2-2 田舎の港町
「ハーフェンに到着したので、錨を下ろします」
「領主の城からの迎えの馬車は、もうアスディス様を待ってるみたいです」
船が寄港地に着き、若い船員たちの声が勢いよく甲板から響く。
アスディスは胸元をクリーム色のレースで飾った藍色のドレスを風に揺らし、船首楼から身を乗り出しながらその声に応えた。
「わかった。じゃあ私は船を降りるから、舷梯の準備をお願い」
手すりの木枠を握り、船の上から到着地を見下ろせば、赤い煉瓦の屋根に白い漆喰を塗った壁が際立つハーフェンの町並みが見える。
ハーフェンはユルハイネン聖国の中でも有数の港町であり、周囲の寒村とは違って人のにぎわいが一応はあった。
国土の大半が不毛な土地であるユルハイネン聖国の民は貧しく、富裕層のほとんどは王の一族が作ったいくつかの都市だけに住んでいる。
ハーフェンもそうした都市の一つであり、道をゆく人々の姿は比較的小綺麗な身なりをしていた。
(だけど所詮は領土が広いだけの劣等国。見ごたえのある大聖堂とか、趣味の良いお屋敷とか、そういうものはなさそうだな)
宿や商店が立ち並ぶ町並みを見回しても印象は平凡で、特に目を惹かれるものはなかった。
世界中の都市を見ているアスディスは目が肥えているので、田舎の港町程度では心は踊らない。
そんな辺鄙で魅力のない街にアスディスが来たのは、父オグニの指示があったからである。
隣国と戦争中のユルハイネン聖国に武器を売るために、ハーフェンの領主である王子ヨアヒムに会って貿易の契約を取り付けろと、オグニは手紙に書いて送ってきたのだ。
武器を売ることに何の疑問を持たないアスディスは、父の指示に素直に従った。
自分の暮らしのすべては父の稼業のおかげだなのだから、逆らう理由はどこにもなかった。
「アスディス様。こちらに本日の書類を入れておきました」
侍女のダラが後ろから呼びかけて、商談に必要な書類が入った鞄をアスディスに渡す。
「うん。それじゃ行ってくる」
アスディスは船首楼から降りて、鞄を受け取った。
これまで苦労をしたことがないアスディスは、何事も上手くいく自信を持っている。
だから曇りの天気でも晴れやかに勝ち誇った気分で、アスディスは船員が下ろした舷梯から地上に降り、ハーフェンに足を踏み入れた。
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