第10話
Gigantic unkonwn monster.
Informative.
Linear
Defense.
巨大不明モンスターに対し、解析と分析を行う、最後の防衛線。
その略称が、スズカ率いるこの組織の名前の由来となっている。
滅茶苦茶な英語なのはアメリカ人のスカーレットからすれば丸わかりだが、日本人がそういうセンスの持ち主なのは昔から知っていたので、敢えて黙っていた。
彼等は、例の巨大モンスターに対抗する為、スズカの呼び掛けで集まった非公式の秘密組織であり、
悪い言い方をすれば、勝ち組上級国民の血族であるスズカが、金と権力とツテに物を言わせてかき集めた、いわば私兵組織だ。
と、言うのも、日本の政界では何度も形式的で意味のない会議を重ねなくてはならず、
名指しは避けるが震災でボロボロの状態でも増税をやってのけた金の亡者のような某省庁が、国家予算という名のサイフの紐を握っている。
更には、非常事態故に集団ヒステリーを起こし、何をやっても発狂したように叩いてくる
当然ながら、そんな状態でやるなら巨大モンスター対策は遅々として進まないだろう。
また対象が生きている事から、対策が出来上がるより先に巨大モンスターが、日本もしくは諸外国のどこかに上陸して、被害を出さないとは言い切れない。
ぶっちゃけた話、日本政府は当てにならないのだ。
その事は官僚として日本の政界に関わり続けたスズカも、身を持ってよく理解している。
そこで、スズカは政府機関とは別に、巨大モンスターへの対抗をやる為の独自の組織を立ち上げた。
それがこの、GILDなのだ。
当然、予算や人員の問題はあった。
だが、解決する手立てが降って沸いてきた。
ニクスバーンが、あの巨大モンスターと戦ったからだ。
あれが、はみだしテイカーズの故人所有物という事。
そして何より、その片割れであるアズマがニクスバーンの内部に取り込まれているという状況から「スカーレットの手助けをする」という名目ができた。
それにより、スカーレットの古巣であるザ・ブレイブ&アイアンステーク社や、かつてはみだしテイカーズに助けられた米雨コンツェルン。
そしてニクスバーンを産み出し、今のニクスバーンV3の誕生に関する貴重なデータを持つゴールド重工を協力者として募る事が出来た。
………まあ、故に公に研究者やプロフェッショナルと呼ばれているような「ちゃんとした人達」は集まらなかったので、
結果出来たのがこの、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児、etcetc………といった、何の因果かアズマやスカーレットと同じ、日本では「はみだし者」と呼ばれる、もしくはされるような人達が故に、少々の不安はあった。
だが、上記の某省庁の
「あの巨大モンスター………政府は先ほど、「オロチ」と呼ぶ事を決定した、我々もそれに従う事にする」
メンバーに向けて、トクベがあの「オロチ」と名付けられた、未知の巨大モンスターのレクチャーをしている。
日本に初めて現れた新種であり、かつニクスバーンを撃破する程の力を持つが故に、日本神話における邪悪な異形の中で最大の認知度と強さを誇るヤマタノオロチから名付けられた。
「ザ・ブレイブから得たデータを照らし合わせ、コンピュータを用いたシミュレーションの結果だが………奴は、
それを聞いた瞬間、主にザ・ブレイブのメンバーを中心とした人々がざわめき立つ。
スティーヴンとドニー、そしてスカーレットも、その名を聞いて目を見開いた。
魔王級生物。
それはモンスターを中心とする生態系の頂点に立つ、魔力やモンスターの故郷たる異世界に存在する、神のごときモンスター。
それまではモンスター生態学の仮説によってしか存在が語られなかったが、とうとう現れたという事だ。
「神沢ロックホールで採取した卵の殻、そして側にあった骨格を調べた結果、オロチと遺伝子情報が一致した………つまり奴はここで生まれ、その力を持ってして周囲の生態系を変え、ある程度まで成長してから海に出た」
「………私達の足元に居たってワケね」
神沢ロックホール。
アズマとの思い出の詰まったダンジョンの奥深くに、あのオロチがいた。
そう思うと、スカーレットは因果を感じるというか、微妙な気持ちになる。
と同時に、本来はいないハズのあの大型スケルトンの存在も納得できた。
オロチの放つ強力な魔力による、環境の改編。
あれもきっと、オロチの魔力を浴びた事による突然変異だったのだ。
「そしてオロチは、周りの状況に合わせてその姿を変える、成長や進化のように、様々な形態にな」
これは全員が見たのでよく解る。
巨大な蛭かオタマジャクシのような「第一形態」の状態で陸に上がってきたオロチは、陸の活動に適応する為にゴリラと恐竜の合の子のような「第二形態」へと変貌してみせた。
しかも、上陸してから一時間足らずという短時間で。
あの時吐いた魔力ビームも、ニクスバーンとの戦闘中に身体を作り替えた為に射てたのだろう。
………つまり、だ。
「次に現れる時は………もっと強くなってる可能性がある、って事か」
「その通りです、ミスター・スティーヴン」
ただでさえニクスバーンを大破に追い込んだオロチが、更に強くなってまた現れる。
そうなればどうなるか………全員が理解していたが、言葉にする所か、想像すら憚られた。
「そして我々は、このオロチに対抗する為に二つのプランを進める」
だが人類も、魔王降臨の刻を座して待ちはしない。
その為の彼等GILDである。
彼等が中心となり、オロチ撃滅の為の二つの計画を進めていた。
「一つは、プラン・ヤシオリ」
一つは、「プラン・ヤシオリ」。
ヤマタノオロチを酔わせて眠らせた酒の名前のついたこの作戦は、オロチの最大の武器である急激な遺伝子の変化に目をつけた物。
細胞分裂・変化を抑制し、なおかつ死滅させる為の薬を開発し、ミサイル等に込めてオロチに打ち込む作戦だ。
幸い、オロチの細胞のサンプルはここにある。
これをアイアンステーク社のお抱えの科学者達に解析させ、完成した物を米雨コンツェルンの持つ施設で増産させる手筈で、作戦は進んでいる。
「そしてもう一つ、プラン・ムラクモだ」
もう一つは、「ムラクモ計画」。
こちらは、ヤマタノオロチの首を切り落とした剣・アメノムラクモから名前が取られた作戦だ。
上記のヤシオリ計画が間に合わなかった、もしくは失敗した場合に備えた、いわゆるプランB。
して、その内容は………。
「結論から言うと………ニクスバーンを復活させる作戦だ」
「!!」
スカーレットが目を見開いた。
トクベは話を続ける。
調査の結果、結晶化したニクスバーンは一種の仮死状態であり、完全に停止したワケではない事が解った。
魔力は機体に流れており、少しずつであるが機体を再生させている。
何より、その内部にアズマの固有魔力反応があった。
「つまり………アズマ君は生きてるのね!?」
「そう言ったじゃないスカーレット、それと話の途中よ、まずは貴女が落ち着きなさい」
パルサに嗜められ、アズマの生存に喜び立ち上がったスカーレットは、気まずそうに着席した。
その後も、トクベの説明は続く。
時間が経てばいずれニクスバーンは復活するし、アズマも帰ってくる確率は高い。
しかしそれを待っていたのでは、年単位の時間が必要になり、それまでにオロチが再来する可能性もある。
何より、ニクスバーンはオロチに負けている為、そのまま復活させても意味がない。
そこで、ニクスバーンが今のV3になった理由が鍵になる。
あの時ニクスバーンは、ロックキングの吐き出す魔力の炎に包まれて変異した。
つまり、同じ状況=高濃度の魔力の中に浸す事で、再生を早めつつ、より強力な状態で復活させられると考えたのだ。
現在その魔力を発生させる為の、大都市の魔力発電所で使われるタイプの高出力魔力炉心が、アイアンステーク社を経由して日本に運ばれている。
原発跡を拠点にしたのも、その為だ。
「だがこの計画には、ある危険性も存在する」
無論、金銭以外ノーリスクハイリターンという、虫のいい話はない。
そもそも魔力に浸せばニクスバーンがパワーアップして復活するというのも、事象もデータも少ない机上の空論である。
何より、今のアズマはいわばニクスバーンと一つに溶け合いつつ状態であり、それを更に魔力に浸せば、
ニクスバーンを復活させたはいいが、肝心のアズマが魔力の中に溶けて消えてしまう………なんて事にもなりかねないのだ。
「じゃあアズマくんは………!」
「落ち着いてくれスカーレット女史、対策はある」
だが、そこはGILD。
ちゃんと対策は考えてある。
「それは………貴女です」
「………へ?」
びしっ、と指を指すトクベを前に、スカーレットは固まる。
そして理解した。
自分がGILDに呼ばれた真の理由を。
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