第十九話 集合

 コンドルの鳴き声が空の彼方へと吸い込まれていく。青空にコンドルの黒い影が楕円を描いて飛び回っていた。コンドルは旋回して地上のある一点へと滑空した。

 地上では馬にも牛にも見える図体の大きな動物の背に乗ったアマンダの姿があった。

「ジェット!」

 アマンダがコンドルの名前を呼ぶ。ジェットはアマンダが差し出した左腕をがしっと掴んで着地した。

「いいぞ、ブラスト。そのまま真っ直ぐね!」

 アマンダは馬なのか牛なのかわからないその動物にはブラストと名付けた。きっとコピアの影響で生まれた新種なのだ。牛のように体は大きいが人を乗せることに抵抗がないところは馬のようだった。

「チチチ……チチ……」

 アマンダの胸ポケットから顔の丸いリスのような動物が顔を出す。

「ポップ、お腹空いたの? じゃあこれあげる」

 アマンダはカバンに入れていた木の実をリスのポップに2粒渡す。

 ニッキーと別れ1人になったアマンダは動物達に囲まれてウェイストランドを大冒険した。リヴォルタの旧研究所を目指しつつ、ウェイストランドの現状を見て回った。驚いたのは人間が居住不可能と判断した場所でもその土地に適した新種の動植物が生まれ、たくましく生きていることだった。今更コピア汚染など怖くないアマンダは動物達が食べている草や木の実を食べ、水たまりの水を飲んで飢えを凌いだ。身体への影響は今のところなさそうだった。

 アマンダは前方の山脈の手前に建物があるのを確認した。おそらくあれがリヴォルタの旧研究所だ。やっと視認できる距離まで近づいた。

 オフサルマパティはここに来ればコピアの全てがわかると教えた。アマンダはそれを信じてここまできたのだ。

「どうしたの? お前達」

 ブラストが急に立ち止まって旧研究所と逆方向に行きたがった。ポップも胸ポケットの中に入り丸くなってしまった。ジェットはアマンダの腕から離れ、後ろの地面に着地する。

 動物達は旧研究所に近づきたくないようだった。その異様な怯え方はやはりあの旧研究所には何かあるのだとアマンダは考えた。

 アマンダはブラストから降りて数歩前に出た。ポップが慌てて胸ポケットから出てブラストの背に飛び移る。

 ブワッと冷や汗が出てきた。ゾクゾクするこの感じは今までに感じたコピアの気配とは性質が異なっていた。

(近づくな……)

 旧研究所に滞留するコピアがそう伝えようとしているようにアマンダは感じた。

「いいよ、お前達はここにいて。あそこに用があるのは私だけだから」

 動物達はアマンダを引き留めようと鳴いた。だが、アマンダは振り返らなかった。アマンダにはコピアガンナーとしての使命があるのだ。

 肌にざらつくほどの濃いコピアを感じながら、アマンダは旧研究所へと向かった。


*      *     *


 ウォルトとリズは朝からチーフガンナー室に呼び出されていた。

「来たのね」

 サルサはなるべく明るい口調で声をかけた。

 浮かない顔のウォルトとリズは何故2人だけに招集がかけられたのだろうと聞きたそうにしていた。

 サルサはピートの隔離で精神的にも落ち込んでいる2人を呼び出すことに抵抗がないわけではなかった。しかし、いつまでも2人の仕事を保留にしておくわけにもいかない。ちょうどいい任務が入ったのでサルサは2人を抜擢したのだ。

 サルサはディスプレイに旧研究所の監視システムのデータを映し出した。

「これは今朝の旧研究所の監視システムのデータです。侵入者の痕跡が残されています」

「それって、まさか――」

 リズが呟く。

「アマンダ・ネイルの可能性が高いでしょう」

 サルサが先に答える。

「アマンダが旧研究所に一体何しに?」

 ウォルトは懐疑的だ。

「わかりません。放浪中に偶然建物を見つけて入ったということも考えられるでしょう」

「でも、あの場所は……」

「そうです。ウォルトが考えている通り。あの場所のコピア濃度が異常に高いことはコピアガンナーなら誰でも感じ取れます。かなりのコピアの素質が見込まれているアマンダがそれに気付かず旧研究所に入るわけがありません。何か目的意識があってあの場所へ向かったと思われます」

「何のために……?」

「ウォルト、あなたが旧研究所に行ってアマンダを説得し、ここに連れてきてください」

「了解しました」

 ウォルトは不安を隠せないでいるがしっかりした声で返事をした。

「リズ」

「はい」

 リズも少しは元気が出てきたようだった。

 サルサは自分のタブレットからリズのタブレットへマニュアルのデータを転送した。

「旧研究所から半径2km以内のエリアを満たしているコピアは事故の原因になった未制御の旧タイプのものです。不活化しているため人体への影響はないとは思いますが、コピアガンナーではないあなたには入場許可を出すことができません」

「わかっています」

「あなたには旧研究所の半径2.5kmの地点でウォルトの補佐をしてもらいます。監視システムを活用してウォルトの捜索を手伝ってください。万が一あなたが旧研究所に入らなければならない状況に陥った場合、この防護服の着用を義務付けます。今あなたの端末に使用マニュアルを転送しました」

「確認しました」

 リズは防護服が保管されている場所と保管ロッカーから取り出す時のパスワードを見る。

「旧研究所の監視システムのアクセス許可もエリザベス・マキリのIDで出してあります」

「ありがとうございます」

「2人共、いいですか」

 サルサに言われ、ウォルトとリズは背筋を正す。

「ピートがいなくて不安な気持ちはわかります。ですが、あなた達はこれまで通りリヴォルタの所属の人間として働いてもらわなければなりません。ピートが安心して戻って来られるようにあなた達がしっかりしなければならないのですよ」

「お気遣いありがとうございます」

 ウォルトはこんな時、未成年とは思えない丁寧な受け答えをする。本来ならまだ子供らしく兄弟や友達と学校へ通っているはずのウォルトを頼らなければならないことにサルサは胸を痛めていた。と、同時に、生きていくために己に課せられた試練は乗り越えなければならないという思いもあった。

「旧研究所は本来、コピアガンナーでさえ立入を許可されていない危険な区域です。事故を引き起こした旧タイプのコピアは私達コピアガンナーでも適合せず、制御不能のまま放置されています。リズは旧研究所内のコピアの活性度を常に監視してください。これ以上は危険と判断された場合、ただちにウォルトを引き揚げさせること。アマンダが見つからなかった場合でも。いいですね?」

「はい!」

 ウォルトとリズは大きな声で返事をした。

「アマンダの健康状態が心配です。速やかに任務を開始してください」

 ウォルトとリズは会釈すると踵を返し、颯爽とチーフガンナー室を出て行った。


*      *     *


 ピートのいない車内は静かなものだった。

「旧研究所は新研究所より複雑な造りの建物になってるんだな」

 ウォルトは後部座席に座り、リズのタブレットで監視システムの建物の3D映像を見ている。

「各所に設置されたセンサーの反応で人がいるかどうかを判断するのね。地図上のランプが赤く光った所が人が通った場所。緑の所は誰も通ってない場所。下の時間メモリを左右に動かすと反応があった場所の変化が見られるでしょ?」

「ああ、うん」

 ウォルトは指でメモリを動かしながら早朝から現在までゆっくり戻していく。赤く光った所が旧研究所の入口から事故現場までの道を示す。直後、全てのランプが点滅して消えた。

「ん?」

 ガタンと大きく車体が揺れた。大きな岩を踏んづけたのだ。

「いって!」

 2人の後ろからデカい声が聞こえてきた。

「今のって……?」

 嫌な予感がしたリズは車を止めた。

 リズが車のトランクを開ける。中にはピートが乗っていた。

「何やってるんだ、お前!」

 これにはさすがのウォルトも声を荒げた。

「アマンダ探しに行くんだろ? 俺も連れてけよ」

「バカなこと言ってないで帰れ! リハビリはどうしたんだよ!」

「あ? もう大丈夫だよ。ほら、車壊さないでちゃんと乗れたぜ?」

「ふざけてる場合か! 降りろ! このバカ!」

 ウォルトはピートの腕を引っ張ってトランクから引きずり出す。ピートは力加減をコントロールしてウォルトに怪我させないようにゆっくりトランクから出てくる。

「いいか、これから行く場所は普通じゃないんだ。コピアガンナーでさえ普段は立ち入れない旧研究所なんだよ! 今のお前が行っていい場所じゃないんだ!」

「うるせえな。でも、アマンダはそこに入っちまったんだろ? だったら行くしかねえじゃねえか」

「だからコピアガンナーとして僕が行くって言ってるんだ」

「堅物が説得してどうにかなる相手なのかよ、あの子は?」

「そういうお前こそ何なんだよ。アマンダのことになると何でそんな積極的に任務についてくるんだ?」

 ピートは押し黙った。手をブラブラさせ目をあちこちに向けながらやっとの思いで口に出した。

「あの子は昔の俺に似てる……」

 ウォルトはその答えに口をつぐんだ。ピートはちらとウォルトの目を見る。それだけで兄弟はわかり合ったようだった。

「わかったよ。じゃあついてこい」

「サンキューな」

 リズを見ると何故か頬に血の気が射してすごく嬉しそうだった。

「アンタ達はやっぱりこうでなくちゃね! ピート、乗るなら運転の邪魔しないでよね!」

「車壊れたら俺が2人共担いで行ってやるよ」

「僕達車に乗ってるから車ごと引っ張れよな」

「おい、俺の怪力をどこまで過信してるんだよ」

「その辺のデカい岩投げられるくらいには」

「そうだけどよ」

 ピートがいて車内がいつもの賑やかな状態になった。いつもはうるさくて任務の邪魔だと思っていたが、リズは何故だかこの騒がしさに安心感を覚えていた。


*      *     *


 旧研究所のうす暗い廊下をウォルトとピートは忍び足で歩いていた。

「おい、ここ暖房ねえのかよ」

「あるわけないだろ。嫌なら帰れ」

「はーい、すいませんでした。もう文句言いませーん」

「ウォルト、ピート。こちらリズ。聞こえてる?」

 ウォルトのスマホからリズの声が聞こえてくる。

「聞こえてるよ。ちょっとノイズ多いかもしれないけど」

「大丈夫ね。今どの辺にいるかわかる?」

 ウォルトはすぐそばのドアの上方に取り付けられた看板を懐中電灯で照らす。埃や蜘蛛の巣などで読みづらくなった表示をウォルトは読み上げる。

「ドクター・カーネル・なんとかさんの研究室にいる」

 リズは監視システムで場所を特定する。

「ドクター・カーネル・スパニエルの研究室だね。了解。合ってる」

 リズはウォルトが口頭で伝える現在地と監視システムの赤いランプがついた地点を照らし合わせる。

「なあ、全く人の気配がしないんだが、本当にアマンダがいるのか?」

「動物達は旧研究所には近づかない。だとすれば人間と考えるのが妥当だ」

「でもねぇ……」

「何だ?」

 リズは現在時刻から2時間前までの監視システムのデータを指でスクロールして何度も確かめる。

「私達が来る1時間以上も前から反応が途絶えてるのよ。もしかして、もう旧研究所内にはいなかったりして」

 ウォルトとピートは無言だった。

「どうする? 一旦帰る?」

 ウォルトは返事をしなかった。何かを考えているようだった。

「おい、ウォルト。どうした?」

「ピートが出てくる前に監視システムを見てたんだ。その時は真っ直ぐこの通路を通って事故現場の第三実験室まで赤いランプがついてた。そうだろ?」

「そうだね」

 リズはさっきからずっとその時間の記録を見ているので即答した。

「第三実験室のランプが赤になってから少しして、一瞬全てのランプが消えるだろ?」

「待って、確認する」

 数秒後、リズの絶句した声が聞こえてきた。

「何だ? 俺だけわかってないんだけど」

まぬけな声を出すピート。

「あくまで可能性の話だけど――」

 ウォルトはコピアガンを構えながら言う。

「監視システムがハッキングされてるかもしれない」

 リズがウォルトを遮って続けた。

「来た!!」

 ウォルトは何かの気配を察知してコピアガンを撃った。


*      *     *


 アマンダが旧研究所の敷地内に入った時にはもう正午を過ぎていた。真冬とはいえ遮蔽物のないウェイストランドの空気は暖かい。もう少ししたら上着を着ていると少し暑いくらいだろうとアマンダは思った。

 壊れたフェンスの扉を通って旧研究所の建物の中へと入って行く。ゾクッとする冷気がアマンダを取り囲んだ。コピアの気配もさらに増していた。寒さと埃臭さとザラザラしたコピアの感触で鳥肌が立った。アマンダはコピアの濃い方へと進んで行った。

「アマンダ・ネイル! 何やってる!!」

 廊下の端から声がした。アマンダは瞬間立ち止まって声のした方へ目を向けた。今の声は聞き覚えがある。あの黒人の男子だ。名前はピートと言ったか。

 アマンダは咄嗟にピートのいる反対方向へ走り出す。

「おい、待てよ!」

 ピートも全速力でアマンダを追いかけてきた。今のピートの身体能力ならアマンダに追いつくなど造作もない。アマンダの3倍以上のスピードで走り抜けてきたピートはアマンダを壁に追い詰めた。

「待てっつってんだよ!」

 ドゴォッと壁のコンクリートが砕け散る。

「ひぃっ……」

 アマンダは横目で壁を見た。コンクリートの壁にピートの拳がめり込んでいた。

「もう逃げられねえぞ」

 アマンダは身を縮こまらせた。目の前でとんでもない怪力を見せつけられて動けるほどアマンダは無謀ではなかった。

「あなた、毒のある虫に刺されて死んだのだと思ってたけど」

「俺がそう簡単に死ぬと思うか、あの程度で」

「一緒にいたウォルトってコピアガンナーの力でしょ?」

「ちゃんと名前覚えてんのかよ」

「あなたの名前も覚えた。ピートでしょ」

「そうだ」

 ピートはニヤっとする。アマンダは顔を背ける。

「別に覚えたくて覚えたわけじゃないし」

「ああ、そうかよ」

 ピートは残念そうな声で言う。

「で、お前これからどうするつもりなんだ?」

 アマンダは返答しなかった。敵に自分のことを教えるやつがいるのか。

「ここにいたらお前も危ないぞ。アマンダ・ネイルの名前で戸籍を調べさせてもらったが、お前はまだ15歳未満じゃないか。コピアガンを持っていい年齢じゃない」

「勝手にそんなことまで」

「俺はリヴォルタの職員だからな、バークヒルズの人間の情報はアクセス許可下りてんだよ」

「私はリヴォルタの邪魔になるようなことするつもりない」

「ここにいるだけで大迷惑なのにか?」

「何でよ。ここにはもう誰も来ないじゃない」

「誰も来ないんじゃない。入っちゃいけねえんだ。お前が勝手に入ったから俺らが出動することになったんだろうが。ま、俺は勝手についてきたんだけどよ。朝っぱらにウォルトが呼び出し喰らうってことはなんかあるなと思ってこっそりな。そしたらアイツ、めちゃくちゃ怒ってよ」

「ちょっと、何の話?」

「何のって、お前がここにいるからチーフんとこに連れてこいって言われたんだよ」

「朝から?」

「ああ、そうだよ。朝一でチーフガンナーから呼び出しだ。人使い荒いよな、あのキャリアウーマン」

「それ、私じゃない」

「あ?」

「私はさっきここへ入ったの」

「マジかよ?」

 ピートは状況が飲み込めず固まった。


*      *     *


 その日、バークヒルズではいつも通りの日常が繰り広げられていた。アマンダがいなくなった町は穏やかだ。ギャングは目障りな妹の相手をする必要がなくなったし、町の人はいきなりコピアガンを目の前で撃たれる恐怖がなくなった。アマンダがいなくなったことで半年間のいざこざに区切りがついたかのような空気が漂い始めていた。一部の人間以外はアマンダに関心を寄せることもなくなり、話題に上ることもなくなった。

 アトラスは寝起きから寒気がするので薬をもらいにギャング病院に行った。その程度の診察では医師免許を持った誰かに見てもらうことはできない。いつも忙しくしている医者の代わりに看護助手の誰かが薬棚にある症状に合いそうな薬を渡すだけだ。アトラスがギャング病院に来たと知ると、ジェシーがアトラスのために薬を取りに行った。

「どうせ武器庫で寝て風邪でも引いたんでしょ」

 ジェシーが薬の数を数えている間、ジェシーの見張りをしているコーディがアトラスを茶化す。

「だよね。目が覚めた時全身がキンキンに冷えてたもん」

「アトラス兄さん、体弱いんだからちゃんとベッドで寝なきゃダメだっていつも言ってるじゃないか」

 ジェシーも会話に割って入る。その様子はいつも通りのちょっと甘えた弟だ。仕事中は嫌な事を忘れて穏やかに過ごせているようでアトラスはほっとする。

「でも、眠れないんだよ。ベッドだと快適過ぎて」

「何なの、その体質」

「小さい頃、難民キャンプで育ったからだろうね。小綺麗な場所は落ち着かないんだ」

 ジェシーが紙袋に薬を入れてアトラスに渡す。

「とりあえず3日分ね。というか、もう残り少ないし、次の搬入の時まで他の人のために取っておかなくちゃいけないから、3日で治してね」

「まあ、3日あればなんとかなるよ。ありがとう、ジェシー」

「うん、薬飲むならちゃんと食事取ってからね」

「はいはい」

 アトラスは薬の紙袋片手にギャング病院を後にした。ジェシーとコーディは時計台の鐘が正午を告げるのを聞いた。

「もうお昼じゃん。どんだけ朝寝坊なんだよ、アトラス兄さん」

 ジェシーは呆れた声を出した。

「だって、アトラス兄さんだぜ?」

 コーディの一言にジェシーは噴き出した。最近、コーディはよくアトラスのことを小バカにする発言が多い。だがそれは尊敬の裏返しなのだとジェシーは知っている。ハーディ、ローディ、コーディのグラス3兄弟はアトラスの情報収集能力と人望の厚さを間近で見てきた。そのアトラスの直属部隊で働けるのは名誉なことなのだ。

「僕らもお昼食べようか」

「うっし、そうすっか」

 ジェシーとコーディはギャング病院を出て宿舎の食堂へ向かった。ジェシーはアマンダを追い出したあの日以来、落ち着いて食事をするべきだと感じて毎食きちんと食堂で食べている。

「今日の昼飯、何だと思う?」

 コーディは腹が減っていたのかウキウキした口調で話す。

「いつも通りのスープとパンだと思うよ」

 一方のジェシーは素っ気ない返事だ。

「そりゃそうだろうけど、具材が違ったり、パンの種類が違ったりするだろ」

「グリーンピースが入ってなければ僕は何でもいいよ」

「お前さあ、22歳にもなってグリーンピースが食べられないのもいい加減にしろよ」

「あとカリフラワーもスープが変になるから嫌だな」

「どういう理屈だよ。カリフラワーおいしいじゃんか」

「ブルブルしてるのが気持ち悪いんだよ。野菜なのに野菜らしくない」

「好き嫌いするな、もう」

 コーディは遠くから車のエンジン音がするのを耳の端で捉えた。何気なくその方角を見遣る。COCOの黒塗りの車がこちらに向かって走ってきていた。

「おい、なんかCOCOが来てるぞ」

「え、何で?」

 その日、COCOが来る予定はないはずだった。ジェシーも戸惑いながら車が向かってくるのを茫然と見た。

 車は2人の前で止まった。ジェシーは窓を覗き込んで誰が来ているのか確認しようとする。突然扉が開き、ジェシーは顔にスプレーをかけられた。

「うわっ!」

「ジェシー!」

 催眠スプレーをかけられたジェシーはその場に倒れ込んだ。コーディはジェシーの異変に気付くが、自身も催眠スプレーをかけられ眠らされた。

 2人は車に押し込められた。全てが終わると、車は何事もなかったかのように来た道を戻り、バークヒルズから出て行った。

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