第6話

………ヒィィィン


空を切る音と共に、鎌倉の街の空にそれは現れる。

巨大モンスターは、そのボコボコの頭をぐらりと動かして空を見上げた。



「おい、あれ………」



巨大モンスターから逃げていた避難民も、その姿を見た。

それは、本来なら1999年アンゴルモア・ショック以前のアニメにしか出てこないような荒唐無稽な異形であると同時に、冒険者テイカーに厳しい日本であるにも関わらず最も知られた冒険者テイカーの象徴。


そして………この状況をどうにかしてくれるであろう、一抹の希望。



「ニクスバーンだ!!」



中学生ほどの少年が叫んだ。

ニクスバーン。

一月ほど前に、あけぼの市に現れたロックキングを撃破した事を皮切りに、稲荷市でのゾンビ騒ぎを静め、ネバーランドでは結果的とはいえモリタの悪行を白日に晒した。


はみだしテイカーズの片割れ、アキヤマ・アズマの駆る、三次元に姿を現したスーパーロボット。

これはロボットアニメではない、目の前で起きている本当の事なのだ。



「姿が違う………進化したのか?」



コックピットから地上を見下ろすアズマは、変貌した巨大モンスターを前に冷や汗を流した。

進行方向の逆に散乱している皮から、あれが上陸した巨大モンスターと同一である事は解る。



「それにドラゴン並み………用心しないと」



しかも、体高も60m近くまで巨大化している。

これはドラゴンよりも少し大きく、その古い特撮映画の怪獣を思わせる風貌も相まって、強い威圧感を感じさせる。



しばらく巨大モンスターの周りを見張るように巡回していたニクスバーンが、フェニックスモードからロボットモードに戻り、大地に降り立つ。


ズゥン!!


轟音と共に、地響きと土煙が舞う。

ニクスバーンが拳を構え、巨大モンスターと退治する。



キュオォーーーロロロロッ!!キュオォーーーロロロロッ!!



巨大モンスターが、威嚇の意思を込めて二度吠える。

アズマは周囲を確認し、街の住人を戦いに巻き込む危険性がないと解ると、戦闘を開始した。



「フェザーミサイルッッ!!」



ニクスバーンの両肩が展開。

そこにから、鳥類の羽を模したような形状のミサイル・フェザーミサイルが次々と射出される。

それは空に煙の軌跡を描いてヒュルルルと音を立て、巨大モンスターに向けて、猛スピードで飛来する。

そして。



どごぉぉぉん!!



着弾。

巨大モンスターが回避する素振りすら見せなかった事もあり、フェザーミサイルはその全てが巨大モンスターに命中した。

そのキノコ雲のような頭に、次々と起きる爆発。


だが。



「………効かない、か」



爆発が晴れた時、そこにあったのは無傷の巨大モンスター。

経験上、これぐらいは予測できたアズマであったが、やはり面食らう。

確かにフェザーミサイルはニクスバーンの武装の中では最弱ではあるが、それでも戦闘機のミサイル並の威力はあるのだ。



「だったら、次はこれだ!!」



とはいえ、驚いている暇はない。

通常火器が効かないなんて、ドラゴン級のモンスターにはよくある話だ。

遠距離武器が効かないのであれば、次は。



「ニクスカリバーッ!!」



射撃がダメなら近接だ。

ニクスバーンの闘剣・ニクスカリバーを引き抜き、巨大モンスターに斬りかかる。

対する巨大モンスターは、相変わらず微動だにせずそれを待ち受けていた。


呆れ返るほどにどんくさいのか?と、アズマが考える中、ニクスバーンの振り下ろしたニクスカリバーの一刃が、巨大モンスターに直撃する。



ガキンッ!!



巨大モンスターはよろけ、奇妙な音が鳴った。

ガキン、と、まるで金属に金属をぶつけたかのような音が。


ロックキングのような硬質の皮膚や鱗を持つならまだしも、眼前の巨大モンスターの体表は、歩く際に少し揺れた様からも解るよう、どう見ても柔らかい体表である。

それで、そんな音が鳴るのはおかしい。



「(どうなっている………?まるで外見テクスチャと中身がバグったゲームの敵キャラを殴ってる気分だ………ッ!)」



何度も何度もニクスカリバーを叩きつけ続けるアズマだが、その全てが巨大モンスターの体表を切り裂く事はなかった。

何度切りつけようと肉片が欠ける事すらなく、ただ巨大モンスターが仰け反るだけだ。


相手は、痛みに苦しむ素振りすら見せない………つまり、痛がってすらいない。

アズマはまるで、延々とサンドバッグを殴っているような感覚を覚える。



「このぉっ!!」



これでは拉致があかない。

と、大技を出すためにアズマがニクスバーンに距離を取らせようとした、その時。


ぐわあっ!!

と、攻撃を受け続けていた巨大モンスターが、ついに動いた。

そのキノコ雲のような、はたまたティラノサウルスを連想させる巨大な頭。

そこにある巨大な口を開き、ニクスバーンの腕に噛みついた。



「うわあ………ッ?!」



見れば、ニクスバーンに噛みついた巨大モンスターの口。

乳児のように何もなかったハズのそこから、なんとニョキニョキと牙が生え、ニクスバーンの装甲に食い込む。



「成長している、のか………!?」



驚くアズマを前に、モンスターは次の手に出た。

その強靭な腕で、ニクスバーンに掴みかかったのだ。

たんに捕まえるというよりは、まるでニクスバーンの腕を引っ張り、引っこ抜こうとしているようにも見えた。


間違いない、こいつには知性がある。

それに従い、ニクスバーンにダメージを与えようとしている。



「この、離れろッ!」



コックピットが、ニクスバーンに深刻なダメージが与えられている事を示す、赤いランプに染まる。

当然だ、腕を引き抜こうとしているのだから。


ミシミシと装甲が歪み、間接が悲鳴を上げてスパークする。

火花が散り、警告音が響く中、アズマは巨大モンスターを引き離そうと、必死にニクスバーンの拳で殴り付けた。

しかし巨大モンスターは微動だにせず、万力のようにニクスバーンの腕を締め上げる。


そして、ついに。




………グシャアアッ




潰れた。

引っこ抜けた。


片腕の付け根から火花が散り、ニクスバーンの腕が引き千切られてしまった。



「うわああぁぁあ!!!!」



反動で吹き飛び、地面に叩きつけられるニクスバーン。

その、鮮血がごとく火花が飛び散る中、巨大モンスターは噛み潰したニクスバーンの片腕を「なんだこれ食べられないのかよ」と言うがごとく、吐き捨てるように地面に叩きつける。


ずしゃあっ!と、唾液にまみれて潰れた腕が、付近のビルに突っ込んだ。

これで、スレイプニールアローは使えない。



『警告、腕部破損、警告、腕部破損、警告………』

「わかってるよ!!」



警告ランプで血のように真っ赤に染まるコックピットで、苛立ち叫ぶアズマ。

こんな事は今までなかった。

明確に「負けた」と考えているブラックニクスバーンでさえ、ここまでのダメージを与えてはいない。


アズマは確信する。

こいつは、今まで戦ったどの相手よりも強いと。

こんな危険な存在を、このままにはしておけないと。



「こいつを放っては………おけないんだぁっ!!」



スレイプニールアローは封じられた。

だが、ニクスバーンの持つ最大の武器は、まだ使える。

片腕と引き換えに自由になったニクスバーンは、そのまま空へと飛び上がる。


ニクスバーンの腰が180度回転する。

残った片方の脚部が体育座りのように折り畳まれた。


次に、背中の折り畳まれた翼が開く。

翼はそのものがバーニアになっているらしく、翼の隙間からジェットが噴射される。


腕が前に折り畳まれ、最後に背中の鳥の頭のようなパーツが起き上がり、頭に被さる。

頭部を軸に回転し、鳥の頭が前を向き、変形が完了した。



「チェンジ!フェニックスモード!!」



再びフェニックスモードに変形するニクスバーン。

巨大モンスターの周囲を旋回するように飛ぶニクスバーンの機体は、まるで大気圏突入により熱を帯び燃える流星がごとく、炎のようなオーラに包まれる。

今までで一番の、最大量の火属性の魔力を身に纏っているのだ。

あの巨大モンスターを、確実に仕留める為に。



「フェニックス………ストライクッッッ!!!」



これが、アズマの切れる最善にして最高の選択肢カード

不死鳥となったニクスバーンが、最大出力のフェニックスストライクを巨大モンスターに向けて放った。

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