26日目(5/9)相談を聞くのって難しいね

 5月9日。予報は雨だったが快晴。日差しが痛い。

 謎の熱が下がったと思った途端、蚊にめちゃくちゃ刺される。昨日と今日であちこちを刺され、試しに数えてみたら左腕だけで13カ所刺されていた。私の血はよほど美味らしい。絶対にリピーターがいる。しかも腕時計をしているはずの手首とか、袖に覆われていたはずの二の腕とか、変なところばかり刺されている。

 ちなみに虫よけは部屋にやるタイプと体にやるタイプ両方をプシュッとしている。あちこち真っ赤に腫れた腕を見た母に、「なんでこんなに刺されてるの?」とぎょっとされた。私が知りたい。


 さて、ゴールデンウィークも明け、今日は久しぶりの教習所である。

 1時間目の技能教習。「がんばってます」Tシャツを褒めてもらえた。「マリオカートやったことある? どんな感じ?」と訊かれ、「ハンドルと一緒に体が曲がるタイプです」「たまにわけわかんなくなって逆走します」と答えたところ、ものすごく心配そうな反応をされた。ハードルを下げに下げたせいか、「思っていたよりもうまかった」と言ってもらえた。「久しぶりにしては悪くなかったよ」という言葉に、まさか「実は2回目の教習所なんです」とも言えず、「ありがとうございます」とにっこり顔をつくる。

 それにしてもAT楽だ。MTのトラウマが思い出される。坂道発進や狭路の楽さがえげつない。何せクラッチがないし、ブレーキを離せば勝手に徐行してくれる。ATばんざい。

 そして2時間目。1時間目の人よりやや評価が厳しめの人にあたる。四苦八苦しているとあっという間に1時間が経つ。ハンコを押してもらい、ありがとうございましたーと車を出ようとし、衝撃の一言。

「学科は受けてる?」

「5時間分くらいは受けました!」(えらいだろ、の顔)

「ああ、それ、6時間目の技能教習の前に全部見ておいてね」


 おっと?


 てっきり技能教習の第1段階が終わるまでに全部見ておけばいいものだと思っていた。今日終わったのが4時間目の技能教習なので、6時間目の技能教習があるのは明日である。

 明日までに全部見ろと……? 残り5時間分……???


 というわけで、急に夏休み開ける前の小学生みたいな心持ちになる。15時ごろに帰宅し、おやつを食べ少し休み、そこから怒涛のデスマーチ。


 とはいえオンラインで受けられるので、教習を聞きつつ別の作業をしたり。(実はこれも学科の動画を見ながら書いている)

 てんやわんやとしていた頃、ある女の子からDMが届く。今書いている小説のモデルになった子だ。

 里親さんが意地悪で家にいるのがつらい、という内容が、ここのところ連日届く。


 私は人に相談をするとき、特別共感を求めるタイプではない。ただ愚痴をまき散らしているときは感情を共有してほしい気持ちもある。けれど、改まって相談となると、解決策や私にはない見識を提示してほしい場合がほとんどである。このせいか、「そうなんですか」と頷くだけ、いわゆる「傾聴」しかしないタイプのカウンセリングは、何か進展があったような気がしなくて、なんとなく肌に合わなかった。

 そのため、家がつらい人たちから相談を受けた時、私は実践的なことを答えることが多い。くる質問もどちらかというと実践的なものが多かったから、なおさら。例えば、「学費はどのように捻出したのですか」「警察の相談票を提出し、学費免除と給付奨学金を利用しました」といった具合。


 自分がそうだから、無意識にそうしていたのだろう。その女の子から「今日はこんなことがありました。つらいです」という相談が来たときは、まず「そうだったんですね。つらいですね」と受け止めはするものの、「その環境はあなたの心身によくないので、やっぱり外部に相談した方がいいかもしれません。相談できそうですか?」と付け加えた。状況を変えなければいけないと思うと、こうするのがベストだと思っていた。

 けれど彼女は、私の返答に「わかりません」とパニックになり、ひどい自己否定に陥ってしまった。どんな言葉をかけていいのかわからなかったが、まずい一手を打ったことだけはわかった。

 すごーく曖昧に情報をぼかして母に相談してみたところ、「そういう時は、苦しみで心がいっぱいいっぱいになっているから、まず吐き出せるようにしなきゃ」「そういう人は、自己肯定感がものすごく低い状態だから。話を聞いて、つらかったねって寄り添ってあげて、あなたは居ていいんだよって伝えるしかない」「結論を急がせたらだめ。本人の心の整理がつくまで、ゆっくり待ってあげな」といわれる。

 よりによって、児相に相談した結果里親さんのもとで苦しんでいる子に、「外に相談した方がいい」なんて訳知り顔で言った。その事態の深刻さに気付いたとき、自分で自分にぞっとした。これは悪戯に相手を追い詰めただけじゃないか。

 私は焦りすぎたのだろう。私が速いペースで歩くタイプだったから、足を怪我して動けない人に、立って無理やり歩かせるようなことをしてしまった。


 ともかくその子には謝罪を述べ、結論を急がせることのないよう気を付けつつ、DMを取り交わしている。

 袋小路にいる人には、ただ傍にいて話を聞くことしかできない、とあるフォロワーさんが言った。正直言って、もどかしい。かといって無理に踏み込みすぎても、共倒れになったり、下手をしたら犯罪者になる。家庭に介入して保護する権限を持つのは、警察と児相だけだから。それでも、警察や児相だって万能じゃない。助けを求めた結果二次加害に遭った例や、状況が悪化した例はたくさんある。


 私は思っていたより複雑な問題に足をつっこんだらしい。


 出口はどこにあるのだろう、と思う。

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