27日目(5/10)酒は百薬の長?

 5月10日。今日は小雨。

 5月がもう3分の1も終わったってマジ?


 今日も教習所。9時には迎えのバスがくる。バスが来ているのを確認した直後、マスクを忘れたことに気が付き、母に慌てて電話する。

 マスクを受け取った後、再びバスのもとへ。「忘れもんないか?」と強い関西訛りで聞かれる。「大丈夫です」と今度は自信をもって答える。

 音楽を聴きながら、バスに揺られる。乗客は運転手のおっちゃんと私一人。

 好きなバンドの曲を聞きながら、ああ、「スリーピース・ガールズバンド」ぜんぜん進められてないな、と思う。離島に来てから完成させようと思っていた小説だ。離島日記と他の小説を書いていると、どうしてもそちらに手をとられ、後回しになってしまう。その結果、体力が残っていなくて手が付けられないこともしばしば。

 今日は教習が12時ごろには終わる。帰ると1時くらいだろうか。今日は進められたらいいなあ、などと思いつつ、教習所へ向かう。


 今日も技能教習が2時間分。10時から連続である。最初の時間はバックの練習をしたが、小雨のため後ろの窓から外が全く見えない。怖い。

 次の時間は第一段階の山場、S字クランク。お手本を見せられている間は、全く自信がなくやたらとどきどきしていたが、やってみると思っていたより上手にできた。前世の記憶が残っていたのだろう。前世は半クラッチでの徐行がまず難関だったが、ATはクリープ現象という徐行の強い見方がいる。軽くブレーキを踏んだりして速度を調節するだけで、あとはハンドル操作さえ気を付ければよい。前世の過酷さに比べたらどうってことない。

 結局その時間には、バックの練習のために意図的にハンドルを固定された時以外に、外にタイヤが落ちてしまうことはなかった。なかなかうまくできたぞ、とほくほく顔で教習を終える。

「お、学科全部見たんだ。がんばったね」

 昨日と同じ教官の人に褒められた。なんせ5時間分見ましたから。大学の授業でもこんなに溜めていたことはない。

 終わるころには日付変わってたし、寝たのは2時前だったよ。

 がんばったでしょう、と心中でドヤ顔をした途端、「じゃあ8時間目までに効果測定4回分受けといてね」と言われる。

 おや、これも明日まででは……?

 まあ、昨日に比べたらマシ……。仮免問題の対策動画を流しながら今これを書いている。あとでがんばる。


 そして帰りの送迎バス。お昼は帰ってから食べる予定なので、少しおなかがすいている。

「忘れもんないか?」といつも通り聞かれ、「大丈夫です!」と言いつつ乗り込む。この運転手さん、気さくな感じがする割にあまり話しかけてこないのが楽で好きだ。……と、思ってたら。

 帰路の途中、「ちょっとそこの店寄ってええか?」と訊かれる。ドラッグストアとスーパーが合体したような大きなお店の前。

「わかりました~」と返事をする。駐車場に入り、私は車でお留守番。「薬買うてくるわ」と言って、おっちゃんは車を出ていく。

 なかなか年嵩のおっちゃんである。持病なんかがあるのかな、大変だなーと思いつつ、お店から戻ってくるのを待つこと数分。

 おっちゃんが車に戻ってきた。

「薬買うてきたわ」と言って鞄にしまったのは、どう見てもお酒の一升瓶。茶色い奴。芋焼酎だ。このへんでお酒といえば、もっぱら芋焼酎である。島にある酒蔵の数はコンビニより多い。

「薬や」

 おじちゃんはやたら白い歯を見せてにっこり笑った。

 その後、「お父さんとお母さんは飲まへんの?」とか「あなたはお酒のまへんの?」とか「ずっと島におるん?」とか質問攻めにあう。

 ああ、こういうコミュニケーション苦手だ……。美容室のおしゃべりとか、行きずりの他人との会話は不得意。特に家族がらみのことは。何せ事情が複雑すぎて人に話すのが面倒くさい。適当な嘘をつきながらごまかすが、いつぼろが出るかとひやひやする。

 小学校の時に関東に引っ越し、今は一家で実家に戻ってきているとの設定をつくる。だから大学は関東で、就活失敗してこっちにいるんですよー、と話した。

「仕事なんて関東ならなんぼでもあるやん」

 ぐさり、と刺さる。

「自分はどんな仕事したいん?」

「……ライターとかですかね」

「ええやん、この島の魅力発信してや。観光客増やさな。がはは」

 ううん、この人、面白いけどちょっと苦手かも……。


 帰ったら気疲れでぐったりしている。曲聞きながら帰りたかったなあ。とりあえず一服しお昼ご飯を食べる。母に運転手のおっちゃんの話をしたら「おっちゃん、自由すぎる!」と笑っていた。

 そういえば母、twitterのアカウントを作ったらしい。「小学生男子あるある」とか見るのが好きなんだとか。作ったはいいもののどんなことを発信していいのかわからない、とぼやいていた。適当でいいんだよー、なんて言いつつ、内心ちょっと焦っていた。

 私のアカウントが母にフォローされたら、どうしようかな……別にいいかな……いやよくないかな……と微妙な心持ちである。




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