24日目(5/7)私と「ゆきこ」
5月7日。天気は良好。熱も37.0度とあってないようなもの。
午前中は髪を切りに行く予定が入っていた。車でないといけない場所なので、母の送迎つき。それと昼食の支度とがあるので、ゴミ焼きを夕方やると言っていた母だったが、祖母が午前中にゴミ焼きを始めてしまい、母、困惑。
母曰く「祖母は思い立った時にすぐにやらないと気が済まない人」らしい。
今日の祖母は機嫌が悪かったようで、私含め孫たちへの返答はするが、母が声をかけても返事をしていなかった。祖母にはたまにこういう日がある、らしい。
母と祖母の関係が複雑であることに、私はこちらに来てから気がついた。そもそも土地柄、男尊女卑が根強いところである。冠婚葬祭には男衆と女子供が同じテーブルにつけないのは当たり前。母は、母の弟が大学へ行くとき、母は女で弟は長男だからという理由で、大学をやめさせられたこともある。
「一緒に暮らし始めて気付いたけど、私がお父さん(私の父)のモラハラにひっかかったの、たぶんばあちゃんが原因だ。自分が思っていることを、口にしないでもやるのが当たり前で、できないと怒るって人だから」
ある時、しみじみと母は言った。
母と娘の関係というのは、概してこじれがちなものである。
私と母はある種例外。お互いに負い目と引け目があるから、他人行儀にならざるを得ず、結果として良好な関係を築けている。これが普通の母と娘だったら、きっとお互いうんざりすることも、衝突も多かっただろう。
母と娘の関係は、他の構成員同士に比べ、境界線があいまいになりやすいという特徴をもつ。母子は「自分が産んだ(かつて自分の一部だった)」ことで癒着しやすく、娘は同じ性別であるだけに自分を投影しやすいのかもしれない。「娘に過干渉な母」という構図は、精神科医の香山リカさんも指摘するほどありふれている。
祖母は過干渉気味なところがある上に、モラハラの気質も持っている。それが発揮されるのは娘である「母」に対してだけだから、私に直接的な害はない。けれど。
目に見えて小言が増え、いつも疲れた顔をしている母を見ると、私も胸を傷めずにはいられない。私の言うことなら信用して聞いてくれるから、母の先回りをしてあれこれ話すくらいはできるが、このまま私が帰ったら、母はどうなるのか、少し不安。
ちなみに件の毒親育ちビンゴ、母は9つ該当していたらしい。「普通の人は0から、多くても3か4だよ」と言うと、ひどく驚いた顔をしていた。
話が変わるが、「ゆきこ」について。少しだけ弱音を吐きたいことがある。カリスマとしての「ゆきこ」のイメージを守りたい人は、以下は読まずにブラウザバック推奨。
「ゆきこ」とは私自身のことであると同時に、現実世界から切り離されたバーチャルな人格としての「私」でもある。「ゆきこ」のアカウントは幸いなことにどんどん影響力が大きくなっている。毒親育ちのなかでは稀有な幸運に恵まれた側として、それだけの期待に応える責務が自分にはあると、「ゆきこ」はどんどん新しいことを抱え込もうとしている。
弁護士になってやるなんて啖呵を切った。来た相談には全部答えている。話を聞いて、カウンセラーまがいのこともする。毒親育ちのためのサイトだとか、小説の依頼だとか、「ゆきこ」の活動は日に日に大きくなっている。ついてきてくれる人も応援してくれる人もおり、我ながらたいしたカリスマ性である。
その結果、本来の私のキャパよりも、「ゆきこ」が大きくなっている気がして、少しだけ怖い。
人はふつう、一人分の人生しか、せいぜい家族などを含めた数人分の人生しか抱えきれない。だけど私が背負おうとしているのは、最終的には、「全毒親育ち」とでも言わんばかりの数である。
以前、妹に、「お姉ちゃんは毒親育ち代表みたいになっちゃって辛くないの?」と訊かれたことを思い出した。その時は、「そんなつもりないけどな」って答えたっけ。
今になって、その言葉を思い出している。妹の鋭さに今更驚く。
私が負える以上の責任を、「ゆきこ」は負おうとしている。
その事実の重さに、やっと気づいた。自分の馬鹿さが嫌になる。
それでも、私が誰かを救いたいのは、それによって過去の自分が救われるような気がするからだ。要するに私の完全なエゴである。あくまで私のため。それを念頭に置かないと、簡単に支配になるとわかっているから、常にそう言い聞かせている。
それでも、私は神様ではないから、単なるちっぽけな人間だから、この手で抱えられるものには限りがある。あまりに多くのものを抱えすぎれば、誰かを救うどころか、私ともども潰れてしまうことになる。
したいこととできること、うまいこと折り合いをつけなければならない。私のためにも、他の誰かのためにも。
そういうのは簡単だけれど、それが一番難しいんだよな……。
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