「椿くん、今回も何と言ったら……その……体は……」

 大元は不安そうな、申し訳なさそうな表情をしながら尋ねる。

「そんな顔しないでくださいよ。もう大丈夫ですから」

「お前な、大丈夫じゃなかっただろ!?あれからなかなか起きない、すぐ眠る、体調不良になる、熱まで出て、おまけに珍しく記憶の混乱まで起きたんだぞ!?」

 横から鷹斗が口を出す。

「そ、そんなに体調不良に……。本当に申し訳ない……」

「あ、いやあの……こいつが勝手に言ってますけど、しんどかったのって三日ほどなんで……」

 椿が取り繕うとするも、無駄だった。

「それより、これで今回の事件は全て解決したってことでいいんですよね?永野の件、鷹斗から聞きました?」

「ええ。全て聞かせてもらいました。彼女に娘の姿を見せたところも全部……。永野さん、あれから一度うちに来て、謝っていったんですよ。申し訳なかったって。あんな犯人……いや、あんな方は初めてです……」

 大元がそう言う。

「あ、四十住さ~ん!今回は長かったですけど、大丈夫でした?」

 土屋が駆け寄ってくる。

「ええ。もう平気です」

「良かった。四十住さんがいないから、松風さん怖かったんですよ?仕事しててもいつも携帯気にして、椿は大丈夫かな……ってぼそぼそ……痛っ!ちょっと何するんですか!?」

 土屋は背中を押さえるようにして振り返る。大きな手のひらを土屋に見せながら立つ鷹斗がそこにいる。

「何で背中……」

「頭は殴るもんじゃないからな。背中にした俺に免じて、それ以上その口を開くな」

「だって本当のことじゃないですか~……」

 まだ口を閉じない土屋の腕を思いきり引きながら、鷹斗は部屋の隅へと彼を引っ張っていく。

「あはは……うちは事件さえなければ平和な部署です……」

 呆れてそれ以上言えない大元を、椿はうなずきながら「確かに……」と呟いた。

「まあ、とりあえず事件が無事に解決してよかったです。大元さん、俺のこんな能力でよければいつでもお貸ししますから、気にせず言ってくださいね。使わないともったいない能力ですから」

 彼はそう言った。



 警視庁を後にし、椿が向かったのは教会だった。

「加賀美……迷惑かけて申し訳ない……」

「迷惑だとは思ってません。ですが、ご自分の体を守れるのは自分だけだと、分かっておいですか?陽行さまも何度も仰っていたではないですか……」

 加賀美はため息交じりにそう話す。

「分かってる。でも……放っておけないんだよ……」

「あなたの能力は、人を助けます。ですが、ご自分の……」

「加賀美、それ……誰にも言うな。絶対に……いいな?」

 そう釘をさす椿。

「……不服ですが……椿さまのご意思に従いますよ……。それより体はどうです?」

「倦怠感が強いくらいであとは何もない……。ただ……」

「ただ……なんです?」

 椿は胸をさすりながら「能力を使うと、たまに動悸がするんだ……これは……能力のせいなのか?」と尋ねる。

「椿さま、あなたにこんなことを言うのは気が引けますが……あなたも知っての通り、物事には代償があります。あなたの能力には、生命を削るという代償が……。能力を抑えてください……それしか方法はありません……」

 加賀美はうつむきながら説明する。

「だよな……悪いな、加賀美……。じゃあ、帰る前に父さんに会ってくるよ」

 椿は診察室を後にし、教会の裏にある陽行のお墓へと向かった。

「あ、おにいちゃ~ん!」

 子どもの声が聞こえる運動場。半年前に来た時には十人は超えていた子どもたちも、いつの間にか半分にまで減っていた。

「お~、菜々子ちゃん。久しぶりだね!今日も元気じゃん……ん?どうした?心は元気ないね……」

「康太くんが里親に行ってね……寂しくなっちゃったんだ……」

 自分も何度も経験した出来事。

 今日遊んでいた子が、次の日にはいなくなる。

「俺もさ、経験したことあるよ。何度も何度も仲間を見送ってきた。なのに自分のところには迎えなんて来ない……。でも安心して、菜々子ちゃんには優しい家族ができるよ」

「……本当に……?」

「ああ、もちろん。お兄ちゃんは嘘ついたことないだろ?」

 小さな手が、椿を握りしめる。

「うん!そうだったね!あ、ちょっとだけ遊んでよ!」

 椿は彼女に手を引かれ、運動場へと走った。

「加賀美先生、お疲れ様です……。あの……、あの彼は誰です……?」

 運動場で子どもたちと遊ぶ椿を、診察室の窓から見下ろしていた加賀美。看護師資格を持つシスターに声を掛けられ、隣に立つ人物に目をやる。

「ああ、お疲れ様です。彼は、うちの卒園生ですよ……家族には恵まれませんでしたが、先代が大切に育てられました……。彼の名は四十住椿と言いましてね、今の四十住家当主に……。いい子なんですよ……なのに……」

 シスターは「ええ。確かにとてもいい青年ですね。子どもたちもあんなに懐いて……」とほほ笑む。

「あ、先生に一つご連絡が。また一人、うちに子どもが来ることに……」

 彼女は悲しそうに話す。

「そうですか……うちにくる子も後を絶ちませんね……」

 彼はシスターから資料を受け取り、運動場にいる椿を一瞥した。

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