Laughter

「さぁー今日は張り切っていきましょー!」


あれから一夜が開けた。

ゼオは随分と楽しい奴だった。

本名は藤堂是雄。

日本人で歳も17歳と同い歳であった。

517歳と言うべきか。

打ち解けていくうちに自然と笑顔も増える。

だがまだ部屋の中だけだ。

しかも地下。

地上に出たら苦笑いや作り笑いですら、出来なくなるかもしれない。


「なんだどうした辛気くさい面して、寝れなかったんか?」

「考え事とゼオの寝相のせいでな、同じベッドとかどうにかならないの?」


ダブルベッドだがゼオの寝相の悪さは素晴らしいものだ。


「1つしかないし増やすのもめんどくせぇから我慢してくれ。つか俺そんな寝相悪く無いぞー」

「ゼオの手で窒息しかけたぞ…」

「はっはっはっ死なねぇから大丈夫だ」

「便利なもんだ…」

「さて、街の現状でも見るか?」

「そうだな、見ないからには解らないし、ここはなんて街なんだ?」

「Laughterって名前の街」

「ラフター…ねぇ…」


笑い…か。


「じゃあ清掃服に着替えるか」


街の実態を見る事になり、昨日渡された服を着ることにした。


「んだこれ…」


普段から長ズボンや半ズボンを履いたりはするが太股を強調するようなズボンは履いたことがない。


「ぎゃはは!まるっきり女じゃん!ほらここ、絶対領域ってやつ?」

「ゼオみたいな七分袖のにしてよ」

「いやいや、ダブるだろー、それに似合ってるからいいじゃねぇか」


似合うとかではない。


「納得いかないなぁ……で、着替えたのはいいけど、手から煙出して武器にするのどうやるの?」


手から煙なんて出した事はない。

幼い時に裾に火が燃え移ったくらいしかない。


「イメージすればいい」

「イメージ?」

「手から煙がでて、どういう形になるか…切れ味はどんなんか…ってな具合で」

「…まったくわっかんない」

「本当そうなんだって、簡単だし」

「まぁ…やってみるよ」


手から煙が出る…か…

手のひらを見つめながらイメージしていると、肘から先にかけて濃さを増していくように黒い煙が腕を纏う。

己が、身の光景に言葉も詰まる。


「ほらなっ、刃にしてみなよ」

「お、おお…」


煙をブレードにするイメージ…

すると煙はうねり、刃のような形になる。


「すっげぇ…」

「できたろ?ほら、自分の首斬ってみなよ」


悪戯な笑みを浮かべゼオは言ったが、そんな勇気は持ち合わせていない。


「いやそれは怖い…」

「大丈夫だって死なないから」

「死なないと解っていても怖いものは怖い、てか死なない保証はないから怖い」

「日寄ってんなぁ…だから死なないってぇ、ま、実戦でやられれば解るか」

「そ、そうだそうだ…」


流石に不死身と解っていてもとてつもなく勇気がいる。

慣れるとゼオみたいに見せびらかす事も可能なのだろうか。


「さて、街に繰り出すか」


ゼファーは昨日ゼオに連れられてきたエレベーターに乗り、エントランスに着いた。

社内は白衣の研究者達の活気で溢れている。

それを後目に玄関の外へ出た。


「ここが街の現状だ」


その街はゼファーが思ってたより

ずっと酷かった。


まず始めに目につくのは放浪者、ホームレスってやつだ。

俺の横に転がってるホームレスは、生きているのか。

目の前でチンピラに殴られてるホームレスはもう死ぬだろう

昼だと言うのに立ちんぼ(娼婦)だっている。

目の前の看板には皮肉なように、街をキレイにしましょうと書かれているが、酒の瓶は転がってるわ、ゴミだらけだ、注射器まで落ちている。


「酷い…」

「日常だよこれが、ここで生まれたガキは男は売人になるか、女は娼婦になるか、もしくはホームレスになるかだ」

「どうにか…ならないのかここは…」

「ふふっ…俺たちが変えるんだよ」


俺たちが変える。

とてつもなく強大な事だ。


「おいおっさん」


ゼオがホームレスを殴っていたチンピラに声をかける。

あたかも安っぽいスーツを高く見せようと見栄を張った服装だ。

ほつれが彼の生活を語っている。


「あんだガキィ…?」


ホームレスはもう息が無いだろう、顔の形が解らないぐらい腫れている。


「そのホームレスもうくたばってる、それともおっさんは死体を殴るのが好きなキチガイか」


薬の中毒者なのか、あらぬ方向を向いていた目がゼオを睨んだ。


「そぉーだねぇー…丁度ここに殴りやすそうなガキが2匹いるみたいでおじさんは嬉しいなぁ…」


ホームレスを馬乗りで殴ってたチンピラが立ち上がりゼオの胸ぐらを掴む。


ビュッ

ビヂャビチャと音を立てる地面。

漂う鉄の臭い。

男は自分の両腕が喪失していた事に気づくのにそう時間はかからなかった。

地面に落ちたその腕は一瞬ピクリと指を動かす。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!?」


男の絶叫と共にゼファーは思わず口を覆った。

腕の切断面は今まで口にしてきた牛肉らと何ら変わりはなかったのだ。


「早く殴れよ ほら」


ゼオはだらしなく落ちた両腕を拾い上げ、男の元へ放り投げる。


「いぃぃぃぃぃっ!!…あぁぁぁぁぁ!!!」


男は苦痛でジタバタともがき苦しむ。


「…ったくよー」


ゼオの両腕から黒煙が纏い始める。


「殴るってんのはこうするんだぜ?」


もがく男に馬乗りになったゼオの黒目はリング状に広がりその真ん中にぽつんと赤い点がある。

黒煙は刃とは違い歪な塊へ形を変える。


「ひえっっ!!助けっ!」


バゴン

今まで聞いたことの無い、人の顔を殴る音ではない音が聞こえた。

男の顔は陥没したのだ。


「ゲボォ…ひゅー…」


ガッブチィ ビジャ


2打目は男の下顎を吹き飛ばした。

口から血の泡をブクブクと垂れ流す男は未だ死に至っていない。


ドクン


ゼファーの中で何かが疼いた。

気持ちが悪いとか衝撃だとかそうじゃない。

自分の中で何かが湧いてきそうな感じ。

しかしその症状の正体は分からない。


ゴッ バシャン


3打目は額に当たり地面に脳漿の花を咲かせた。

くるりと振り返ったゼオの顔は無邪気な子供の様な笑みを浮かばせていた。

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