第16話
炉心の設置。
ニクスバーンの固定。
そして、スカーレットとテレパシー装置の接続が完了した。
プラン・ムラクモ、準備完了である。
「作戦準備完了!」
「よし!総員安全圏まで下がれ!」
総指揮を任されたトクベの指令により、作業員達が原子炉建屋内から撤退してゆく。
増設されたデッキの上、鎮座するニクスバーンの前にまるで巫女か生贄がごとく立つ、ヘッドギアをつけたスカーレットを残して。
『これから魔力の奔流が起きる、万一の時の為に
「オッケー、トクベさん」
監視ルームから、キンノスケと共に状況を見守るトクベからの通信を聞き、スカーレットは静かにDフォンに手を翳す。
その冒険者の証であり、日本においては
そうだ。
いつもこうしてきた、そして勝ってきた。
だから、今回もきっとハッピーエンドを勝ち取れるバズだ。
そう信じて。
『
光と共に、スカーレットは変わる。
………………
スカーレット、が
では、今回は最終章なので特別に、スカーレットの装着プロセスをスローでもう一同見てみよう。
『
Dフォンの装備展開システムが発動すると同時に、スカーレットの周囲に光が発生。
光の中で、スカーレットは変わる。
まず、彼女を纏っていた衣服が燃えるように弾け飛び、そのチョコレート色の肌と、上から95,54,85の身体が露になる。
が、衣服は実際に燃えたのではなく、データ化されてDフォンに収納されただけだ。
そして新たに、Dフォンに収納されていた彼女の
95cmのバストを、エナメルの質感を持つビキニかブラジャーのような服が。
85cmのヒップを、これまたガーターベルトのついたパンティのようなパンツが、各々覆う。
腕には
脚にはブーツ。
頭には悪魔のような羽飾り。
右肩にドラゴンの頭を模した装甲を装着。
最後に、手にしていた剣のパーツが、排熱の為に変形。
その「炎剣イフリート」としての姿を露にし、彼女の「変身」が完了した。
………………
頭、デビルクラウン。
胴、サキュバスボンテージ。
腕、火竜のガントレット。
肩、火竜の肩甲。
足、女王様のブーツ。
エナメル質感の胸当てがただでさえ大きい95cmの巨乳を強調し、パンツに食い込む尻肉は小麦色の健康的なエロスを演出する。
テイカーとしての………端から見れば露出狂か原作愛のないコスプレイヤーにしか見えない、スカーレットの姿。
しかし、その肌の露出と下品さもひっくるめて、この姿こそがスカーレットの勲章であり、誇りなのだ。
「………初めてください!」
『よし、プラン・ムラクモ、作戦開始!!』
ゴウン、ゴウン、ゴウン。
魔力炉心が起動し、放出された魔力は白い光の渦となり、原子炉建屋に上昇気流が発生する。
髪を掻き上げる風圧と、肌にピリつく魔力の感覚をその身で感じながら、スカーレットはヘッドギアに設けられたスイッチを起動。
思考を、眼前のニクスバーンに、その中に眠るアズマに集中する。
「魔力数値上昇、40%、50、60、70………」
魔力はどんどん上がってゆく。
それが、80%に達しようとした、その時。
「………ッ!!」
突如、システムにエラーが走る。
緊急事態を知らせる警報が響き、サイレンとランプが監視ルームを染め上げた。
「どうした?!」
「魔力数値急上昇!こちらから制御できません!!」
「なんだと………!?」
制御ルームから操作していたハズの魔力炉心が、制御を受け付けなくなり、放出される魔力が急上昇してゆく。
そう、暴走である。
「………ニクスバーンだ」
「何ッ?!」
「間違いねぇ!ニクスバーンが炉心を操ってやがるんだ!!」
キンノスケのこの時の読みは、論理的な物ではなく技術者としての感を頼りにした物だ。
しかし、ニクスバーンを飲み込んだ魔力が、無属性を表す白から火属性を表す赤へと変色した様を見ると、それが正しいと嫌でも解る。
やがて渦巻く魔力は、徐々に固まり、人の形へとなってゆく。
それはまさに、あの時ロックキングの炎に飲まれたニクスバーンの姿と被って見えた。
だが、決定的に違う事が一つある。
その先が無いのだ。
炎の巨人が、ニクスバーンV3の姿へと変化する事はなく、未だ不定形でなんとかヒトガタを保っている巨人の姿のまま、原子炉建屋の中に鎮座している。
ニクスバーンは、未だ不完全。
何が足りない?そう思うトクベだが、人としての常識が思考を後回しにする。
『スカーレット君!応答しろスカーレット君!!』
さっきから呼びかけているのに、スカーレットが答えない。
監視ルームには、デッキの上で巨人と向き合うスカーレットの姿が見える。
しかし彼女は、驚く様子も見せずに、ただじっと巨人を見つめている。
………まさか、思念が魔力の奔流に飲まれたのか?
そんな最悪の展開を予想するトクベ。
しかし、そんなトクベ達を他所に、スカーレットのプラン・ムラクモは着地と進行していた。
「………アズマくん」
ヘッドギアは正常に稼働している。
今、スカーレットの思念は魔力と脳波を通じて、眼前の炎の巨人とシンクロしていた。
今なら解る。
アキヤマ・アズマの事が、手に取るように。
確かに、不憫な幼少故の母性を求める甘えの感情や、思春期の男子が故の「大人の女の身体」に欲情する性欲といった、邪な感情もあった。
だが、それ以外の感情も十分にあった。
「………なんだ、両思いだったんじゃん」
世の中、男が女に安らぎを求める感情を「甘えるな、私はお前のママじゃない」と吐き捨てるようになって久しい。
けれども、スカーレットは思うのだ。
そういった、世間の空気では悪とされる欲望を含めた様々な感情を、精神病とも言えるドロドロした欲求を含めた感情を、古来より人は「恋」と呼んできたのではないか?と。
何より、歪んだ愛欲を向けているのはスカーレットもであり、そういう所はお互い様である。
『………スカーレットさん』
目の前の巨人が、その中に一人取り残された
ならば、スカーレットがやる事は一つ。
保護者としてでもなく、模範的な大人としてでもなく、恋人として。
「………おいで、アズマくん」
柔らかな笑みと共に、そっと両手を広げる。
魔力で形作られた幼き巨人は、その母親のごとき愛の海に飛び込むように、スカーレットに向けて倒れかかった。
「魔力値測定不能!!魔力炉心、メルトダウンします!!」
「総員退避ィィィーーっっっ!!!」
もはや、トクベ達にできる事はない。
魔力は増大を続け、スカーレットをも飲み込んだ炎の巨人は、膨れ上がるように大きくなってゆく。
この場に留まり続ければ危ないのは、誰の目にも見て明らかだ。
あのバカップルに巻き込まれて死ぬのは御免だと、施設にいた職員達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出してゆく。
トクベ達がようやく外に出た時には、ニクスバーンを格納した原子炉建屋から魔力の光が外に漏れ出ているのが見えた。
あの中にどれだけの魔力が渦巻いているのか。
正確な数値は解らないが、ロックキングの吐く炎などゆうに超えているであろう事は余裕で解る。
………どごおぉおおおん!!!
やがて、膨らむ魔力に耐えられなくなるように、建屋は吹き飛んだ。
トクベ達が爆風に身をかがめ、ジローが倒れて尻餅をつく様を他所に、赤い火の玉のような膨大な魔力の塊が、空の彼方へと真っ直ぐ飛んでいった。
取り残されたGILD一同は、その非現実の極みともいえる光景を前に、ただ呆然と立ちすくんでいた。
「………流石にやりすぎだ、勘当されるかもよ、スズカ」
トクベが、皮肉るように問うた。
「でもこれで日本は救われるし………その時はあなたが貰ってくれるんでしょ?センパイ?」
皮肉り返すように、スズカは笑った。
プラン・ムラクモ、
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