第3話 神木

歩き始めて30分、目の前に大きな神木があった。


「これが神木か……」


僕の声が森の中で反響してくる。

隣で明美が手を合わせてお祈りを始めた。

何を願ってるの?何してるの?

周りを見るとみんなが手を合わせていた。

この流れに乗っかって僕も手を合わせて目を閉じた。


『今年は誰だ?』


神木から声が聞こえてきた。

今年は誰だって何のこと?


「明美、何が始まるの?」


僕は耳元で小さな声で明美に聞いた。


「これから神様が選ばれるんだ。

くじ引きで当たりを引いた者が今年の神様として、神木から命を与える力を分け与えられる。その代わり寿命を失うらしいよ」


という事は僕にも明美にも神様になるチャンスがあるって事か。寿命が半分奪われるのか。

まあそれでも50年は生きれるだろう。


「これからこの大きなくじを1人1回引きに来てください」


みんなが一斉にそのくじに向かった。

この街の住人は3万人。その中の1人しか神様にはなれない。そんな確率当たるはずがない。

当たったらそれは奇跡だ。


僕たちは人混みが減るのを待ち、最後に引きにいった。でも、不思議なことに、「神様になった」とか「寿命が減るよ」などの言葉が一切聞こえてこなかった。という事はまだ残ってる……。僕は恐る恐るくじを引いた。

その棒には何も書かれていなかった。

という事は……。


「今年の神様は水野明美さんです。おめでとう」


「ありがとうございます……」


明美の顔がいつもより暗くなった。

寿命が減る。どれだけ減るかは分からない。

もしかしたら明日、死ぬかもしれない。

そう思うと、怖くなってきた。


「水野さんにはこの神木の中に入ってもらいます」


「行ってくるね」


その言葉と共に明美は神木の中に入っていった。それから1時間が経った。

僕はずっと神木だけを見つめていた。

意識も遠くなっていた。


「……ないよ。早く……ろ」


途切れ途切れに村長の声が聞こえてきた。

何を言っているのか?何があったのか?

その瞬間、僕の目の前に黒い煙が見えた。

意識が戻り、前を見ると神木は燃えていた。


「危ないよ。早く逃げろ」


「明美……。大丈夫か?」


明美は帰ってこない。

昼の空に暗黒の煙が浮かび上がった。

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