第6話決死の逃亡
俺は鏡に映った俺を見て別人だということに気付いた。今までの経緯を確認してみよう。俺は父さんの墓前で天候が変わったのに気付いてとっさにお寺に駆け込もうとした。そしたら雷が落ちてきた。それに俺は直撃した。気が付いたら俺はこの男の意識としていた。生まれ変わったのか?ありえない。ゲームの世界の主人公をいつもうらやましがっていたのは、あれは所詮、他人事だったからなのかもな。いまは愚痴ってる場合じゃないわな。とにかくここから逃げないと。
ん?逃げないと?コレはもしかして俺の潜在意識ではなくて…、〝彼〟の直感なのではないか?
俺はトイレのどこかに逃げられそうな穴がないか、くまなく調べた。すると、一番奥の大便所にだけ人が通り抜けられそうな窓があるのが分かった。しかし、窓を少しあけて外を見るとすぐそばに見張りと思われる人が立っていた。よく見ると服の上からも分かるくらい筋肉質の頑丈そうな身体をした男だった。
コイツはやばいと感じた俺は、作戦を立てた。
トイレのドアを閉めた状態で俺は看護婦を呼んだ。
「お姉さーん、お姉さーん…」
診療所の全員に聞こえるくらい大きな声で看護婦を呼んだ。
「どうしたの?あたしの補助が必要そう?」
「あたしの補助が…」っておいおい、この患者記憶喪失になってからそんな「ムフフ♡」な体験をしてやがったのか…。うらやましい…、いやいやいまはそれどころじゃ…ないやろ。
「いや、そうじゃなくて…実はこのトイレのドアの鍵をさっき締めたんだけど、開けようとしたら開かなくなって、壊れたっぽいんだよねぇ〜。こじ開けようにも、俺…力がないからさぁ、開けて欲しいんだけど、多分コレ俺が言うのもなんだけど、男手が必要だと思うんだよね。だからワイオネル先生だっけ?あと用務員の人とか呼んで、ここ開けてくれない?」
「そうなの…、あとで業者の人を呼ぶからもう少しそこにいてくれるかしら?」
そうきたか、もう一押し。
「残念だな〜、早くお姉さんの補助だっけ?受けたいんだけどなー。頼むよ」
「あなたもいじわるね、早く言ってよ〜呼ぶわね」
ライオネル先生を呼びに行ったようだ。これで窓前のふとマッチョ君もいなくなってくれれば…と恐る恐る外を見てみると彼も診療所の中に何事かと入ってきているのが目視できた。トイレのドアの向こう側からライオネル先生らしき応答があった。
「ナシュリー君、いつも言ってるだろう…。トイレのドアは締めると壊れやすいから鍵をかけちゃダメだとね」
彼の名前はナシュリー君か、カッコイイやん。まあ俺も芥人(アクト)だから、負けてねぇけど。
「あー、ライオネル先生。いつもすいません。」
「分かったなら、いいんだ。もともと記憶喪失だと現在の記憶も薄れてくる副作用があるのだろう…」
記憶喪失後の副作用?なんだそれ?ナシュリー君の意識が俺をここから逃げさせようとしているのは何かあるからかもしれない。何かは定かじゃないけど。
俺は物音が立たないようにそっと大便所の窓から片足をだした。そぉ〜と…そぉ〜と、向きを変え、うしろむきで、そぉ〜とトイレに残っている片足を静かにあげたつもりが窓枠にガチャンと当ててしまった。窓枠の音に気付いてしまったライオネル先生と看護婦そしてあのふとマッチョは鍵の壊れたドアを勢いよく蹴り破った。
バァーーーーーーーーーーーンッッ
俺はライオネル先生なる人・看護婦・ふとマッチョと目が合ってしまい、俺は引っかかった足を素早く抜き、うしろを振り返らずに懸命に走った。走って走って走って走って走ってなおも走って走って走って…。
ようやく撒いた気がした俺はその場に座り込んだ。
はぁ…はぁ…はぁ……はぁー…はぁ
診療所にいたあの3人が、はじめっから蹴り破る力があったということに心底、恐怖をおぼえた。スパイ映画やちょっと過激な元軍人がドアを蹴破るのはよく見たものだが、あれはもう…マジかよ、としか言いようがない。言葉が見つからない。とはいえ、あんな連中を撒いた?はず…ない…な。と思った俺は立ち上がって誰かに助けを求めようととにかく必死になって走った。
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