Unreality

「…タルサイン正常です」

「準備を、目を覚ますぞ」


どこからか聞こえる声。


「こい、目覚めるんだDarkness」


ダークネス?

ダークネスと言う単語が聞こえるとドクンと血液が頭に流れ込む。


『Darkneeeeeeeess』


人間とも言えぬ掠れ声が脳内に響く。

その声共に目を見開いた。

強烈な光が目を刺す。

見た事もある様な無いような機械が前に広がる。

手術台か。


「おはよう」


その声が聞こえる方を向くとパーマがかったやつれている白衣の中年男性がいたのだ。

ああそうか、俺は殺されかけたんだ。

今だ現実を受け入れられていないがハッとし勢いよく飛び起きた。

痛みはない。


「あいつは!」

「どうしたんだい?」

「一緒にいた友達はどうなったんですか!?」

「?何を言っているんだい?」


見渡すと手術室とも研究室とも見える一室。


「一緒に運ばれませんでしたか!?」

「いや、君はずっと1人だったよ」

「そんなはずは!」


そんなはずは無いのだ、自分1人が運び込まれるはずがない。

すると男は気づいたように目を見開いた。


「ああ、そうか、彼か!」

「いるんですね!?」

「ああ、1年前に先に目が覚めているよ」


1年前…?

そんなに長い間眠っていたのか?

そんなに重症だったのか?

ともかく、無事とわかった以上胸を撫で下ろす。


「呼んでこよう、さ、これを着て」


助手から簡易な衣類が手渡された。

気づいていなかったが裸だったのだ。


「待っていてね」


その男はデスクにある内線を取ると電話をかけ始めた。


「私だ、すまないね、休んでいるのに、彼が目を覚ましたよ」


そう言うと受話器を置いてゼファーの方を向いた。


「直に来るよ、すまないね、紹介が遅れたね、私は、ニコルズ、グレッグ・ニコルズだ」


ニコルズと名乗る男は微笑む。


「ニコルズさん、ですね、自分はゼファーです、ゼファー・マクベイン」

「よろしくゼファー君」


服を着ながら自己紹介を済ませた時だ。

勢いよく扉が音を立てた。


「おっさん!目ェ覚めたって!?」


騒がしい声と共に飛び込んで来たのはどこか気の強そうな女子だ。

誰だこの人。


「おーおーおー!ほんと起きてんじゃん!」

「えっと、だ、誰です?」

「へー!キレーな顔してんな!目ぇ宝石みてー!銀髪ってほんとにいんだな!」


話を聞かずつり目を大きく輝かせた、女子にしてはハスキーかがった少年のような声。


「あ、えっえっと」

「あぁ!ごめん!俺はゼオってんだ!」

「あ、男?」

「ったりめーだろ!どーみても男だ男!ちんこついてっから!」


どう見ても女にしか見えないが言えた立場じゃない。


「ごめん、俺はゼファー、て言うかニコルズさん」

「うん?どうしたんだい」

「違う、彼じゃない、一緒に運び込まれた人がいたでしょう」


ニコルズは顎に手を置く。


「うーん…そう言われてもなぁ、君たち2人を先代から受け継いだからわからないなぁ」


ああもう、わからないのはこっちだ。

この人は何を言っているんだ、先代だの受け継いだだの。


「あはは!そうか!ゼファー!そうなるわなぁ!」


ゼオは、ははんと笑うと続いて。


「500年後だもんなぁ!」


…?


「えっと、ごめん、何が500年後なのか…」


ニコルズはサラッとこう言ったのだ。


「今西暦2520年だよ」


聞いた事ある?

起きたら500年後になってるって事。


「いや…いやいやいやいや待って待って」


ゼファーは頭を抱えた。


「待っても変わらないよーんっふっふ」

「いやおかしいだろう、人間は500年も生きられない」

「人間はね」


ニコルズが人差し指を立ててそう言うとゼオが続く。


「俺らは人間じゃない、Darknessだよ」


Darknessと聞くが全く持ってわからない。


「なに、えっとDarkness?」


ニコルズがゼファーの肩を掴む。


「そう!君らはDarkness!500年も生きられているのはその力のおかげさ!」

「いやいや、自分人間ですよ、何故そんな…」

「君は記憶の最後に何を思った?」

「最後…」


怒り…殺意…


「…怒りです、殺してやると…」

「それだよ!!」


ニコルズは食い気味に言うと続く。


「君は記憶の最後に殺意を思った!強く、そう強く!」

「は、はい」

「強い殺意にDarknessは宿ったんだ!ゼオ君!君もそうだろう!?」

「お、おう」


突然振られゼオは動揺する。


「君らは殺意を宿した、その殺意こそがDarkness!」

「あの、とりあえず、とりあえずわかりました、てかここはどこなんですか?」


わかるわけないがわかろうとするしかない。


「ここはUnreality社、現実では起こりえない非現実を研究している、君らは先代から受け継ぎ私が目覚めさせたんだ」


どこか自慢げにニコルズは語る。


「は、はぁ…」

「おい、おっさん、いきなりごちゃごちゃ言ったってわかるわきゃねぇだろ?簡単でいーんだよ簡単で」

「そうかな?細かく言った方がいいと思うんだけどな?」

「めんどいんだよおっさんの話、俺が説明すっから部屋行こうぜゼファー」


ゼオはゼファーの背中をトンと押した。


「そうか、すまないねごちゃごちゃと、今日はゆっくり休みたまえよ」

「じゃーこっち!着いてきて!」


ゼファーは手術台から降りるとゼオの後をついて行った。

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