第13話
オロチ出現から6日が過ぎた。
海上自衛隊による必死の捜索にも関わらず、オロチの行方は依然として解らない。
愚かな政治家が「これ以上の捜索は税金の無駄」「オロチをダシにして戦力増強をしようとしている」と言い出し、
鎌倉が壊滅的打撃を受け、復興も始まったばかりだというのに「オロチは陰謀だ」「政府が国民を騙している」と宣う
まあ、とどのつまり「いつものパターン」である。
二度の震災と世界的パンデミックを経ても、この国の民は相も変わらず愚かなままであった。
………そして、そんな愚民に憂さ晴らしの為の罵声を浴びせられながらも、彼等を守るためにオロチに立ち向かう者達がいた。
「実戦経験が無いのが自慢だったんだがな………」
この妙齢の男は「
海上自衛隊所属の一等海佐。
おきの型護衛艦一番艦「おきの」の艦長であり、現在オロチの捜索・及び警戒任務に当たっている海上自衛隊第三艦隊の総指揮を任されている。
「艦長、相手はモンスターです、この場合はノーカウントというやつです」
「そういう物なのか?」
「はい、相手が人でないなら気にする必要はないかと」
「そんなものかぁ………」
気負うキタヤマを励ますのは、副官である「
若いが、何かと心労がちな黒斗を支えるよき右腕だ。
………ここで彼等の搭乗艦であり、現在三隻で東京湾の警戒任務に当たっているイージス艦「おきの型」について解説しよう。
これは海自初のイージスシステム搭載艦である「こんごう型」の後継艦として建造された艦であり、動力を魔力炉心に置き換え、主砲として
対ドラゴン用に設計された特殊ミサイル・ドラゴンスレイヤーを搭載している。
国内外からは自衛隊が持つには過剰戦力であると批判があったが、ハワイや韓国等の海に面した諸外国がクラーケン等の海棲モンスターの被害に逢っている事を理由に右派が配備を強硬。
が、日本はモンスター被害が少なく、無用の長物として批判の対象になっていた悲運の艦である。
………しかしこの艦が何かときな臭いアジアにおいて、諸外国への威嚇としても役立っている事を考えると、全く無駄だった訳ではないと言えるだろう。
「きっと、今頃「東京湾を封鎖して自由な外交を阻害する自衛隊への市民の怒り」とか特集組まれてるんだろうな………」
「艦長、その内容昨日のテレビでやってました」
「やったんだ………」
現在、キタヤマとミナミの乗る一番艦・おきのに続き、二番艦「きたはら」、三番艦「きりゅういん」の三隻体制で東京湾の警戒に当たっている。
日本の心臓部たる東京を守るのだから、このレベルの戦力の投入は当然だろう。
しかしキタヤマには、東京湾の港でこちらにカメラを向けているテレビ局のカメラが、きっといつものように自分達を「税金の無駄」として糾弾していると思うと、気が重くなった。
「………はあ」
彼も自衛官の端くれであり、世間から叩かれる事には慣れたつもりだったのだが、やはりため息が出てしまう。
胃薬の数を増やそうかとキタヤマが考えていた、その時。
「ソナーに接近する影あり!距離30!」
「大きさ、約50m!!」
オペレーターが叫んだ。
おきののソナーには、東京湾に迫ってくる影がはっきりと映っていた。
ソナー音はせず、動きも不規則である事から、何らかの海棲モンスターと考えられる。
そしてこの状況で、こんな事態が起きたのなら………。
「まさかオロチか………迎撃準備!」
「了解!迎撃準備!」
「ドラゴンスレイヤー、1番~3番発射準備!」
「目標、左舷潜航体!」
オロチの再来。
それを想像するのが普通。
推定される大きさは50m前後と、鎌倉に現れた際のデータと一致する。
キタヤマの号令と共に艦隊は迎撃体制に移行。
三隻に搭載されたMLRSが起動し、迫る目標に照準を合わせる。
「目標浮上を確認!」
「海上に出ます!」
同時に、海中を進んでいた「何か」も、海から顔を出そうとしていた。
さあ来いオロチ。
そう、迫る相手を睨むキタヤマだったが。
「………オロチじゃない!?」
飛沫をあげて海上に現れたのは、オロチではなかった。
パオパオォーーーーッ!!
象のような咆哮をあげながら海から顔を出したのは、長い
オロチとは似ても似つかない、異形ではあるが現実的な外見のそれは。
「シーギラスだ」
「知っているのですか?艦長」
「ああ………小さい頃モンスター図鑑で見た」
あのモンスターは、俗称を「シーギラス」と言う。
正式名称は「シーサーペント」。
あけぼの市に出現したロックキングと同じく、ドラゴンに分類されるモンスターだ。
あれがその時と同一個体かは解らないし、目標であるオロチとも違う。
だがどの道、上陸は防がなくてはならない。
「まあいい、ドラゴンスレイヤー、発射準備!」
なら、自衛隊としてやる事は変わらない。
砲主が、ドラゴンスレイヤーの発射ボタンを押そうとした、その時。
「待ってください!」
「今度は何だ!?」
再び、オペレーターが叫んだ。
こんな時にまだ何か来るのかと、少しの苛立ちを見せるミナミに告げられたのは、より恐ろしい返答であった。
「新たな機影を確認!その大きさ、およそ100m!」
「100ゥ!?!?」
何かの間違いではと思ったが、おきののソナーは、進撃するシーギラスに深海から迫る、その100mの巨大な影を確かに捉えていた。
………よく見れば、シーギラスは身体のあちこちから出血しており、特徴的な角も片方が折れていた。
そして今さら、キタヤマは気づいた。
シーギラスは、迷い混んだのではない。
「アレ」から逃げていたのだ、と。
「アンノウン、浮上します!!」
シーギラスの奮闘空しく、彼の真下の海面が盛り上がり、その大いなる巨神は、白昼の東京湾にその恐るべき姿を現した。
………………
「………ん」
トクベは、身体中に痛さを感じながら目を覚ました。
夜中まで続いた市民デモにノイローゼ気味になり、極力騒音の届かない場所で眠りたくなり、かつて執務室として使われていた場所で眠ったのだ。
かなり疲れていた為に、寝袋も持たずに床で寝てしまった。
その欠陥全身バキバキである。
だが、休んではいられない。
今日は、プラン・ムラクモの為の魔力炉心が届く予定の日。
一旦離れていたスズカも再合流する予定となっている。
背伸びをし、バキバキと鳴る各間接部を酷使しながら、とりあえず皆の所に戻って朝食のパンでも食べよう。
そう考えつつ、トクベが立ち上がったのと同時に。
「トクベさん大変です!!」
部屋の扉が勢いよく開き、血相を変えたジローが飛び込んできた。
何事かと驚くトクベであったが、次の瞬間それは絶望に変わる事になる。
「東京湾にオロチ出現!再上陸します!!」
トクベは、運命を呪った。
オロチの再上陸、それも東京にという最悪に最悪を掛け合わせた悪夢のような状況が、発生してしまったのだから。
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