第3話 仕事してください 

 またなんか先輩から言われるかなー、って思ったけど、先輩から特に何も言われなかった。

 もしかしてうまく売り逃げできたのだろうか。


 その夜のマクシームの株価は、1500円まで下がってた。

 新作スマホゲーの不具合を解消する見込みがまだ立ってないからだ。




◇◇◇




 安心した次の日。



「てめえのせいでマクシーム損したじゃねーか。飲みに行くぞ。もちろんお前の奢りな」


 はあ?


「僕何も言ってませんよね?」


「俺が昼休みにMJ証券のアプリで注文するの見てただろ。なのに止めなかったお前が悪い!」


 えええ。

 ていうか売り逃げできなかったんだ。


「おかげで2400円から1500円まで下がりやがって、三ヶ月分の給料がパァだぜ。スマホゲーの不具合が治ったらまた上がると思って売らずに持ってたのによ。しばらく奢れよ」



◇◇◇



 2日連続で奢らされた。

 3日目も居酒屋の黒木屋に連れて行かれようとしたとき、




「あら、佐久間さん。今日は私と先約がありましたよね」


 社長秘書の梨香さんが思わぬところから助け舟を出してくれた。


「ええ、ああ梨香さん、へへへ、そうだったんですかい。こんなやつよりどうですか、俺がご一緒しますよ」


「すみません日下田さん、佐久間さんの転籍前のことについての話なんですよ」


「そうですか……。その話が終わったら俺といっしょにどうですか? ちょっと儲けたんですよ」


「ごめんなさいね、機会があればよろしくね」



 嘘つけ。

 損したって言ってたじゃねーか。

 ていうか、社長秘書って先輩より絶対金持ちだろうに。


 それはともかく、転籍前のことなんてとっくにケリがついてると思うんだけど、何かあったのだろうか。



「ありがとうございます、梨香さん。正直助かりました。それで、転籍前の話とはなんでしょうか?」


「そんなものないですよ。どうせ無理矢理連れてかれるところだったんでしょう。目に余るからついね」


 見てる人は見ているもんなんだな。


「T大だから採用したのに、あれじゃあね。リストラも考えないといけないかしら」


 先輩、株より仕事に熱中したほうがいいっすよ。


 このあと、せっかくだからということで梨香さんと一緒に夕食した。




 ちなみに、翌日マクシームエンターテイメントはスマホゲーの不具合をようやく直して、いったん1000円まで下がっていた株価は2000円くらいまで戻していた。


 先輩の八つ当たりがあったのは言うまでもない。

 仕事を押し付けられた。

 パワハラじゃね?




◇◇◇




 思わず儲けたので、日曜日に近くのデパートで少しだけお金を下ろして、ボロボロになってた通勤用のカバンを買い替えた。




 特に何もなかった月曜日の夜、いつものように株価をチェックして記録していると、また数字が光った。

 そして、株価が上がるイメージが頭をよぎる。

 

 今度はフジヤマシステムズ株式会社。

 今の株価は4002円。

 なんでこの株をウォッチしてたかというと、会社の経理システムがここのだからだ。

 慣れないうちは何度もフジヤマシステムズのSEに電話して操作方法とかを聞いていた。

 会計制度にも詳しくて僕が教えてもらったくらいだ。



 今度は、証券口座にある全部の資金を使って500株を買いの成行で注文した。

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