mission
社内はどこか近未来的な機械に囲まれた大きなオフィス。
いや、もう500年も未来だ。
エレベーターで地下に降りると薄暗い雰囲気のフロアに着く。
物置フロアみたいな場所。
「その奥が部屋だよ」
ゼオはスキャナーに手のひらを置くと扉が開く。
部屋はなんだろう、よくわからないガラクタや玩具が散乱していてとてもじゃないが綺麗な部屋とは言えない。
「俺達の部屋だぜー好きに使ってよ」
ゼファーは2人がけのソファーに腰をかける。
ゼオは大きなベッドにダイブする。
「さーて!どっから言おうかなぁ」
「んと、とりあえずDarkness?ってやつで500年生きてるって事しかわからない」
「んだなぁ…めちゃくちゃ簡単に言うと俺達は不死身」
「不死身…?」
「そ、死ねないの」
「まぁ…500年生きてるんだもんね…」
「そそ、そんな俺達にはミッションがありまーす!」
「ミッションて?なんかしなきゃいけないの?」
「そう!俺達のミッションは悪を滅ぼす事!」
はぁー…子供かよ…。
「…はぁ、正義のヒーローってやつ…?」
ため息混じりにゼファーは言った。
「正義じゃあねぇなぁ、俺らも悪だ」
「で、なにするのさ、悪と戦って」
だんだんイライラしてきた。
「殺すんだよ、悪を」
…は?
「…なに?なんて?」
「だから俺らは街にいる悪を殺してくんだよ」
「いや…人なんて殺せるか」
「なんで?殺してやるって思ったんだろ、ゼファー」
「そうだけどさ、何故そんな、悪を殺す必要がある」
「この街はくそだまりだ、俺達が悪のてっぺん取る」
「そんな事しなくていいだろう」
「ダメなんだなこりが」
「なんで?」
「世界を正すんだよ、悪が無くなりゃいいんだ」
「悪が無くなるのはいいんだけどさ」
「悪の連中の中にDarknessの力を奪おうとしてくる奴がいるらしい」
「奪う…奪われるものなのか、この、Darknessってやつは」
「らしいよ、詳しくは知らないけど、奪われたら最後俺たちは死ぬよ」
この力のおかげで生きながらえている、確かに奪われたら終わりなのかもしれない。
「…とりあえず…この街はそんなに酷いの?」
「酷いったらありゃしねーよ、悪うじゃうじゃのまともな職の奴はいねーよ、売人とか娼婦だらけ、後はホームレス」
「警察は?」
「いるけどあてになんねーよ銃が規制されてっからみーんな日寄った雑魚ばっか」
「銃がない?」
「そう、お偉いさんが銃嫌いでとっぱらって逆効果〜持ってんのは軍隊かコピー品手に入れた一部の組織」
「…で?銃もなしでどう殺しなんて?」
「俺たちゃ死なねーんだ、殺し方なんていくらでもあんぞ」
「その死なないっての、どうにも理解出来ない」
「だろうねぇ〜じゃあちょっと風呂場来てよゼファー」
ゼオはベッドから起き上がるとゼファーを風呂場まで連れて行く。
ゼオは着ていたパーカーを脱ぎ捨てるとやはり彼は男なんだなと納得させられる。
「まぁー見ててよ」
まさか…
ゼオは右腕を肩近くまで上げた。
「マジックターイム」
そう言うと不思議な事にゼオの肘から先にかけてどこからか黒い煙が立ち上がったのだ。
「…どーなって…」
その煙は次第に濃さを増し、腕が煙に覆われ、刃のような形になったのだ。
「俺らの武器はこれ、Darknessパワーだよ」
「す…げ…」
「あ、グロいの平気?」
「…いや、そんなには…」
「まぁ関係ねーけど」
ゼオは刃を自ら首に当てたのだ。
まさか。
「ゼオ、まっ…」
シュピ
頸動脈に刃を振ったゼオの首から鮮血がビューと吹き出した。
ゼファーはその光景をただただ唾を飲み込み見るしか出来ない。
3秒ほど経ったあと、吹き出した血は止んで傷口から血がこぼれ落ちていく。
「…だ、大丈夫」
「言っただろ…?」
傷口から空気と血を垂れ流したゼオが言う。
その刹那、傷口から黒煙が上がり始めたのだ。
「死なねーって」
ニヤリと笑ったゼオの首は傷の跡形もなく完治していたのだ。
「ありえない…」
「現実だよ」
「ははっ…」
「ゼファーもやってみる?」
「いや…遠慮しとくよ…」
「まぁいずれ来るよ、こう言う時」
「ああ…うん」
「じゃ、俺このままシャワー浴びるわ!」
ゼオはそのままズボンと下着を脱ぎいきなり裸になったのでゼファーは部屋に戻りソファーに体育座りで腰掛ける。
もう、何が何だかわからないや。
いきなり突きつけられた現実にどうする事も出来ない。
しかし認めたくなくとも1つだけ変わらぬ真実がある。
「母さん…父さん…」
そう、家族の事だ。
500年も経っている。
両親や兄弟は当然ながらもういない。
共に過ごした友人さえもいない。
俺は1人だ。
今の俺にいるのはいい加減な少年1人。
しかも人を殺せと言うのだ。
ゼファーは頭を抱えしばらく放心状態になっていた。
しばらくするとゼオが頭にタオルをかけシャワーから出てきた。
「ふぃー!さっぱり!」
彼には何かと振り回されているがその姿が友人と重なる。
「ゼオ」
ゼファーは彼を呼び止める。
「俺にはもう何も無い、変えるしかないのか?」
ゼオは真剣な眼差しになると。
「ああ、世界を変える」
とだけ言った。
逃げる事は出来ないと悟る。
「わかった」
ゼファーはそう言うとゼオに手を差し伸べた。
「改めて、よろしく、ゼオ」
未だに納得はできていないが彼の言う通り変えるしかない、世界を、自分を。
ゼオは大きくニヤリと笑い。
「ああ!よろしくな!ゼファー!」
手を握りかえした。
「で、さっきも言ったが俺は何をすればいい?」
「んーまぁ出来るなら明日からだな、そこら辺のゴミでいいんだ、片付けて殺しと死体を慣らさないと」
さっきのゼオが見せた首切りはゼオが不死身であって死んではない。
リアルなマジックだと思っている
それが次は本物の、必ずしも死ぬ人間。
「俺たちがやることは悪を消すことだが同じく悪に恐れを持たせないといけない、異常な程の片付け方をしないとな、ま、街の死体を掃除するのは俺らじゃないが」
「ああ…つまりは…酷く、グロく、スプラッタに殺せと?」
「ご名答」
「とんだサイコ野郎だ…」
「それと、掃除する服があるんだ」
「服?ガスマスクか何かで怖がらせるとか?」
「マスクはいらねぇな」
またもへらへらと笑いながらゼオはクローゼットから2着、服を出した。
「こっちが俺のでそれがゼファーのだ」
そう言って渡されたのは、
白のパーカー
ショートパンツ
足に着ける長い裾みたいなの、初めて手にする物だから名前も知らない。
それに
黒の笛
だ。
「随分子供みたいなんだな…」
「これはな、油断させる為であって、死んでく奴らや、噂を聞いたゴミに、子供に殺される、という屈辱を与える為である、俺が考えた案なんだぜ」
なるほど、精神的にもサイコ野郎だ。
「この笛は?流石に幼稚すぎない?」
「それは、Slaughter(虐殺)開始音だゴミがあったら吹いて、片づいたら吹く、街の人も怖がるだろうな」
「なるほどね、笛が鳴ったら外には出るな、ふざけて見に行ったり邪魔しようものなら」
「Slaughterだ」
「合図ない殺しよりはマシかな…一般人の犠牲者も増えずに済む」
何かと考えてはいるんだな…
「そゆこと」
「それだけは同意する」
「ふっ…それ以外も嫌でもやるんだぜ…」
「……はぁ…わかった…で?街に行って手当たり次第に見つけて笛吹いて殺すの?流石に何回も笛鳴らすのもどうかと思うよ?」
「基本は取引中やなんかの準備中のマフィアだとかに鳴らして、ただの暴行、強盗、売人なんかは鳴らさずにただ普通に片付ける、一般人にもこういう事をしたらどうなるか解ってるな?って知らせるんだよ」
「なるほどね、マフィアの取引とかの情報はどこで?」
「ニコルズのおっさんが調べて知らせてくれる」
「そこはちゃんとしてるんだ…」
それ以前にそのような情報を入手できるこの会社が意味不明だ。
「当たり前だ、解ってなきゃSlaughterとしてやっていけねぇよ」
「それ、Slaughterってやつ、通り名?」
「ああそう、虐殺でSlaughter(スローター)まぁ妥当だろうな」
「名誉なこった…」
「さぁて、明日からもっと楽しくなるぜぇー」
ゼオは浮かれながらソファーでバタバタしてる。
その光景は子供さながらのものだ。
本当にやっていけるのだろうか…
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