第19話

アルテバーンの右腕の装甲が開く。

その姿は小型の弓………否、腕で引く必要が無いためこれはボウガンと言えばいいいだろう。



『ソリッドショット!!』



放たれる光の矢「ソリッドショット」。

小さく細い射撃技であるが、威力はスレイプニールアローと同等だ。



ギゴォオオ!!



それをオロチは、バレルロールのように自身を回転させ、その大きな翼で弾く。

その鋤に、アルテバーンがオロチの背後に回り込み、突っ込む。



『はあっ!』

キロロロッ!!



ぶつかり合う両者。

飛ぶ火花。

衝撃で双方が弾かれるように吹き飛ぶと同時に、アルテバーンは今度は両手の装甲を展開。


ズババァっ!!と、何発ものソリッドショットが放たれ、誘導ミサイルがごとくオロチに殺到する。

まるで、80年代のアニメに見られた誘導ミサイルによる弾幕のようだが、オロチは派手にうごき回って避ける必要はない。



ギゴオオオォォン!!



二つの頭から、稲妻状の魔力光線を放ち、迫るソリッドショットを次々と相殺する。


………この時、オロチは魔力熱線を放つ際の、背中のヒダを開いての魔力吸引をやっていない。

やる必要がないのだ。

既に遺伝子の変化により身体が作り変えられ、魔力を生成する機関体内に作られている。


空に次々と爆発が起き、爆煙と魔力の化学反応によるピンクの炎が散った。

それを煙幕代わりに、アルテバーンがオロチに肉薄する。



『はああああっ………!!』



オロチに突撃するその身体が、溢れ出したような炎の魔力へと包まれる。


そう、アルテバーンはニクスバーンが変貌した姿。

フェザーミサイルとスレイプニールアローは統合されソリッドショットとなったように、ニクスバーン時に使えた技は、強化されて受け継がれているのだ。



『ネオフェニックス………ストライクッッッ!!!』



やがて、アルテバーンは燃える不死鳥となり、オロチの懐に突っ込む。

ニクスバーン最大の必殺技であるフェニックスストライクの発展技、「ネオフェニックスストライク」である。


後で判明した事だが、威力はフェニックスストライクのゆうに三倍。

2030年現在、世界中に残存する核弾頭を集めても届かないような一撃であるが、オロチはなんとそれを受け止める。



ギゴオォォ………!!



散る火花。

拮抗するオロチとアルテバーン。


見れば、オロチも無傷という訳ではなく、ネオフェニックスストライクを受けている部分は、次々と破壊され崩れている。

だが、破壊された側から自己再生し、そしてまた破壊されては自己再生しを繰り返しているのだ。


恐るべき再生スピード、生命力。

まさに、魔王級生物といった所。

だが、一つ明らかになった事がある。

それは。



『なるほど………絶対壊れないワケじゃないという事か!』



そう、ニクスバーンを含めた人類のいかなる攻撃をも通さなかったオロチではあるが、これでオロチの体組織がいかなる攻撃をも通さない無敵の鎧ではない事が明らかになった。

そして、オロチの体組織を破壊できるなら。



『壊せるなら………殺せるわね!』



オロチが万能の絶対神ではない事が明らかになったが故に、僅かであるが見えた勝機。

オロチを傷つけ、対峙するころす事はできる。

そしてアルテバーンならそれが可能。


そう思った矢先。



………ギゴオォォオオォォン!!



アルテバーンが油断したか。

神である事を否定されたオロチが激昂したか。

どちらかは解らないが、突如オロチが二つある頭の口を開き、魔力光線を吐き出した!



ずどおぉおっ!!



そして起きる、エネルギーの拮抗が乱れたが為の大爆発。

アルテバーンは、身体を覆っていたエネルギーを解かれ、後方へと吹き飛ばされる。



『わああっ!?』



空中で乱れたバランスをどうにか取り戻そうとした隙を突き、射出アンカーがごとく勢いよく伸びたオロチの尻尾がアルテバーンを捕らえ、自らの元に引き寄せる。

そして、動けないように拘束したかと思うと、その二本の首を伸ばし、鋭い牙でアルテバーンの肩にガブゥッ!!と噛み付いた!



『ぐうぅっ?!こ、こいつ………!』



見れば、オロチの首の表面に、魔力エネルギーの光が吸い込まれてゆく様が見える。

アルテバーンの高濃度魔力エネルギーが吸入され、オロチに吸い取られているのだ。


上級モンスターの中に稀に持つものがいるという、魔力吸血マナドレインだ。

魔王級生物たるオロチが使えてもおかしくない。


このままではアルテバーンは魔力を全て吸い取られ、消滅してしまう。

振りほどこうにも、魔力を吸い取った事で増大したオロチのパワーは、魔力を吸い取られてパワーダウンしているアルテバーンよりも当然強い。


力が抜けてゆくのを感じる。

アルテバーン絶体絶命のピンチ。

だが、その時。



………ギゴ?!



突如、オロチの背中で発生する爆発。

それがミサイルの着弾である事が、直後飛来した銀色の流星が物語った。



『空自だ!』



それは、型式番号F-97「マーベリック」。

その、世界的に有名な戦闘機の映画の主人公の名を冠するその戦闘機は、初の魔力エンジン搭載機として有名であり、現在の航空自衛隊に配備が始まったばかりの最新鋭機だ。


その、貴重な最新鋭機が援護にかけつけてくれたのは、きっとスズカの根回しがあったからだというのはすぐに解った。



ギゴオォォ?!キロロロッ!?



何発もオロチに命中するミサイル。

その、着弾部分が猛烈な勢いで硬化し、おそらくオロチが急いで硬化した部分を剥離させ再生するが、再生した側から再び硬化してゆく。


この、猛烈な勢いで繰り返される細胞の死と再生は、オロチの細胞が凝固しているからに他ならない。

そう、プラン・ヤシオリの遺伝子凝固剤が、ミサイルに込められて放たれたのだ。



『よし………今よ!』



遺伝子凝固剤によってオロチのパワーが弱まり、アルテバーンはオロチの拘束から脱する。


再び空中で対峙する両者。

オロチは、自分が完全に死なないように細胞を剥離・再生させるので手一杯らしく、全身から凝固した身体がフケのように吹き出し、藻掻いている。


オロチを完全に停止させるには量が足りなかったが、オロチに決定打を与えるなら今しかない。

そしてここには、それが可能なアルテバーンがいる。



アルテバーンは、そのバスト100mはありそうな胸の谷間にずにゅうっ!!っと手を突っ込むと、そこから自らの武器を引き抜いた。

それはまさにニクスカリバー………ではない。


宝石のついた、アルテバーンの身の丈程もある巨大な剣。

そう、スカーレットの愛剣たる大剣バスターソード・イフリート。

それを、アルテバーンのサイズまで巨大化させた物だった。



『轟剣よ、汝の敵を焼き尽くせ………!』



スカーレットの声で詠唱が始まると同時に、東京の街に燃え上がる炎が、吸い込まれるように巨大イフリートの刀身に集まってゆく。

炎は巨大イフリートの刀身へと収縮され、その炎を秘めた刃は太陽がごとく強烈な輝きを放つ。



『………はぁぁぁっ!!』



アルテバーンが背中の翼を広げ、その炎の刀身を背負って突撃する。

炎の輝きを背負って一直線に飛ぶ様は、さながら不死鳥のようである。



………ギゴ!?



直前まで迫った時、オロチはようやく見た。

圧縮された炎により赤熱した巨大イフリートを振り翳す、アルテバーンの姿を。

その内部からこちらを睨みつける、今までちっぽけな下等生物として踏みにじってきた、二人の人間………アズマとスカーレットを。



『『真・サラマンダーバイトォォ!!!』』



一閃。

瞬間、圧縮した炎のエネルギーを解放。

刀身から解き放たれた炎は、オロチの身体を貫き、焼き尽くし、消滅させる。


断末魔を挙げるよりも早く、異世界の神たるオロチの細胞は、その一片を残さずこの世から焼失する。



光が広がる。

太陽光よりも強く、眩しい光は、東京上空を瞬く間に覆い尽くした。


そして………






………………






アキヤマ・アズマが久々に物質に触れる感覚を味わった時には、既にニクスバーンのコックピットからは夕焼けの空が見えていた。


フェニックスモードに変形したニクスバーンは夕日に機体を輝かせながら、廃墟と化した東京の上空を飛んでいる。

寝起きのようなぼんやりした感覚から、今まで何があったのかを思い出そうとしていると。



ぽふん



また、久々に味わう感覚が高等部に。

その、柔らかくも暖かい感覚に振り向くと、そこにはニクスバーンのコックピットシートに座り、アズマを後ろから抱いたスカーレットの姿があった。



「………おかえり、アズマ君」

「………ただいま、スカーレットさん」



はみだしテイカーズが守った平和は、茜色の夕日の中に輝いていた。

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