第6話マグマ

私にこんなに体力があるなんて知らなかった。冴子はかろうじて保っている冷静な意識の中で思った。達しても。達しても。まだ瀬戸がほしい。湧き上がる。マグマのように熱い情熱の炎。そして私の子宮の泉から甘い汁が湧き上がってくる。貪るとはこういう事だ。


私達はある深夜、瀬戸の聖域である神奈川県内のマンションの1室で初めて抱き合った。短いキスから火がつき、冴子はもう待ちきれないとばかりに服を脱いだ。瀬戸は少し戸惑いながら後ろを向いてTシャツとズボンと下着をを遠慮がちに脱ぐと布団の上に正座して固まった。「もしかして‥初めて?」冴子は気づいたが繊細な瀬戸を傷つけるかもしれないとその言葉を飲み込んだ。愛する男の初めての女になる。こんな幸福あるだろうか。冴子は瀬戸の手をひいて布団の上に倒れこみ瀬戸が自らの身体の上に覆い被さる体勢をとった。

「乳首を舐めて‥そしてここ」冴子の秘部の上に瀬戸の手を誘導し、その手を持ったまま上下に動かした。「こうすると気持ちいいの」更に小刻みに早く手を動かす。その愛撫で冴子は史上最速で高みに達した。好きな人の手で達する事のあまりの気持ちよさに放心した。安心したように瀬戸は冴子に口づけると

限界まで血液が充満した自分のモノを冴子の中に入れることを試みたが一瞬、肛門にあたったので冴子は「そこ違う」と言ってモノを優しく持つと中へと誘った。


初めてのセックスは難しいものだ。中に入れてもすぐ抜ける。瀬戸の焦りからか達する前に中で萎む。冴子は焦らず色々な体勢を試した。1番彼が気持ちよくいられる場所。もはや自分より彼が気持ちよく達してくれるように全力を尽くした。失敗しては休んでキスを交わし抱き合いながら雑談をした。

「母乳‥飲んでみる?」

ふいに冴子は言った。瀬戸が言葉を失う。

「長い時間授乳してないから張ってきたの」

好きな男が私の血液で作られた乳を飲む。こんなにエロティックな事があるだろうか。いよいよ長いこと妄想していた事が現実になる。張った胸を優しく撫でながら瀬戸は遠慮がちに乳頭を含んだ。「琥太郎‥ごめん」男に乳を与えるなど子どもに対する最低の裏切り行為だった。瀬戸はすぐに吐き出した。

「苦い、鉄みたいな味だ。赤ん坊の頃はこんなの飲んでいたんだな」彼の唇の周りに残された薄い白の液体が非常にセクシーだった。

冴子の乳房を弄んだ事で瀬戸はまた興奮してきて冴子を抱いた。コツを掴んだのか腰の動きや体の位置を工夫して初めて抜けずに一つになれた。あまり長く時間をかけると疲れて萎むかもしれない。冴子は掴んだものを逃さないつもりで膣に力を込めた。達してほしい。気持ちよくなってほしい。夫には湧かない感情だった。途切れ途切れに瀬戸は荒い息の中から気持ちいいと言っていた。上に被さる瀬戸の動きがにわかに早まった。これは

いけるかも。冴子は確信した。快感の沼に引きづられまいと冴子の身体にしがみつく瀬戸の手に力がこもる。その瞬間瀬戸は果てた。

ようやく‥これが記念すべき初めてのセックスだった。


そこからは獣のように瀬戸は何度も冴子を求めるようになり冴子も瀬戸を求めた。

明け方、瀬戸は眠りにつきながら意外にも筋肉質な腕で冴子に腕枕をしてくれた。冴子は眠れなかった。群青色の空に少しずつ光が差しこみ新聞配達のバイクの音が響く。柔らかなレースのカーテンが風に揺られて頭上をくすぐった。「一晩中セックスしてたんだ私達」


動きがあったのは昨日。実家の両親が何か金銭の事で弟と揉めているから仲裁しに一度帰ると夫は言った。家庭のいざこざを見せたくないので冴子は家にいて。ただ琥太郎は両親が会いたがっているから連れて行くと言って2人で車に乗って長野まで行ってしまった。


渡りに船とはこの事。すぐさま瀬戸に連絡をし日勤の勤務終了後に落ち合い彼の地元でデートをした。古びた和風居酒屋で酒を飲み刺身を食べ瀬戸の趣味の旅行の話を聞きながら楽しく過ごした。

「もう終電だ」時計をふとみて冴子は飛びあがった。あと15分で終電。泊まりたいなど

自分の口からは言えなかった。名残惜しさを振り切りたくて1人で店を飛び出した。駅まで5分走って駅に連絡するエレベーターに飛び乗った。呼吸を整えていると突然閉めたはずの扉が開き瀬戸が乗り込んできた。一瞬見つめ合うと冴子は迷わず瀬戸の腕に飛び込み、どちらからともなく唇を重ねた。スケルトンのリフトなので2人がキスをしながらエレベーターを上る姿は外から丸見えだが気にしなかった。エレベーターが駅着いても2人は唇を離さなかった。扉は閉まりリフトはまた下に降りてきた。キスをしながら瀬戸は冴子の乳房を人差し指で軽く愛撫した。「そんな事したら帰れなくなる」抱かれたい気持ちを押し殺し冴子は言った。


瀬戸は答えた

「今日、今からなら俺は自分の部屋に冴子さんを誘います。明日は無理かもしれない。シラフになった途端に誘った事を恥ずかしく思って、この先はもう2度と勇気が出ないと思うから。今なら酒の力で強気で言える」


「ただし‥来たら俺はもうあなたを離さない。あなたの家族にも遠慮はしない。それでもいいの?」

狭いエレベーターの中、モニターで監視する管理会社の人は何を思うのだろう。


冴子の中でかろうじて形をなしていた自制心という名のジェンガの様なタワー。ちなみに今の冴子のメンタルは恋によって覚醒し恐ろしく強いものに変化していた。抱かれたい。今すぐに。だからジェンガの自制心の中のピースを躊躇なく抜き取った。瞬間バラバラと理性良心 自制心は崩れ去った。


「あなたの家に行きたい。」

終電の発車ベルと扉を開く音が遠くに響いた。もう‥戻れない。


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