幕間

 あいつがここへ来たってことは……まさか俺に気付いたか……?

 いや、気づくはずない。俺は男だ。

 医者ですら俺の本当の姿を分かってない……あいつが気付くはずは……。

 なのに、なぜ……お前は笑ってるんだ……。

「あんた……どっかで見たことあるけど……誰だ?」

「あ……俺は四十住です。お会いしたことはありませんが……」

 本当に俺のことに気づいてないのか……こいつ……のか……一体どうやって……。

「以前、警察官をしていらっしゃったとか。刑事さんだったんですか?」

 いったい何の意図があってそれを聞いてくる……?

「凶悪事件を担当するところですよね。何か印象に残ってる事件あります?」

 こいつ……まさかカマをかけてるのか……?

「そうだな……強いて言えば、誘拐事件……かな」

 だったら俺がお前のことを動揺させて、全てを読んでやるよ……。


 俺とお前の攻防戦の始まりだ……。


「……どんな誘拐事件だったんです?」

 ほら、来ると思った。

「神隠しだよ。……」

 これでお前も判断がつかないだろう……。俺の今の状態……記憶の混乱と精神錯乱、これが嘘だと気付くはずがない……。医者を騙せているんだ……お前ごときが気付くはずない……。

 ほら、かなり焦ってる。分かるぞ……お前の気持ちが……考えが……。ちょっと遊んでやろうか……。

 俺は目の前に手を持っていき、指を絡ませる。わざとお前を見たまま、手を絡ませ……お前の心を読む。

 まだな……そのバリアを解けよ……。

「なんだ……何かが邪魔して……お前は誰なんだよ!おい、そこにいるんだろ!出て来いよ!俺の邪魔をしやがって、昔からずっとだ!お前は目障りなやつだ!」

 俺はそう叫んだ。ほらな……お前の考えが全部流れてきた。

『こいつ……まさか……全て演技か……?』

 マジかよ……医者ですら簡単に欺けるのに、やっぱりお前は凄い奴だ……これだからお前はいたぶりがいがあるってもんよ……。

 あ、東……お前はまた俺を眠らせるのか……せっかくいいところなのに……。


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