「二人が繋がってる!?それどういうことだよ……」

 椿は真剣な表情のまま、鷹斗を見つめる。

「俺が感じたこと……いや、俺の推理を聞いてくれるか?」

 彼はそう言って話し始めた。

「永野は、何らかの方法で吉川に接触したんだと思う。そして、それには真壁も関係してる。永野は娘を失った。相当なダメージを負ったはずだ。そして精神のバランスを崩す。これは海野からもらった資料に書かれていたんだが、永野は娘を失ったのち、三か月間あの病院に入院していたんだ。だが、三か月したときに突然、精神バランスが戻り、退院している。ここまでは資料に書かれていたことだ。そしてここからは俺の推測。入院時に何らかの方法で吉川と接触。娘を生き返らせる方法があるとそそのかし、今回の事件に発展したんじゃないかと俺は思ってる。吉川は前に比べれば弱いが、確実に元に戻りつつある……術者に完全に術を掛けるのは厳しかったんだ……」

 椿はそう説明した。

「もしお前の推理通りだとして、お前ならどう永野に近づく?」

 しばらく考えたあと、椿は口を開く。

「俺なら……負の感情を感知し、強引に近づく。そして目が合えば分かる。この人に何があったのか……って。永野を視ればいい。視たあとに、娘を生き返らせたくないか?方法がある。娘が死んだときと同年代の子どもを用意しろ。そしてこれを唱えながら、これをその子供の胸に置け。とでも言って、死返玉とまじないを書いた紙を渡す」

「でもその勾玉ってそんな簡単に手に入るのか?」

「いや、無理だ。本物はある場所で厳重に管理されて結界の中だ。でも、用意するのはいわゆるレプリカでいいんだよ。重要なのは生き返らせたいという強い気持ちとまじない。そしてそのレプリカに込められるだけの力が術者にあればいいんだ。それができるってことは、吉川は完全に失ってないということになる」

 鷹斗は何とか話についていった。

「じゃあ、もしそれが本当だとして……永野は吉川の指示通りに娘を生き返らせようと……。あの家にあった子供服についていた血痕はどう説明する?」

「鑑識結果は?」

「もう出ると思うけど……」

「あれが勇気の物でなければ、美空の。美空の物でなければ……永野のってことになる」

「何で……?」

「生き返らせるには何かと必要なんだ……だが、それをしないのが理性の働いた人間だから……俺だって……本当なら父さんを……」

 消えるような声で呟く椿。鷹斗はそんな彼の背中にそっと手を当てた。


 翌朝、椿と由衣は異捜ルームにいた。

「鑑識結果が出ました!」

 土屋は朝から室内を走り回っていた。かなり忙しいようだ。

「どうだった!?その血液は誰のだ!?子どもか!?」

 大元は矢継ぎ早に尋ねる。

「この血痕は女児の物です。そして提出してもらった、永野美空のDNAと血痕が一致、間違いなく美空の物です」

「今、勇気くんは?」

 椿が尋ねる。

「入院中です。怪我も体調も問題ありませんが、念のため検査を受けてもらって、異常がなければ退院となります」

「真壁さんは?大丈夫なんでしょうか……」

 由衣がそう尋ねると、鷹斗は「今日来てもらうことになってる。昔のことも含めて、永野の話が本当か裏付けが必要だから」と説明した。

「あともう少しで事件解決になる。何としてでも我々で解決するぞ」

 大元がそう言う。捜査員はしっかりうなずいた。


 そして昼過ぎ、異捜ルームに真壁がやってきた。

「皆さん、本当にありがとうございました……おかげで息子は無事に……」

「怪我もなく保護出来て良かったです。真壁さん、電話でもお伝えしましたが……いくつかお話があります。確認したいこともございますので、お時間良いですか?」

 大元がそう言い、彼は真壁を連れて小会議室へと連れて行った。

 声が聞こえるように、離れたところにパーテーションを。もちろん、その裏には椿が座っている。

「真壁さん、あなたは永野由紀さんを知っていますよね?」

「もちろんです。息子の担任の先生ですから……」

「それだけじゃない。あなたは彼女の家に行ったことがある。覚えてませんか?」

「私が……?彼女の家に……?いいえ、覚えてません……あの、私はどういった理由で家に……」

 表情、話し方からして本当に覚えていないようだった。

『嘘はついてない。本当に覚えてないんだ。話してやれ』

 椿はインカムを通し、そう伝える。それを聞いていた大元は鷹斗が話す前に、自ら話を切り出す。

「あなたは、永野由紀さんの自宅に二回訪れています。一回目は、家を建てるときに。二回目は改装の時に……。思い出しましたか?」

「建てるときと改装の時……あっ!思い出しました……永野さんご夫妻が、新居を建てる際に依頼を……。で、娘さんがお生まれになり、空いている部屋を子供部屋にしたいからと改装の依頼をくださいました」

「そうです。その時に永野由紀に知り合いました。ただ、問題はそのあと……。娘さんがお亡くなりになったんです。それにあなたが関係しています。覚えてませんか?」

「永野さんの娘さんがお亡くなりになった……?それに私が関係しているとはどういう……」

「彼女の娘さんが家の中で不慮の事故に遭った。あなたはそれに遭遇して、あなたが救急を呼んだんです。……覚えてませんか?」

 大元が不審な目を向ける。だが、真壁は全く動じず、首を横に振った。

 おかしい……なぜ覚えていないんだ……。会ったことは忘れていたとしても、救急に通報したことまで忘れるか……?何かの力が働いているんじゃ……。

 椿は記憶の引き出しを開けていく。

 家の改装を頼んだ後、真壁と話したのは……“ああ。思ってた以上に希望通りだ。料金はいつもの口座に振り込んでおく。あ、そういえば最近見かけなかったが、なんかあったのか?”俺がそう聞いた。真壁は“あ……、おかげさまで依頼が増えまして。出張やらで地方に行くことが多かったんです”と返事を……。

『出張に行ったか聞いてくれ。行ったと答えれば、どこに行ったのかを……』

 そう伝える。大元が話を終えたタイミングで鷹斗が割入った。

「そういえば、家の改装をお願いした時にお忙しそうでしたが……出張に行かれたんですか?」

「あ、ええ。おかげさまで依頼が増えまして、出張やらで地方に行くことが多かったんです」

「どこに行かれたんです?」

 鷹斗はそう続ける。だが、真壁は急に黙り込んだ。

「真壁さん?」

「どこ……でしたっけ……あれ、おかしいな……」

 頭を抱える真壁。

「やっぱりな……」

 パーテーションの裏から、椿が現れた。

「……椿さま……」

「真壁さん、あんた……父さんに会わなかったか……?」

「陽行さま……ですか?それならお会いしていますが……」

「いや違う。永野の自宅の改装を終えたあとだ。会ってないか?」

 真壁は考え込む。必死に思い出しているのだろう。

「……あ、会いました!私……陽行さまに……」

「術を掛けてもらったんだな……父さんに。多分〈忘却の術〉を掛けてもらってる。あんたは永野の娘を殺してはない。だが、永野由紀に問い詰められ心身ともに限界だったんだ。それを見た父さんはあんたに術を掛けた。だから思い出せないんだ。でも、今わかった。永野がどうしてあんたの息子を狙ったのか……」

 椿はそう言う。

「永野は、あんたが忘れてることに腹を立てたんだ。あんたの息子が小学校に上がり、何の因果か永野が受け持つことになった。あいつは動揺しただろう。だが、あんたは永野を忘れている。息子を頼むと、永野に言った。無意識のうちにあいつを傷つけていたんだ。それにあんたは気付いてない。永野の怒りや苦しみは限界まで来た。その時に自分が入院中に会ったある人物のことを思い出した。そして、あんたの息子をさらったんだ。だが、傷つけるなんてできず、ただ一緒に過ごした。その証拠に俺が会った勇気くんは元気で、楽しそうだった……。だが、勇気くんと過ごすうちに娘に会いたくなり、娘の魂を呼び起こし勇気くんの体の中に入れようとした……そんなところだろう……」

 鷹斗をはじめ、捜査員は何一つ話すことなく黙って聞いていた。

「勇気が誘拐されて事件に巻き込まれたのは……私のせいですね……」

「いや、違う……。あんただけのせいじゃない……」

 椿はそう言って、再びパーテーションの裏に戻った。

「椿さん、大丈夫ですか?」

 由衣に声を掛けられ、ただ頷くしかできなかった。

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