第2話不登校
俺は学校に行かなくなった。テレビをつけると自宅のドアが外から映し出されていた。別のチャンネルでは父が犯行に及んだ経緯など犯罪心理学者や元警察関係者や被害者家族の会代表の人がいろんな意見を述べていた。さらに別のチャンネルでは窓側からのアングルを放送していた。窓は外から見えないように、カーテンを閉めていた。そもそもいきなりのことだと説明したのだが、実は前説がある。
父が警察に連行される前日。任意で事情を聞きたいと警察官が訪ねてきた。その日はすぐに返されて、父も「ただの確認だった」と、「何も心配することはない」とも言っていたので、母も俺も安堵していた。だけど次の日、父は連行されてしまった。心の準備ができていなかった。母は父が連行される時、最後まで父にしがみついて離さなかったという。母は引き剥がされたようだ。
この件で母は鬱のようになり、しばらくの間は母の実家へ帰ることになった。俺はというと、自宅を手放して高校はもう行かずに大学に次年度から行くことで一人暮らしを始めようと計画している。
大学へ行く前にしばらく猶予があったから俺は父が拘束されている留置所に会いに行った。
面会室で父に面会した。
「芥人、母さんは元気にしてるか?」
「元気だ、と言いたいけど、母さんは苦しんでるよ」
「そうか…」
「父さんはほんとうにやったのか?」
「…………」
「父さん、前日父さんは確認だけで心配いらないって言ってたよな?だから俺も心配せずに学校へ行けた。でも帰ってきたら絶望したよ、世間の認知がいきなり容疑者の息子っていうことになってたんだから」
「…………」
父さんは俺に対して黙秘を続けていた。
「何か言ってくれよ、父さん。もしやってないならやってないでもいいじゃんか。」
「…………」
黙秘は続けていた父さんだったか、俺の問いかけに少し父さんの気持ちが揺らいだ気がした。何かうちに秘めた悲しみ?のような、後悔しているような、言い表せようのない、気持ちのようなものを。
「……芥人、これだけは覚えていてほしい。俺は母さんとおまえのことを世界の誰よりも大切に思ってる。今までも…、これからも…、芥人…忘れないでくれ、父さんみたいな立場の弱い人間がいるってことを、母さんや芥人みたいな、不幸にならなくていい人間が世界にはたくさんいるってことを。俺は母さんと芥人を一生愛してるから…、今日はもう帰りなさい」
それが父さんと俺の最後の時間になった。俺が帰宅して、1週間後。父さんは隙を見て自決をはかったそうだ。テレビでは〝容疑者の突然の死に〟という題で、大々的に報道された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます