第4話

「ユキコが別れたいと言ってるのに何故捜すんだ? 未練でもあるのか?」


 やみくもに、無計画にホテル街を歩く舜二にジョンが聞いてきた。


「未練タラタラだよ。あんな美女はなかなかいないもんだよ、僕の居た世界では」


 更に舜二は言う。


「優希子は内面的に見てもステキだ。あんなに優しくて笑顔の女は優希子だけだ」


 ジョンが聞いてくる。


「新しい恋をしてみようとは思わないのか?」

「僕にとって初めて出来た彼女が優希子だ。僕には優希子しかいない。それに、優希子とは結婚前提で付き合っている」

「なら、見つけないとな」


 ジョンが舜二の先頭をゆく。


「やみくもに捜すのは効率が悪い。ユキコが好きそうなのはどういう場所だ? まぁ、この世界にあるかどうかは知らないが」

「優希子は映画が好きで、デートはいつも決まって映画館へ行く。デパートとか、ブティックにもよく行ってた」

「デパートにブティックか。ユキコの趣味は?」

「優希子はおしゃれな女だ。ブランドにもこだわる」

「どんなブランドだ?」

「シックな色味……そうだな、ブラックとかダークブラウン系の服が多いブランドだ」

「ユキコの好きな服の柄は?」

「優希子は無地が好きだ」

「ムジとは何だ?」

「柄なし、僕が今着ているのは無地だよ」


 舜二は両手を少し広げてみせた。

 ジョンが振り向いてちらと舜二の着ている服を見た。


「ブラックかダークブラウンのムジか」


 周囲の壁の色がパステルパープルから暗い青色に変わる。

 ジョンが舜二に聞いてくる。


「シュンジはどうしてユキコにフラれたんだと思う?」

「自覚はない。心当たりもない。僕はただただ彼女をこころの底から愛している。誰よりも彼女を愛してきた自信があるぐらいには」

「その愛の重さに、ユキコは息苦しさを感じていたのでは?」


 ジョンに言われて舜二ははっとした。


「そんな、つもりは……」

「ユキコにとってはシュンジの愛は重すぎていたのかもしれないね」

「そんな……」

「まぁ、我についてくるがいい。未練は地下のバーで聴いてやる」

「だいたい、未練てさ。僕はまだ優希子のこと諦めてないからな」

「わかった。わかったから、とりあえずバーへ行こう」


 ジョンはそう言いながら、細身の黒のスーツと黒髪の人間に変身した。


「ジョンて、化け猫なの?」

「今は我の話をしている場合でないだろう」

「そうだな」


 ジョンは鍵を開けてバーの中へ舜二を招き入れてくれた。

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迷宮都市と美しい彼女 closet @medy7373

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