第11話 駆け込み寺

 ガラクタ屋で安くあつらえた探偵事務所の用具は今にも壊れそうだった。勢いよく座ると二つに折れてしまいそうな大きい亀裂の入った木製の椅子に昨日まで泥道を彷徨いていた猫の寝場所になっていた、獣臭の強いソファ、何十年も前に有名著者が愛用していたという年季の入った机、電気のホヤが蝋燭になっている電気スタンド。探偵事務所自体もほぼ価値がない物件とのこと。



 そんな気の利かない新しいアジトでやる気が抜けていくため息をつくアックス君。そんなアックス君を見てももうなんとも思わなくなった俺。


「依頼は?」とふてくされた態度で聞いてみる俺。

「ある訳ないだろ。」と当然だと言わんばかりの返答をするアックス君、しかし、探偵事務所の外にはキッチリと看板をこしらえている。『迷える仔羊の最後の砦』と、意味がわからない文言だが、一応迷える仔羊は、弱い人や困った人を指すのだ。


「探偵事務所をひらけば仇の情報も首が回らなくなるくらい入ってくると言ったのは貴様だぞ!なんだ、この有様は!」

ホームズとワトソン君のような、俺とアックス君となることを期待していたが、そもそも、探偵としての知名度がないなら当然、依頼を持ってくる人間も皆無であることは仕方がない。それを承知で始めたのだから。

「もっと依頼者が押し寄せてきて、首が回らないという構想を期待していたのだけれど、上手くいかないな。」

あの人が消えて2週間、精神的に尖らせてきたアックス君は、この前まで猫の寝場所になっていた獣臭の強いソファに横になって早くもイビキをかいて寝てしまった。俺も今にも二つに折れそうな椅子で軽く目を閉じて、ひつじを数えた。ひつじが1500匹になったころ、外から人々による足音が近付いてくるのに気付いた。明らかに人の足音の音色が大きすぎることに悪寒を感じた俺は、急いでアックス君を目覚めのビンタで起こしてあげた。

「イッテーだろ!やりやがったな、、」

「それどころじゃないんだよ、外を見てみろ」

「はっ?どうせ…ハッタリだろ、、……ぁ、なん…だよ、あの群衆は……」


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異世界探偵イオリア・ラデック @abi_core

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