第2話 曲がり屋 

「おはようございます」


 今日も仕事。

 当然だが。

 日下田先輩も少し遅れて出勤してきたが、二日酔いのせいかこちらに絡んでくることはなかった。

 ただ、課長は呆れた目で見ていたけど。




 給湯室にコーヒーを入れにいく。


「あら佐久間さん、お疲れ様です」


「あ、梨香さん、どうもお疲れ様です」


 給湯室で会ったのは社長秘書のかすみ梨香りかさんだ。

 たまに会うが、ロングヘアーの美人できさくな人。

 会長の孫娘で社長の娘でもある。

 お、今日は運がいい。

 たまにある癒しの時間だ。



 先輩が定時でさっさと帰ってしまったので、その分の仕事もやっていたら結局帰ってきたのは夜の11時だった。


 んで、今日もいつもの株価チェックだ。

 そういや成行で買い注文出してたマクシームどうなったんだろ。



◇◇◇



 口座を開いてみると、買値は521円。

 現在値が721円でストップ高になってた。

 損益は+10万円だ。

 まさか、昨日のインスピレーションが本当に当たっていたのか?

 


 関連ニュースを見てみると、


『マクシームエンターテイメントの新作スマホゲームがリリース1日目にしてぶっちぎりのセルラン1位』


だという。

 それのせいか。


 期せずして10万円の儲けだ。

 まだ売ってないから実現してないけど。

 とりあえず、マクシームの今日の株価を記録する。

 すると、今日の数字も光っていた。

 それによると、また明日も上がるらしい。


 よし、放置しよう。



◇◇◇



 結局、マクシームは新作スマホゲーのデイリーセルラン1位が続き、株価も4日連続でストップ高となり、なんと2421円まで上がっていた。


 4日目の夜、マクシームの株価を記録すると、今度は数字が光らなかった。

 ……ということはもう上がらないのだろう。

 成行で全株売り注文を出して寝た。


 ちなみに、日中は株価を見ないことにしている。

 会社のパソコンで見ると情報管理室にバレるし、スマホを不自然に見ていると課長に咎められるからだ。




◇◇◇




「よう、マクシームすごい上がってんだろ。新作スマホゲーム人気なんだってな。俺も買おうかと思うんだ。これで俺も金持ちだぜ!」


 翌日の昼休み、日下田先輩が話しかけてくる。


「そうなんですねー」


 と僕は適当に返事を返しておく。

 何か具体的に言うと下がったら僕のせいにされそうだから。


 先輩はスマホからマクシームの買い注文を入れているようだ。

 昨日の夜僕それ売り注文を出したんだけどな。

 言わないけど。



 その日の15時。スマホを見ていた先輩が突然、


「帰る」



 といって有休を使って帰ってしまった。

 残った仕事また僕かよ。

 ていうか、なんとなく先輩が早退した理由が分かってしまった。



◇◇◇



 仕事が終わって帰ってきて、証券口座を見てみる。

 僕の出した売り注文は朝一に2421円で約定していて、利益は+1,210,500円だった。

 1週間もしない内にお金が倍になったよ。

 しかもNISA口座だったから、全額僕の懐に入る。



 で、肝心のマクシームの株価は2022円まで下がっていた。

 関連ニュースを見ると、


『マクシームエンターテイメントの新作スマホゲーム、本日午後に致命的な不具合発生。同社株価は大幅下落』


とあった。


 ああ、午後ってことは、先輩が昼休みに注文した後のことだな。

 運が悪いね。

 ていうか、4日連続上がってなぜ次も上がると思ったんだろう。

 先輩って確か日本一のT大出身だったはずだけど。


 あ、明日はどうせ奢らされるな。

 適当な理由をつけて休もうかな。

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