第3話




 てくてくと平原を歩く。

 んー靴のサイズが合わなくなって脱いだが、偶にある小石が結構痛い。

 一度や二度なら我慢出来るが、忘れた頃にこう、ごりっと来るのが余計に痛い。


「んーこういう時は……」


 空間魔法スキルで覚えた『アイテムボックス』と言う、異空間への物品保管魔法から、収納していた履き古した革靴を取り出した。

 こういう異世界ではお馴染みのアイテムボックスだが、効果も同じでその容量は無制限、ボックス内は時間停止になっているが、複雑な魂を持つ生命体は収納不可能と言うものだ。

 まぁつまり、微生物とか小さい昆虫くらいなら収納出来るのだ。

 そこから取り出した、何度も底を張り替え、使い続けた焦げ茶の革靴をまじまじと見る。

 結構思い入れがあるものだが、今の状態では仕方無い。

 それを地面に置き、両手を翳す。


「『クラフト魔法』発動!」


 両手から虹色の魔力が溢れ、革靴を包み込んで光り出す。

 そして、光が収まってそこにあったのは、小さいが見た目はゴツイコンバットブーツ。


「よしっ成功なのじゃ!」


 それをいそいそと履いて、調子を確かめる。

 ほど良い硬さと、柔らかさを兼ね備え、更に長時間歩いても疲れにくい最高の靴。

 これが、素材をイメージで変化させる『クラフト魔法』スキルの効果である。

 最も、変化させる素材が無いと効果は発揮しないと言う欠点はあるが。


 そして、この『のじゃ』口調だが、使用していたキャラの口調をそのまま真似ている。

 何十年も画面越しにチャットで使用してきた口調の為、割とすんなり喋る事が出来た。


 もし、人に出会った場合、『異世界の神様によってやってきました』、なんて馬鹿正直に言った所で信じてはもらえないだろうから、一応設定は考えている。

 と言っても設定は単純だ。


 物心付く前から、深い森の中にある小屋で師匠である魔女に育てられ、その師匠が最近亡くなった為、森を出て来た。

 つまりは魔女見習いの幼女って所だ。

 魔女と名乗ってもしも敵対する様な相手だったら、その時は全力で逃げれば良い。

 現状の能力なら、まず負ける事は無いだろうし。

 寧ろ、コレで負けるなんて『何その修羅の国』ってレベルだ。


 そして、今の自身の服装を見て、少し考える。

 ぶっちゃけ、今着ているのはワイシャツとシャツだけだ。

 変化前は身長190と巨大だった為、縮んだ現在では膝くらいまでシャツがあるので、色々と見えないがこのままだと問題だろう、倫理的にも。

 取り敢えず、周囲を確認。

 よし、何もいない。

 と言うか、何かいたら問題だ。

 いないのを確認したら、ワイシャツを脱いで、革靴と同じ様にクラフト魔法を発動!


 出来たのは、魔女と言えばコレと言う様な黒いローブ。

 更に、アイテムボックスからズボンと下着を取り出し、クラフト魔法で変化させる。


 ズボンは黒いマントに、下着はそのまま下着に変化させた。

 いや、お〇んてぃくらいはね、向こうじゃネットとかで見れるからね、作れる訳ですよ?

 実物は販売店でちらっと見た事があるくらいだけど。

 流石にズボンをとんがり帽子にするのは、アレかなぁと思って止めた。

 そして、アイテムボックスから、地球で使っていた鞄を取り出した。

 これは入社当時から大事に使っていた、とても大事な鞄である。

 それをクラフト魔法で作り変える。

 手提げ鞄だった物を、肩掛け鞄に作り変えて、更に小細工を施しておく。

 完成したそれらを身に着け、再び歩き出す。



 その結果、目の前にそれなりに高い山が見えて来た。

 うむ、高さ的には富士山クラスかな。

 スキルによって疲労は全く無く、空腹もポーションで必要な栄養を摂取して疑似的に誤魔化している。

 だが、そろそろちゃんとした食べ物が食べたい。

 それ以外にも、魔女と名乗る以上は武器が欲しい。

 主にロッド的なアレ。


「まぁまずは食糧なのじゃ」


 これだけ緑が多い山なら何かしらあるだろう。

 そう思いながら、山へと踏み出した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 オレは、森の中で今まで嗅いだ事の無い匂いを嗅ぎ取った。

 偶に、森の中でニンゲンを見る事はあるが、その匂いとは違う。

 だが、誰であろうとオレの縄張りを脅かすモノは許さないのだ。

 のっそりと、オレはねぐらの洞窟から歩き出した。



 そして、オレはその匂いの元を見付けた。

 そこでは、ちっこいニンゲンが枝からぶら下がっていた木の実の房を採ろうとと、ピョンピョン跳び跳ねていた。

 確かに、あの木の実は美味しい。

 数少ない、この山で手に入るお気に入りの一つだ。

 ってそうじゃない、なんだコイツは。


「ガァァァァァッ!!」


「じゃかましぃっ!! 後で相手してやるから黙っとるのじゃ!!」


 威嚇したら、威嚇し返された。

 ナニコイツコワイ。

 と言うか、本当に何だコイツは。

 オレの姿を見て、逃げ出さなかったニンゲンはいなかった。

 たまーに武器を持ってやってくる奴等もいたが、軽く叩きのめして山から叩き出した事もある。


「ガ、ガァ?」


「よっしゃ採れたのじゃ!!」


 そのちっこいニンゲン?が房を手にして一粒もぎ取って食べ始める。

 そして、何やら震えていた。


「んんんんんん~甘~い!!」


 いきなり叫んだかと思ったら、一気に食べ始める。

 あぁぁぁあ、そんな一気に喰ったら勿体無い!

 ちっこいのがあっという間に枝だけになった木の実の房を、プラプラさせる。


「さて、何か用かの?」


「ガ、ガァァ!」


「ぁ、少し待つのじゃ」


 ちっこいのが片手を突き出し、何か懐から取り出してそれを飲んでいる。


「コレでよしっと」


「ガァ!(何がよしだ!)」


「うむ、これでオヌシと話す事が出来るようになったのじゃ!」


「ガ!?(ハァ!?)」


 ちっこいのの言葉に驚いた。

 オレがちっこい奴の言葉を理解出来るのは、長く生きて色々なニンゲンの言葉を覚えたからだが、このちっこい奴は、さっきまで理解していなかった。

 それが、いきなり理解出来る様になっただと!?


「して、ワシに何かようかの?」


 ちっこいのがそう言って腕を組んでいる。

 改めてその容姿を確認する。

 身長はちっこい、髪は銀髪で背の中ほどの長さ、肉はほとんど付いていないのか細い。

 ………あんまし食いではなさそうだな………


「グガァァッ!(俺の縄張りから出て行け!)」


「ほう、ここはオヌシの縄張りだったか、それはスマンかったの」


 喰っても腹の足しにもならなさそうだから、さっさと俺の縄張りから追い出す。

 大抵のニンゲンは威嚇すれば、悲鳴を上げて逃げていくからな。

 このちっこいのも逃げて行くだろう。


「ふーむ、そうは言ってものう、ワシ、この山が気に入ったしのう」


 アレ、逃げない?

 逃げない所か、なんか可笑しくね?

 なんでこのちっこいの、ニヤァって笑ってんの?

 ぇ、むっちゃ怖いんだけど?


「よし、それならオヌシとワシが勝負して、勝った方がこの山の支配者とするのじゃ!」


「ガァ!?(ハァ!?)」


「ん、なんじゃ、自信が無いのか?」


 ムカッ。


「ガァァァァッ!(このちんちくりんがやってやらぁぁっ!)」


「うむ、それじゃ早速来ると良いのじゃ」


 徹底的に叩き潰してやる!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る