Slaughter
「どうした?ゼファー、これがSlaughterだぜ?」
馬乗りのゼオは立ち上がると男の体は一瞬ビクンと痙攣をして動かなくなった。
「ははっ、まだ信じられませんって顔してんな」
目の前で人が殺された。
あんな酷い状態になるまで。
男の断末魔が頭から離れない。
生身の人間が、物、になったのだ。
「正気じゃない…」
「あたぼーよ、この街で正気な奴らは8割死ぬよ、ま、俺ら死なねーけどな」
ゼファーは声が出なくなる。
「ゼファーもやるんだよこれ」
解ってる、解っているんだが胸の奥からドクドクと早まる鼓動が止まらない。
怖いのか?いや怖いに決まっている。
「大丈夫だってぇー!最初は俺もそうだった、俺なんかお手本無しにいきなり殺しだ、何日もかかったよ」
「…慣れか…」
「慣れだ、しまいにゃやめられなくなんだな」
「中毒…?」
「うーん、嗜好かなぁ?中毒かもなぁ!?」
「そっか…」
狂ってる、絶対イカれてる。
そう思いながらゼファーはゼオの後ろを着いていくしかできなかった。
ゼオは男の脚を切断してこう言い放つ。
「どーお?奪われた気分は!?」
「あぁぁぁ!あし!あしがぁぁぁ!」
この地面でバタバタしている男は先程老婆のバックを引ったくりをして逃げた先に運悪く俺らがいたのだ。
「かえっ!返す!返すからぁぁ!」
「ったりめーだボケ!ちゃんと自分で返してあげなちゃい、俺も返してあげっから」
ゼオは切断された脚を拾い上げると男に手渡した。
放心状態でぽかんとした顔で男はゼオを見ている。
「じゃね!」
「ま、まま待って、助けてくれ…!」
「立派な大人だろ、てめぇで何とかしろから傘小僧」
「だ、誰かぁぁぁ!助けて!助けてくれぇぇぇ!」
男はずりずりと這いずり回り助けを懇願している。
ゼオは踵を返しゼファーの元へ帰ってきた。
「…生かすのか」
「うん、あいつが俺達の事言いふらしたら話広まんだろ、こんなんでも殺されるって」
「なるほどね…」
ゼオはそう言うと路地裏に向かって歩いて行った。
流石治安最低な街の路地裏だ。
たむろしている連中がガンを飛ばしてくる。
中にはゼファーの脚を見るや下品な野次を入れてくる者もいる。
しかしゼオは手を出さない。
なるほど、別に悪さをしていないからか。
「やっぱ四方八方ゲスばかりだなぁ」
「映画でしか見た事ないよ」
「ほんとなら全員ぶっ殺してやりたいけどね」
ゼファーと話していて前を向いていなかったゼオが男とぶつかりそうになる。
「おおっと!」
「ようよう姉ちゃん達」
「は?」
残念だな、2人とも男だ。
「とびきりキマんのあんだけどよ、いらねぇか?ヤラしてくれりゃ金はいらねぇからよ、これキメてヤッたらまじ天国だぜぇ?」
「なに?売人かあんた?」
「おい、でけぇ声だすなって、他にも上物あっからよ」
「おっ!上物みーっけ!」
ゼオは男の股間を掴む。
「俺達男なんだよね」
「あぁ?」
ブッチ
ゼオの手には引きちぎられた血塗れの男のモノがあった。
「あっあぁぁぁぁ!?!?」
「全然上物じゃねーや、粗悪品もいいとこだなぁ」
手の中でプラプラと玩具のように揺らし、地面にべしゃりと叩きつけた。
「汚ねぇ、これでやるこたぁできなくなった訳だ」
今や男と呼んでいいのかわからないが男は膝を着き、泳がせた目で自分の捨てられたモノと、えぐられた箇所を交互に見る。
「ひっ…ひっ…ああぁぁぃぃぃぃ…た、助けて…」
ゼオよりも大柄な男は泣きじゃくり命乞いを始める。
「男として死んだってこたぁもう用はないよなぁー!」
ゼオは腕に黒煙を纏う。
それを見た男は恐怖に怖気付く。
「や、やめ、助け…」
ゼオが腕を降ると男の頭はモノと一緒に転がっていた。
まただ、またあの目だ体の奥の震えが止まらない。
するとどこからか音楽が流れ出す。
「はぁーい」
ゼオは携帯を持っていたらしい。
「ああ、2番倉庫ね、海の近くっしょ、夜9時ね、問題ないっしょ、おっけー」
ゼオは携帯をしまうとゼファーに説明を始める。
「9時に取引あるみたいよ、薬と爆弾の、爆弾絡みだから警察も目に着けてるってさ」
「そうなんだ…て事は…」
「Slaughter出動っ!」
「そうか…」
「ゼファーもやるんだよ、楽しいんだこりが」
できるのか、この俺に、人殺しが。
まだ9時まで時間がある。
ゼオは上機嫌で転がる頭を蹴飛ばした。
もうすぐ取り引きが始まる夜の9時になる。
それまでにゼオは9人ほど掃除した。
見るのは慣れたが体の奥の震えは止まらない。
「♪♪」
ゼオは楽しそうだ。
「…怖い…」
「ははっ!大丈夫だって!」
できるのか、俺に、殺しが。
先程の9人も全てゼオが殺した。
止めに入った勇敢な市民も体を2つにされた。
邪魔するなら市民まで。
間違いでは無さそうだ。
「おおっ!あれあれ!」
倉庫のシャッターは空いていて黒塗りの車が道を塞いでいる。
その奥にスーツ姿の男達が話し合っている。
始まる…どうしよう、どうなるんだ俺は。
「さーて!行っくぜー!」
ゼオは笛を咥える。
ゼファーは後ろについて行くしかない。
耳につんざくような音が響くと一斉に男達が振り向く。
「なんだガキぃ!」
1人が叫んだ。
「おい、つまみ出してこい」
「はい」
下っ端1人が2人に近づく。
ゼオは少し暗闇まで移動する。
来た、来た来た来た。
「おい、何突っ立ってんだ、帰れガキど」
下っ端の声がいきなり止んだが薄暗く見えずらい。
「おいどうした!」
男の1人が叫ぶと暗闇から斜めに体を両断された男の髪を掴み引きずるゼオが現れた。
「あ!おっ…やられてんぞ!なんだこのガキゃ!」
その光景を目にした男達はナイフやマチェットを取り出す。
ヤバいヤバい、始まってしまう。
「死ねガキぃ!!」
ゼオに数人が襲いかかる。
「何よそ見してんだ!」
ナイフを持った男が1人ゼファーに飛びかかる。
「ちょまっ、うおっ!」
寸でで交わすと次々とナイフを振ってくる。
「ちぃ!おら死ね!」
後ずさりギリギリで全てを避けたところゼファーは何かに躓いて尻もちを着いてしまう。
人の腕だ。
隣を見ると男達を次々と両断するゼオが笑っていた。
避ける事をしないゼオの体にはナイフが数本生えている。
「目ェ覚ませDarkness!!!」
ゼオがそう叫ぶとナイフの男がゼファーに襲いかかる。
「よそ見してんじゃねぇえ!」
ダメだ、避けられない。
手で咄嗟に庇い目を瞑る。
ばちゃばちゃばちゃ
飛んできたのは生温い液体と固形物。
目を開けると頭を斜めに両断された男が倒れ込んでいる。
何が起きたかわからぬまま手で顔を拭おうとした時だ。
「…あ」
右手が黒煙の刃になっていたのだ。
これ、俺がやったのか…?
顔に付着した物がポタリと落ちる。
脳漿だ。
「このバケモンがぁ!」
マチェットを持った男がゼファーに向かってくる。
マチェットを煙の刃で受け止めようとするが煙はマチェットをすり抜けその男は肩から真横に両断された。
紛れもなく今、俺が殺したのだ。
心臓の鼓動が早まる。
「やべぇぞ!マジでバケモンだこいつら!」
「いや、Slaughterでぇ〜す!」
ゼオはジャンプしながら縦に黒煙の刃を振る。
叫んだ男は綺麗に縦に切断された。
ドクン ドクンと鼓動が強くなる。
なんだろうこの感じ…初めて人を手にかけたのに見ていた時とは違う感じ、恐怖でも衝撃でもない。
そうだ、誕生日を迎える1分前。
そんな感じ。
「…楽しいのか…俺?」
「くっそどもがぁ!」
また1人ゼファーに向かい突っ込んできた。
だが、この力を実感し、衝動の真相を知ってしまった以上止めることは出来ない。
首を横に斬った反動を使い回転し、もう一度次は腹に腕を振る。
ドチャリと解体された身体が散らばる。
「あは!やってんなぁゼファー!」
「あ、ゼオ」
血塗れのゼオが横に並んだ。
「口、笑ってんぜ!」
「えっ?」
「ちょー楽しーだろ?」
「いや、超って訳じゃ」
「楽しいんだろ?」
「どうか なっ!」
ゼファーは後ろに気配を感じていたので腕を振ると忍び寄って来た男の頭が宙を舞う。
「ひゅー!やるぅ!」
『全員武器を捨て両手を頭の上に!!』
突然倉庫内に響く拡声器の声。
皆動きを止め、シャッターの方を見る。
「うーわ来ちまったよ軍隊」
Laughter国内で唯一銃の所持を許可されている組織、軍隊だ。
7名がSMG(サブマシンガン)を所持している。
隊の後ろには拡声器を構えている隊長らしき人物が叫んでいる。
『武器を捨てろ!』
スーツの男達は大人しく各々が刃物をカランと地面に落とす。
ゼオはその姿を見ると降伏した男達に問う。
「あんたら助かったと思ってねぇか?」
ゼオは男の1人に向かって走る。
『動くなぁ!!』
叫びを無視し、男を斜めに両断したのだ。
「おい!なんだあの煙は!」
『構わん!撃て!』
えっちょっとまって死ぬ。
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