第6話 うまい話 

 騒ぎを起こしたパイセンが職場に復帰してくるまで1週間。

 それが過ぎても、パイセンはさらに1週間有休を取っていた。


 その間、残業は課長とかが手伝ってくれるようになり、その後派遣会社から人員がきたので残業をしなくてすむようになっていた。


 なんとなくだが、梨香さんが手を回してくれた感がある。



◇◇◇



 フジヤマシステムズはなんと10連騰し、僕が売った時には34782円まで上がっていた。

 他の国に技術に遅れを取っていると言われ続けて久しいところにこのニュースはかなり朗報だったらしい。


 今僕の証券口座の残高は1200万円ほどある。

 数字が光り始めてあっという間に1000万円を手にしてしまった。


 うーん、株ってすごいな。




◇◇◇




 それから、しばらくはパイセンもおとなしくしていたが、同時に僕がチェックしている株価の数字が光らなかった。


 ということは、何もするな、ってことだろう。


 お金はあるから何か適当な株でも買っておこうかな、と思う時がある。

 でも、思いつきで売買して失敗しているパイセンのことを思うと、ジッとしているのがベストなんだろうと思うことにしている。




◇◇◇




 2週間ほどして次に数字が光ったのは、東証プライムのクレメンスという誰でも知ってる総合商社の株式だった。

 今の株価は120000。

 だいたい株価が上がりすぎると、買ってもらいやすくなるように株式分割して値を下げるらしいが、このクレメンスはそういうことをしない。

 『孤高の商社株』とか言われている。



 今回も数字が光ったが、前までとは違って今度は株価が下がるイメージが入ってきた。

 ま、上がろうが下がろうが僕のイメージに従うだけだ。

 信用売りで100株成り行き注文。

 1200万円使うことになる。



 あと、梨香さんには僕の体験を話している。彼女だしね。

 不審がられても仕方がないと思いつつ話したが、なんとなく金持ちがわかるという彼女には、特におかしいと思われなかった。


 それどころか、『次のチャンスがあったら私にも一枚噛ませて』と言われていたので、今回のクレメンスについても話をした。

 彼女も1000株売るそうだ。



◇◇◇



 久しぶりに注文した次の日、パイセンが意気揚々と話しかけてきた。


「よう、いい話があるぜ。お前も乗らねえか?」


 とうとう詐欺師に転職したのだろうか。

 そんな話があるなら自分一人でやりゃいいのに。


「うーん、やめときます」


「まあそういうなよ。実はな、極秘情報を手に入れたんだ。それを生かすために親戚とか回って資金をかき集めてきたんだ」


「はあ」


「俺の大学時代の同級生にな、クレメンスに勤めてるやつがいるんだよ」


 あ。クレメンス。


「そいつが言うにはな、近々アメリカの商社を吸収合併するんだそうだ。エンリンっていうアメリカ一の商社だが。そうなると、クレメンスは世界一の商社だ」


 ってことは、株価が上がる前に買っておいて高値で売り抜けよう、って算段か。

 うまくいくといいね。


「俺は3000万集めた。お前のしょぼい出資でも、売却できたら分け前をくれてやるよ。信用買いも利用すれば9000万資金があることになる。利益は3倍だ! どうだ、悪い話じゃねえだろ?」



「先輩、9000万円なんて僕には大きすぎます」


「ちっ、腰抜けが! この間の詫びにと思っていい話持ってきてやったのに! あとでやっぱり参加させて下さいっつても入れてやんねえからな」

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