第8話拷問

 俺が椅子に手足を縛られてどのくらい経ったのだろう。あの声の男が来て、俺に視界を覆っていた黒い布のようなものを取り上げた。目の前にはたっぷり髭を蓄えた老人が座っていた。


 「起きたかね?君の名前は」


 俺は名前を素直に言っていいものか迷った。


 「俺はナシュリー…だ」


 老人は気に食わないと言った顔で、覆面を取り上げたあの声の男をアックスと呼び、俺の背中に鞭を打つように言った。


 パシンッッ


 「ゔぅぅっ……、なにするんだ」


 「ナシュリー…?ハッハッハ、バカも大概にしてくれ。おまえは誰だ?なんのためにこの街に来た?誰に雇われている?」


 「なんの話だ?俺はナシュリーだと言っている」


 「アックス…」


 パシンッッ


 「あー…ぁぁ…やめてくれ、いったいなんなんだ?」


 老人の顔はますます険しくなる。


 「ほんとうのなまえを言うんだ」


 「ほんとうのなまえを言えばいいんだな?」


 老人は名前にこだわっているみたいだ。どういう拷問だよ。鞭で打たれるシーンなんか映画でよく見るけど、いたいなんてもんじゃないだろコレは。


 「俺のほんとうの名前は、赤浜…」


 パシンッッッ

 パシンッッ


 「うああぁあああ…、ああああぁあ」


 アックスは老人に指示されるより前に俺を鞭で打った、2回も。拷問は効果がないってことを分からせてやりたい。


 「ほほーう、あくまでだんまりを通すとはのぉ〜、敵ながらあっぱれじゃ」


 「ぜんっぜんっ話が見えんのだけども、ご老人。全て話すから鞭を打つのをやめてもらえますか?たぶん俺たち敵じゃないと思うんですよね〜。」


 「ふむ、して?逃げようという腹じゃろ?ほんとうという嘘を話して…、じゃろ?前回もそれで逃げられたばかりじゃからな。信用できん。」


 「じゃあ、そうですねぇ、俺を信用してもらうためです。そこのアックス君を俺の助手にしてもらえませんか?アックス君はケンカ強そうだし、俺のことも守ってくれそうだし。」


 老人は目を瞑って「ふーむ」と考え込んだ。それから数分後、老人は目を見開いて言った。


 「いいじゃろう、しかし裏切ったら即刻アックスの手でおまえを殺させるから、そのつもりでのぉ。」


 アックスは老人に対し、不満げな視線を送る。


 「アックス…、おぬしの気持ちは痛いほど分かるがいまはこの男を信用するほかなかろう。」


 アックスはしぶしぶ頷き、俺を縛っていたロープをほどいた。


 そして俺は老人に進言した。


 「俺がアックス君に呼び止められる前いたのは、ダーラントからまあまあ距離のある街です。俺が歩いてきた方角と思ってもらえればアックス君にはピンとくるんじゃないかな?」


 「おまえがきた方角というと…、以前にわたくしたちが標的を追い詰めた街です。あの時は確か、診療所以外は人が住んでいなくて、診療所を訪ねたらそんな人間見なかったと看護婦が言っていました。」


 「それは報告で聞いたのう、あれはそうじゃなぁ…1ヶ月ほど前の話かのぉ」


 アックスは診療所を訪ねて看護婦を見てると言った。気付かなかったのか?あの診療所の連中が只者じゃないってことに。


 「アックス君、君が言ったその診療所から俺は来たんだ。そこのアックス君が会った看護婦さんを問い詰めれば、あんたらの言う敵ってのがどこにいるか…分かるんじゃないか?」


 「そうじゃな」


 ということで、俺はアックス君と共にあの診療所に戻ることになった。その標的の手がかりがあの診療所にあるかもしれないし、いるかもしれない。

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