3日目(4/16)バッタはエビの味がするらしい

 4月16日。午前中はひたすら荷物の整理にいそしむ。チビたちがバッタを捕まえてきて目の前に掲げてくる。昼ご飯を食べてゆっくりしていると、染井さんにスペースに誘われ、小説を書きつつおしゃべり。(twitterの方に小説一本あがったんでよかったら見てください。)

 その最中、庭先(私の部屋近く)で何やらはしゃぐチビたち。微笑ましいですねーなどと言われながら見守っていると、昆虫食願望のあった弟がついにやったらしい。バッタを素焼きにして食べたそうな。

「食べたの!?」

 私が弟に訊くと同時に、にわかにざわつくスペース。

「どうだった?」

「美味しかった! エビの味がした!」

 満面の笑みを掲げる弟。「こんどお姉ちゃんにも食べさせてあげる!」という善意100%の提言に、少し胸を傷めつつも遠慮する。


 その後、片付けがひと段落すると、おじさんと共に釣りに向かうことに。私は絵を描くという体で、弟から探検バッグ(クリップボード)を借りて持っていく。チビたちは他に用事があるので一度別れる。「釣果を期待しといて!」と運転席の母に言うと、おじさんが「やめてよー」と苦笑。その間約一時間、おじさんとふたりっきり。

 母親の再婚相手と、妻の元夫の長女。なんとも微妙な間柄だが、このごろ会話にも少しずつ慣れてきた。

 家から海までは車で10分ほど。漁港のあたりで釣竿をたらす。風が強く、日差しが強いわりに肌寒い。最初から絵を描くのもあれかなと思ったので、「やってみる?」と言われるがまま釣竿を握る。初めての釣りだが、岩場の陰にも壁際にもほとんど魚はいない。しばらく格闘。やっと手ごたえがあったと思ったら、針が海底に引っかかっていただけだった。その後も二回ほど、岩陰にひっかかっていたごみや、地球を釣る。

 少し経つと釣りにも飽き、ようやく絵を描き始める。風景画に挑戦するも、色鉛筆では思うような色が出ず途中で断念。その頃弟と妹が合流。妹が自分も絵を描きたいとせがみ、母に「だめです」と言われ拗ねる。その姿を見ながらふてくされた妹の絵を描いた。モノクロだったからか、慣れている人物画だったからか、今度はうまくいった。

 日が落ちてきて、風がどんどん冷たくなってくる。私が絵を描いている間も、絵を描き終わってうろうろしている間も、竿はぴくりとも動かない。おじさんが首をひねっていた。一度竿がしなったが、針には何もかかっておらず、餌のみみずを器用にとられていた。

 とうとう母が迎えに来て、釣果はゼロのまま終わった。まったくのボウズである。自然界とはかくも厳しいらしい。やはりどうぶつの森のようにはいかない。


 帰って、夕飯の支度を手伝う。「近所の人からアナゴをもらったから、しめさばのと盛って冷蔵庫に入れてあるよ」と祖母が言うので、冷蔵庫にそれらしきものを探す。が、しめさばの皿にいわゆる「アナゴ」の姿はない。代わりにぶつ切りの貝らしきものが盛られている。

 母が「ああ、そっか」という風に破顔する。

 夕食を食べながら話を聞いてみると、このあたりではトコブシ(小さいあわびのような形の貝。コリコリしている)のことを「アナゴ」というらしい。一般的な、にゅるっとしたあいつを食べる文化はこの島にはないそう。大学進学と同時に上京するまで、コリコリした貝を「アナゴ」だと思っていた母は、「アナゴの天ぷら」に奇怪な気持ちを抱いていたらしい。

「ええ、何それ、おいしいの? 固くない?」

「え? ふわふわしていておいしいよ?」

「あれがどうやったらふわふわになるの!?」

 とアンジャッシュのコントみたいなやりとりをしたこともあったとか。

 母がいわゆる「アナゴ」を知ったのは、回転寿司で「アナゴ」が回ってきたのを見た時らしい。母はそれまでサザエさんの「アナゴさん」も貝のほうだと思っていたそうで、誤解が解けると同時に「アナゴさんってもしかしてこっち!?」と衝撃を受けたという。

 こういう地方ギャップを感じるエピソードはすごく好きだ。もし読者の方で、似たようなエピソードのある方がいたら、ぜひコメントで教えてください。

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