方の足先で顎を下から打ち抜く。

 背が小さくとも脚は意外と長いのじゃ。

 まぁこの程度では大したダメージにはならんだろうが、コレである程度の調整は済む。


「グ、ガァ……(この、一体何を……)」


「では、今度は此方から行くのじゃ」


 熊の真正面から突っ込む。

 慌てたのか、熊の右ストレートが来るが、それを更に加速して潜り抜ける。

 熊からすれば、相手が視界から急に消えた様に見えたじゃろう。

 これは自身がデカイ弊害じゃの。

 そのまま、熊の右足を掴む事に成功する。


「ガ!?」


「ほいっとの!」


 驚いて右足を上げた熊の反動を利用し、掴んだ手を軸にそのまま左足に向けてスイングバイ状態で強力な蹴りを叩き込む。

 狙った場所は膝の裏。

 これは戦闘補正スキルと体術補正スキルの合わせ技。


「ギャァ!?(痛ぇ!?)」


 メキッと音がして、熊の態勢が崩れる。

 ここで決める!


「まだまだ行くのじゃ!」


 体術補正スキルを最大にし、倒れて来る熊の背の中心部、背骨に向けて掌底を叩き込む。

 ボギリと音がして、叩き込まれた反動で熊が前方に倒れた。


「さて、終わりじゃの」


「ガ……グ……」


 熊の状態は左膝の関節が破壊され、背骨中部が粉砕された事により、行動不能と言った所。

 根性を見せれば、まだ上半身は動けるが、まぁ無理じゃろうな。


「グァァ……(クソが……)」


「コレでワシが新しい山のヌシになるのかの」


「ガァ、グガァァ……(あぁ、それじゃさっさと殺ってくれ)」


 ぬ?

 熊がまるで死刑囚の様に首を差し出して来た。

 安心せい、殺るつもりはそもそもないのじゃ。


「何を言っておる。 オヌシは今からワシの部下になるのじゃ!」


「ガァ!?」


 おぉ、驚いたようじゃの。

 流石に、この山全部をワシ一人で管理するのは不可能なのじゃ。

 そこでこの熊の出番。

 ワシが山のヌシになったが、管理はこの熊に任せ、ワシは小屋でも作って色々とのんびり暮らすのじゃ!


「そうじゃの、まずはオヌシとか熊とかでは呼び難いからのぅ……ベヤヤと呼ぶとしようかの」


「ガ、ガァァ!(ちょ、待て!)」


 そうと決まれば、早速準備なのじゃ!

 毎度お馴染みポーション製作でポーションを作る。

 今回のポーションは薄い緑色であった。


_________________________


*『魔獣使役』スキルを習得しました。

_________________________



 味は爽やか緑茶味。

 そう、ポーション製作で作ったポーションは、味まで指定出来るのだ! 

 今回は久々に飲みたくなった緑茶味にしてみた。


「さて、それじゃ続けるのじゃ!」


「グギャァァァッ!(待てと言うにぃぃぃっ!)」





 数時間後、そこにはぐったりしたベヤヤが倒れていた。

 この数時間、ベヤヤを治療しながら、軽くベヤヤの生態調査をしたのじゃ。

 その結果、ベヤヤは魔熊種と言う魔物で、ステータスとしてはパワー・タフネスがかなり強く、スタミナ・体力・速度はそこそこじゃが、魔力は極小で体外に魔法を放つ事はほぼ不可能な事が分かったのじゃ。

 まぁステータスの数値は分からんので、ほぼワシの主観なのじゃが。

 治療に使ったのは、異世界ファンタジーではお馴染み回復ポーション。

 それを左膝と背中にぶっ掛けたのじゃ。

 この世界の回復ポーションは、飲む以外にも患部に振り掛けるだけで使用可能なのじゃ。

 まぁ飲むよりかは効力は若干落ちてしまうのじゃが、意識を失っておったりして飲めずに死ぬよりはいいのかもしれんのう。

 そして、ベヤヤの周りをグルグル回るワシ。


「うむ、やはり黒に黒じゃと見た目が良くないのう」


 黒熊と言うのも見た目的にカッコいいが、流石に見た目が幼女でも、魔女と並ぶと『人類の敵』と言われても仕方無い感じ。

 そして、徐にポーションを作り、それをベヤヤの口に突っ込む!

 治療してはアレコレと調べたおかげせいで、最早されるがままなのじゃ。

 徐々に、ベヤヤの黒い毛から色が抜け落ちていき、しばらくすると、白銀に輝く体毛に完全変化していた。


「うむ、コレで良いのじゃ!」


「ガァ……(ぉぉぅ……)」


「と言う訳で、これから宜しくなのじゃ」


「グァ、ガァ……(無茶苦茶だ、このちっこいの……)」


 魔獣使役スキルで、ベヤヤはワシに危害を加える事は出来ない様になってはいるが、ちょくちょく訓練をするように考えているのじゃ。

 これはワシの体術スキルを身体に馴染ませる以外にも、ベヤヤ自身のパワーアップも兼ねている。

 最終的には、世界一の熊に仕上げる予定なのじゃ!


 ちなみに、ベヤヤの種族は『エンペラーベア』と言う、魔熊種の最終進化個体である。


「さて、それじゃベヤヤよ、ちと聞きたいんじゃが、この近くに村とか町はあるかの?」


「ガァ? グガァ(村? 向こう側だがニンゲンはいっぱいいるぞ)」


 ベヤヤの話では、どうやらやって来た方向の反対側に村があるようじゃ。

 うーむ、少し回り込めば山より先に村を見付ける事が出来たのじゃな。

 まぁ、ベヤヤに出会えたから良しとするのじゃ。


「では、ちょっと挨拶に向かうとするのじゃ」


 ベヤヤに跨って山を越えようと考えたが、その前に少しだけやる事がある事を思い出した。

 この山に入ったのは食糧探しもあったが、元々は武器の材料を探していたのじゃった。

 えーと、何か良さげな物は~と……


「グァ、グガァ?(あ、行かねぇのか?)」


 ベヤヤに少し待つように言って、適当な枝を一つ手に持ってみる。

 うーむ、これだと細過ぎるのう……

 そうそう、あの木の枝くらいが良いんじゃが……あ、切れば良いんじゃった。


「『エアカッター』」


 『風魔法』スキルで上の方にあった、程よい太さの枝をスパッと切り落とした。

 落ちてきたソレを拾い、更にクラフト魔法で葉を落とし、水分を抜いて形を整える。

 見た目は古びた木の枝で出来た、先の曲がったロッドの完成じゃ!

 じゃが、流石にこれだけじゃと寂しいのう……

 視線が地面に落ちると、そこにあったのは握り拳程度の石。


「これをこうして……」


 『錬金術』スキルで石の成分を変質させ、ただの石を紫が美しい『アメジスト』に変化させる。

 それをちぎっていくつもの玉にし、別の石を変質させた金の枝に付け、金を平たく伸ばして整えて葉にしてくっ付ける。

 アメジストのブドウ房の完成!

 これを杖の上部に繋げ、ワシのロッド完成!


「待たせたの!」


「ガァ(もう驚かん)」


 ベヤヤが若干呆れているようじゃが、コレは大事な事なのじゃ!

 魔女が杖を持たぬなど、ショートケーキにイチゴが乗っていないのと同義なのじゃ!


 そう力説しても、ベヤヤには理解してもらえなかった。

 まぁショートケーキ自体、この異世界にあるかどうか分らんのじゃがな!



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