第4話 被害者は
「ごめん事件だ、現場に行かなきゃ」
「ま、仕方がないね。じゃ、俺はもう少し飲んでる」
凛の飲んでいたジョッキを片付けてもらい、剛太郎はカウンターに移った。
この店は署のみんなも来る店だ、本当は二人だけで飲むことのできる店があればいいが、小さな街ではそんな贅沢は言えない。
飲み屋で警察官としての身分がばれると、いろいろと面倒に巻き込まれかねないのだ。あえて絡んでくる連中もいないわけではない、特に二人で飲んでいたりすれば格好の的だ。
「今の人が、新しく来た刑事さん? 噂どおり可愛い人ですね」
「剛太郎さんが惚れてるって噂の?」
昔から署の御用達ということもあって、従業員たちは身内のようなものだ。署での話は筒抜けになる。凛とのことは彼らにとっていいネタらしい。自分がいないときに何を言われているのかわかりはしない。
剛太郎のスマホがポケットの中で震えた。
「おい、重大事だ、すぐ署に集合」
多田係長だった。挨拶もどこにいるもない一方的な電話、それだけ言って電話は切れた。
普段の係長ではありえないことだ。剛太郎はとてつもなく嫌な予感がした。
「片山を覚えているか、二月まで窃盗でここにいた男だ」
係長は集まった全員を見て切り出した。もちろん覚えている。公務員だったが風俗店の女性に入れあげ多重債務に落ちいた挙句、職場の金に手を付け逮捕された男だ。
金額が三十万円と比較的少額だったことと、被害を弁償したことで、執行猶予の判決を受けてすでに釈放されているはずだ。
「娘さんがいただろ、高校生の」
「ええ、何回か面会にも来ていましたよね」
林主任が答える。もちろん剛太郎も覚えていた、小柄で真面目そうな娘で、親がきちんと育てたという印象があった。
「殺害された」
あちこちで驚きの声が上がった。さっき、凛に来た電話、あれがそうなのか。
「由良川の河川敷で見つかったらしい、詳細はまだ不明だ」
「留置場での記事規制ですか」
坂本主任が尋ねた。
「そのとおりだ、真野と香田は片山を知っているからな、知られると話がややこしくなる」
明日から新聞の切り抜きが増えるということだ、仕事が増えるが片山のためにもやらねばならないだろう。
「それと、まさかとは思うが、お前たちは彼女と接点は持ってないだろうな」
そっちか、警察でも、かつてそのようなことがなかったわけではない。交友関係の捜査対象にでもなれば、署は大揺れだ。
「まだ話はないが、河川敷だけに遺留品の捜索に駆り出されることになる、当分休みはないと思ってくれ。明日からに備え今日はゆっくり休むこと、では解散」
「被害者は片山杏奈、十七歳 田辺高校の二年生。昨夜遺体が由良川の河川敷で発見されました。京都府警はここ舞鶴署に捜査本部を設置しました」
捜査本部長である本部一課長の記者会見はあっさりしたものだった。実はそれ以上のことは公表すると確実に捜査に影響を及ぼすとの判断が働いていた。
昨夜のうちに本部からは須永管理官、友永強行犯五係長ら捜査一課の面々が到着していた。
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