Slaughter

はく

Prologue

「なぁーゼファー知ってるか?」


夏の夕暮れ、心地よい風が教室に流れ込む中友人と雑談している時、ふと聞いてくる。


「ん?なーに?」


彼とは小中高と同じクラスを共に過ごした親友だ。


「3年が学校終わったあと葉っぱやってるらしいぜ」

「葉っぱ?」

「草、大麻だよガンジャ」

「へぇ、まぁここロシアだしね、珍しくもないじゃない」

「まぁそうなんだけどさ、面白そうじゃね?」


親友はニヤリと悪戯な笑みを浮かべる。


「おいおい、まさか手だすとか言わないよな?」

「まーさか!ちょっと覗いて見ようぜ!」

「不良でしょー?あっぶないなぁ…」

「だーいじょぶだって、覗いたらすぐおさらば!」


彼は提案した事は曲げたくない人間だ、そのせいで振り回される事も少なくない。


「…わかったよ、そのかわり見たらすぐ帰るからね」

「おっし!」


彼は座っていた机から勢いよく降りる。


「行くぞゼファー!」

「はいはい」


ゼファーは重い腰を起き上がらせ立ち上がりスクールバッグを肩に掛けた。


話によれば放課後体育館の第1倉庫で3年の不良は大麻を吹かしているらしい。

その倉庫にたどり着くと扉が半開きなのが目に付いた。


「お、少し空いてるぜ、よしっ」


友は足音を立てぬよう倉庫に近づき中を覗く。

遠くから見ていたゼファーは、はぁ、とため息をつく。

すると友は目を輝かせながら手招きをしてきたのだ。

仕方なく扉に近づき、一緒になって覗く。

そこには不良3名が煙草のように大麻を吹かしていたのだ。

何も面白くない、ただ吸ってるだけ。


「…もう帰ろうよ」


ゼファーはため息混じりに言う。


「そうだな…つまらね」


友も思っていたよりつまらなかったのか顔を見やる。


「何処に行くってんだ?」


突如背後からこちらに向けられている声。

振り返ると同時に左頬に衝撃が走る。

殴られたのだ。

扉に激突したゼファーは倒れ込んでしまった。

左目が涙でかすみ、熱を持った頬に手を当て友の方を見る。

友は胸ぐらを捕まれ倉庫に引きずり込まれてしまった。


「こいつ覗いてやがったぞ!」

「やめろ!離せ!」

「うるせぇ!」


皮膚と皮膚がぶつかる音を聞くと友も殴られた事を察する。

立ち上がり倉庫に行こうとするも足が震え、言う事を聞かず立ち上がる事が出来ない。

怒声と鈍い音、びちゃびちゃと血か吐瀉物か。

まずい、このままじゃあ。

向かったとしても勝てっこない事は分かっている。

しかし今倉庫の中で友は4人の不良から壮絶なリンチを受けている。

すると突然、おい、と言う声と共に音が止んだのだ。

恐怖を押し殺し何とか入口まで這いずるとそこには悲惨な光景が広がっていた。

血まみれの親友が横たわっていた。

腕はあんな方向に曲がらない。

あの痙攣の仕方はまずいのでは無いのか?

そしてじわりと背中の地面に血が広がった。


「うそだ」


不良を見るとそのうちの一人の手にバタフライナイフが見えた。


「お前何やってんだよ!こいつ死んでんぞ!」


その声で頭が真っ白になった。

俺は元々大人しい方で友好的な人間じゃない、そんな自分に声をかけてくれ苦楽を共にし8年も付き合った心から友と呼べる親友なのだ。

そんな彼が死ん…


ゼファーは起き上がり走った、4人の不良の元に。


怒りと悲しみ、失った事による衝撃と殺意。

友に手をかけた4人を殺す、と強く誓うもその感情は拳に打ち砕かれた。


気が付くと天を向いている。

片目が全く見えないのだ。

息をする度アバラに激痛が走る。

友同様に俺はリンチを受けたのだ。

分かっていた事だ、自分は160弱の小柄で体型も細い。

そんな俺が勝てる訳が無いのだ。

絶望に浸る中、最悪の言葉を耳にする。


「おい、こいつ殺しちまう前にヤらねぇ?」


は?


「はっはっはっなに?お前ホモ野郎かよ!」


待てよ。


「見ろよこいつの顔、まるっきり女じゃん」

「確かになぁーありっちゃありってやつ?」


ふざけるな。

ゲスじみた笑みの不良が1人ゼファーに近づく。

やめろ、そう言いたいが器官に何かが詰り声が出ない。

ズボンに手をかけられた時友の姿を真剣に見据えた。

友はもはや痙攣もしておらず微動だにしていない。

親友を殺した上、リンチにした俺を犯そうと言うのだ。

1度放心になったがふつふつと怒りが増してきた。


殺してやる。

こいつら全員殺してやる。

殺す、死んでも殺す。

殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す。


殺してやる。


「せーのっ!」


ズボンをずり下げられそうになった時だった。


パン、と何かが破裂する音が聞こえ、その刹那大量の水しぶきが顔に降りかかる。

鉄の匂い。


「な、なんだこいつ!!!」

「離れろ!…う、うわぁぁぁぁぁ!!」


パン


びたびたびたびちゃ


何が起きているのだ。

不良と断末魔と血しぶき。

訳が分からなくなったゼファーは混乱と共に意識が途絶えたのだった。

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