第4話 空売り
「なんだよあのSE、もっとわかりやすく説明しろってんだ。ていうか、もっと簡単で処理が早くてボタン一つで仕事が終わるシステム作れよ」
また始まった。
先輩がフジヤマのSEに電話したあとは必ずこうだ。
「はあ、そうっすね」
僕は気のない返事をするが、先輩の顔がニヤける。
「おい佐久間、フジヤマシステムズって東証プライムだったよな。いま株価いくらだ?」
「4000円前後だった気がしますけど……」
「下がる気がしねえか?」
「そんな未来のこと分かりませんよ……」
「いや、きっと下がるはずだ! ヘボSEだらけだからな。そうと決まれば信用売りしてやる! 100株で勘弁してやるけどな!」
そう言って日下田先輩はまたスマホから注文している。
「先輩、やめといた方がいいんじゃないすか?」
「ああ、なんだって?」
「だってこの前のマクシームのとき『なんで俺を止めなかったんだ』、って言ったじゃないですか」
「佐久間ァ、俺が儲かるのを邪魔すんのかよ」
「僕は一応止めましたからね」
◇◇◇
その日の夜、証券口座を確認すると、3982円で約定。
現在値は4882円。
やはりストップ高。
先輩がいくらで空売りしたかは知らないが、一株当たり700〜800円くらいは損してそうだ。
フジヤマシステムズが上がったのは、
『フジヤマシステムズ、長年取り組んでいたスパコンの開発にとうとう成功』
というニュースが流れたからだ。
それまでトップだったアメリカ産のスパコンの20倍の精度、処理能力を誇るらしい。
これで例えば、天気予報の精度向上も見込めると。
専門家によると、バイオテクノロジーの進歩なども見込まれるとか。
開発陣はT大卒の選りすぐりらしい。
先輩とは大違いだ。
あ、また先輩の奢れコールがありそうだ。
休もうかな。
◇◇◇
「あー、なんであんなヘボSEの会社の株価が上がるんだよ! スパコンの開発成功なんて嘘だろ!」
「…………」
次の日、出勤したらこれだ。
黙ってやり過ごそう。
「たった100株だから致命傷じゃないけどさ。佐久間も思うだろ? なんであんな会社の株価が上がるのかってよう」
「どうしてなんでしょうねえ」
「まあ今日中に下がるだろ、みんなの目が覚めてなあ!」
あんたの目が曇ってんだよ。
◇◇◇
この日の夜、フジヤマシステムズはさらにストップ高を記録し、株価は5782円まで上昇。
さらにこの日、合わせたかのようにフジヤマシステムズはかねてからの業績好調を理由に増配を公表。
ストップ高がさらに続くだろうと胡散臭そうな株式評論家は言う。
もちろん、僕が記録している数字は光っている。
明日休もうかな。
胃が痛くなってきた。
先輩今度はなんて言ってくるんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます